à la chapelle
- 礼拝堂にて -
◇◆Noah◆◇
礼拝堂についてもずっとざわざわしていた。
「今朝のニュースのことかな」
「きっとゼノ様のことだよ!」
「ゼノ様ってほんとにいるのかよー」
「お前なーそんなこと言ったらいけないんだぞ」
「召されるって、何したんだろうな」
「あー、みなさん、静粛に。」
先生の言葉で静かになる礼拝堂。
「みなさん、今朝のニュースは見ましたか。えー……単刀直入に話しますと、本校生徒のご兄弟が、昨夜、天に召されました。」
礼拝堂がどよめく。
「みなさんご存知の通り、魔法使用に際しては色々な約束があります。
【一度に膨大な魔力を使ってはいけない】
【人道に反した使い方をしてはいけない】
【非魔術師に対し
など、様々ありますね。私たちの魔法使用用途は、魔法を司る神であるゼノ様がいつも監視しています。我々の魔力は、ゼノ様が与えてくださったものだからです。」
聞きなれた言葉。ことある事に、先生たちはこの話をする。
「もしそれを破ったらゼノ様の怒りに触れ、魔法剥奪と共に天に召されます。今回はえー……騒動に巻き込まれた魔術師の一人が、非魔術師に対して魔法を使用したことが原因だったそうです。
どんな理由であれゼノ様のルールは絶対です。魔法の使用目的の善悪にもよらないのでみなさん、くれぐれも注意するように。以上。では、祈りを捧げましょう。」
礼拝堂内がまたしてもざわざわする。
「もしかしてエリック……?」
「違うよ、本校生徒の
「じゃあエリックのお兄さんが?」
「だから今日休みなのかな」
「ゼノ様……使用用途によらないって怖いよね」
「やっぱりゼノ様っているんだ……!」
……周りはエリックやゼノ様の話で持ち切りだ。
《天に召される》ことは俺たち魔術師が一番畏れていることだから。
ここは絶対的な神が支配する世界。神の定めたルールは絶対で、誰もそれを覆すことはできない。
そして生も死も混然一体となった混沌の世界は、厳密には全部が全部、そうじゃない。
俺たち魔術師にとって《天に召される》ことは即ち《死》だ。この世界から完全に消えてしまう。
だけど《天に召される》ことが、どこか別の世界に行ってしまうのか、消失してすべてが終わりなのか、本当のところは解らない。もしかしたら、ゼノ様の元へ連れ去られるのかも……と話す人もいるが、そもそもゼノ様がどこにいるかも、誰も知らない。
でも非魔術師たちの《死》とはまた少し異なるんじゃないかって話だ。彼らは死後もこの世界を彷徨ったままだ。ハルが死者が視えるっていうのは、多分そういうこと。
……だから俺たちは死後の世界に《天界》があることを信じている。そこには天使がいて、楽園のような世界だと教わる。ゼノ様は、もしかしたらそこにいるのかな。
「なぁ、ノアー」
クラスのやつが小声で話しかけてくる。
「ノアはさ、先生の話どう思う?やっぱりエリックが休みなのって、天に召されたのがエリックのお兄さん……ってことなのかな」
「うーん。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。今日休みなのもたまたまであってほしいけどな」
「だってエリック今まで一度も休んだことないのに」
……そう、一度も休んだことないエリックだから、余計に心配なんだよな。
だけど。
「エリックだって風邪くらいひくよ」
「まぁ……それはそう。あいつ頭いいし」
「お前と違って?」
「うるせー」
「ははっ」
そんなこと喋ってたら、先生に「そこ、静かに」と注意されてしまったので一緒に黙る。ちぇ。
エリック……そうは言うものの、心配だ。
そもそもゼノ様って、一体何者なんだろうな。
漠然とした、この世界の神。誰も見たことはないけれど、絶対的な神様として君臨していて、ルールを犯したら俺たちを罰する存在。
………。
こうして結局何もわからないまま、俺たちは今日もまた《マリア様》に祈りを捧げる。
天に召された人の魂も、俺たちの魂も、きちんと天界に導いてください。
俺はちらりとロンを見た。
小柄で透き通りそうな程真っ白なあいつは、いつも通り静かに祈りを捧げていた。
……ロンも、最近あまり元気がないんだよな。
《マリア》と噂されているからというよりも、もしかしたら《共同魔法研究所》で行われている《検査》が原因かもしれない。検査の日は目に見えて元気がないから。あそこで行われているのは、多分、