◇◆ Liam ◆◇
いつの間にか日が変わっていた。そうして今日も、既に日が傾き始めている。
昨日救急搬送されてきた患者は、突然魔法がコントロールできなくなり大けがをしかけたとのことだった。一命をとりとめたものの危険な状態が続いており、今日の昼過ぎにようやく容体が安定したところだった。
…安心したのも束の間、さらに立て続けにもう1件別の緊急オペが入り、つい先ほどまで手術をしていた。窓の外のオレンジ色の光を見て、夕刻を実感したところだ。
丸2日ほど全く寝ていないが今はエリックと話がしたい……ロンによると、エリックは昨日少し様子がいつもとは違ったとのこと。彼は《共同魔法研究所》でジル先生に連れられて、関係者立入禁止区域へ入っていったようだ。あそこは……ジル先生以外に入っていく者を、私も見たことがない。ロンの腕も治してやりたかったが、立て続けの緊急オペで、まだ会えていない。
今のエリックのメンタルでジルに会うのは、危険だと感じる。
ジル先生は……。
……
なんとなく嫌な予感がする。座ればすぐにでも眠ってしまいそうだが仮眠をとっている時間が惜しい。
指示書を書き、少し離れる、と看護師に告げた後、術衣からスーツに着替え病院を出た。
行くとしたら、あの場所だろうか
しかし病院の玄関口に出た時、異様な空気を感じた。
…………この気配は……
急いだほうがいい。
『mou
間に合ってくれ……!
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◇◆ Eric ◆◇
昨日のジル室長の反応で確信した。冥界は存在する。
昨日の夜は悩んで、悩んで、結局ほとんど眠れなかった。
お父さんもお母さんも、ノアもロンも大好きだ。
だけど……だけど僕はもう、非魔術師が、許せない。大っっ嫌いだ……!
僕たち魔術師は、魔力で魔術師か非魔術師か、わかる。この世界は、圧倒的に非魔術師の方が多いんだ。非魔術師なんかいない世界ならよかったのに……なんて。願ったところで変わらない。
それならもうこんな世界……
……。
冥界にはきっと非魔術師なんていない。
そして……大好きな兄さんがいる。
兄さんが、僕の救いなんだ
……
…
" Ave Maria "
どうか、僕を、兄さんに会わせてください
僕は、大好きな兄さんがいれば、それでよかったんだ
…
……
みんな、ごめんなさい。
僕は、兄さんのいないこの世界では生きていけないよ……
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◇◆ Noah ◆◇
学校の宿題が終わって、俺は大聖堂に向かっていた。
夕方、白い雲をオレンジ色の太陽が綺麗に照らしている空を見た時、一瞬、強い風が吹き抜けた。
青々と茂った緑の葉がざわざわと揺れ、微かに魔力の揺れを感じた。
……俺には分かった。これはエリックだ。
なんでだよ……なんで、あいつまでいなくなるんだよ
エリックお前……わざと天に召されたんじゃないのか…?
お兄さんの後を追って
夕焼けが綺麗だったこの日、エリックとその魔力は、この世から消えてなくなった。