目次
ブックマーク
応援する
7
コメント
シェア
通報
ep.1-6 ◇ Secrète de Noah 《ノアの秘密》

◇◆Noah◆◇


礼拝堂での先生たちからの話を聞いてエリックが心配になった俺は、礼拝堂から教室への移動中、ロンに声をかけた。


「やっぱり今朝のニュースとエリックが休みなのって関係あるのかな。先生も『本校生徒の兄弟』って言ってたし……なぁロン、放課後エリックの様子を見に行こうぜ」

「そうだね、僕も気になってたんだけど……でも、今日も《共同魔法研究所》で魔力の《検査》があって。お休みできないから、その後でもいいかな」

「もちろん。じゃあ家で宿題やって待ってるよ」

「わかった。終わったら行くね」


そんな約束をしたけどロンはなんとなく元気がない。

ロンは何か知っているのかな。あいつもいつも一人で抱えがちだから時々心配になる。


そんな俺の心配を見抜いたのか、「大丈夫だよ」ってふわっと笑うから、俺はいつもつられて笑ってしまうけど、ロンお前、本当は大丈夫じゃないんだよな?最近、昔よりあまり笑わなくなったのを俺は知ってる。




俺とロン、エリックは、物心ついたころからの幼馴染だ。

ロンは小さいし髪も肌も真っ白で見た目儚げなくせに、実はすっごい負けず嫌いなんだよな。多分、あいつのいいところ。

芯が強いっていうか、いい意味ですごく、真面目。ダメなことはダメって言うし、一度決めたことはやり通す。自分よりでかいやつにもひかないのは、俺も、意外だと思った。


……普段は、いつも笑ってふわふわしたんだけどな。

今も穏やかなのは変わらないけど、最近はずっと何か考え事をしているようだ。

特に《検査》の日は目に見えて元気がない。



エリックは、絵にかいたような真面目。

切りそろえた紺色がかった黒髪をサイドパートで分けていて、漆黒の瞳とその髪色はお兄さんのフレデリックさんとも同じなずなのに、温厚なお兄さんとは対照的にエリックは少し神経質そうな雰囲気をしている。エリックは幼稚園も学校も休んだことがなくて、先生の言うこともきちんと聞いて、時々融通がきかないところもあるけど、物凄くいい奴。

そんで、お兄さんが大好きだったんだよな。エリックからはよくフレデリックさんの話を聞いた。

だから……もし今回 《天に召された》のがフレデリックさんだったらって思ったら……


……


心配だ



「ねぇ、ノア」


歩きながらロンが話しかけてくる。


「《天に召される》って、結局どういうことなんだろう」

「それなー。俺は違う世界に行く、に一票」

「《天界》があるってこと?」

「そう。だって俺たちはそう信じてるだろ」

「そうだね。そうだと……いいな」


なんとなく煮え切らない感じの、ロン。

何か続けようと思ったんだろうけど、違う話を振って来た。


「魔術師の《特殊魔法》……って、不思議だよね」

「なんだよ改めて。俺はまだ《基本魔法》しか使えないけど、どんな魔法が使えるようになるんだろうな〜」

「ノアならきっとかっこいい魔法だよ。『俺が皆を守る!』って。ねぇ、《特殊魔法》がこの世界の構造の《秘密》を握ってるって、ほんとかな」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て、なんだよ今の。ロン、俺のモノマネ下手だな〜」

「えっ……えぇ、そうだった?ごめん……って、いや、そこじゃないよ重要なのは」



ちょっと照れ隠しをしながらぷんすかと怒るロン。身振り手振り付きの俺のモノマネは大概似てない。いつもこんな調子で、それも本人は至って大真面目だから俺はいつも笑ってしまう。



「はは、悪い悪い。で?《特殊魔法》と世界の構造の《秘密》の話?」

「そう。世界を混沌から救う鍵は《特殊魔法》に秘められてるかもって」

「……誰が言ってた?」

「リアム先生だよ。お医者さんの。僕たちが基本魔法の他に《特殊魔法》を使えるのは何か理由がある、みたいなことを言ってた」

「リアム先生……」

「《特殊魔法》と《世界を混沌から救う》鍵って、なんなんだろう。やっぱり天界はあるかもしれないってことかなぁ。ノアの特殊魔法も、どんなのが発現するのか楽しみだね」

「俺が皆を守る!って」

「あ!ほら、そっくりだったでしょ」

「違うよ、今のはお前のマネ!」



二人してあははと笑った。

なんとなく、先ほどまでの不安な気持ちは少し落ち着いていた。



……だけど、俺とエリック、ロンの間には深い関係がある。ただの幼馴染、という以上に複雑な関係が。

魔術師が抱える《秘密》……それは想像以上に奥が深くてややこしい。それは今ロンが言ってた《特殊魔法》と《世界の構造》の秘密にも関係がある。


言いたいけど言えないこと、絶対に言ってはいけないこと、本当は隠していたくなんかないのに


ごめんな、エリック、ロン。俺は話していないことが沢山ある。これは「」だから、言えないんだけど。

だけど俺は知ってる。もうすぐ世界が動き出すことを。



俺は、意味を持って生を受けた

みんなどうなのか知らないけど、俺には生きるためにはっきりとした《理由》と《目的》がある。

……そしてそれらはすべて《秘密》に起因している


俺の使命……それは……


…いや、今こうしている時間が大事だから、俺たちはたわいもない話をしながら教室へ戻った。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?