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ep.1-5 ◇ A la chapelle 《礼拝堂にて》

à la chapelle

- 礼拝堂にて -


◇◆Noah◆◇


礼拝堂についてもずっとざわざわしていた。

「今朝のニュースのことかな」

「きっとゼノ様のことだよ!」

「ゼノ様ってほんとにいるのかよー」

「お前なーそんなこと言ったらいけないんだぞ」

「召されるって、何したんだろうな」

「あー、みなさん、静粛に。」



先生の言葉で静かになる礼拝堂。



「みなさん、今朝のニュースは見ましたか。えー……単刀直入に話しますと、本校生徒のご兄弟が、昨夜、天に召されました。」


礼拝堂がどよめく。


「みなさんご存知の通り、魔法使用に際しては色々な約束があります。

【一度に膨大な魔力を使ってはいけない】

【人道に反した使い方をしてはいけない】

【非魔術師に対し魔法を使ってはいけない】

など、様々ありますね。私たちの魔法使用用途は、魔法を司る神であるゼノ様がいつも監視しています。我々の魔力は、ゼノ様が与えてくださったものだからです。」



聞きなれた言葉。ことある事に、先生たちはこの話をする。



「もしそれを破ったらゼノ様の怒りに触れ、魔法剥奪と共に天に召されます。今回はえー……騒動に巻き込まれた魔術師の一人が、非魔術師に対して魔法を使用したことが原因だったそうです。

どんな理由であれゼノ様のルールは絶対です。魔法の使用目的の善悪にもよらないのでみなさん、くれぐれも注意するように。以上。では、祈りを捧げましょう。」



礼拝堂内がまたしてもざわざわする。



「もしかしてエリック……?」

「違うよ、本校生徒のって言ったじゃん」

「じゃあエリックのお兄さんが?」

「だから今日休みなのかな」

「ゼノ様……使用用途によらないって怖いよね」

「やっぱりゼノ様っているんだ……!」



……周りはエリックやゼノ様の話で持ち切りだ。

《天に召される》ことは俺たち魔術師が一番畏れていることだから。



ここは絶対的な神が支配する世界。神の定めたルールは絶対で、誰もそれを覆すことはできない。


そして生も死も混然一体となった混沌の世界は、厳密には全部が全部、そうじゃない。

俺たち魔術師にとって《天に召される》ことは即ち《死》だ。この世界から完全に消えてしまう。


だけど《天に召される》ことが、どこか別の世界に行ってしまうのか、消失してすべてが終わりなのか、本当のところは解らない。もしかしたら、ゼノ様の元へ連れ去られるのかも……と話す人もいるが、そもそもゼノ様がどこにいるかも、誰も知らない。


でも非魔術師たちの《死》とはまた少し異なるんじゃないかって話だ。彼らは死後もこの世界を彷徨ったままだ。ハルが死者が視えるっていうのは、多分そういうこと。


……だから俺たちは死後の世界に《天界》があることを信じている。そこには天使がいて、楽園のような世界だと教わる。ゼノ様は、もしかしたらそこにいるのかな。



「なぁ、ノアー」


クラスのやつが小声で話しかけてくる。


「ノアはさ、先生の話どう思う?やっぱりエリックが休みなのって、天に召されたのがエリックのお兄さん……ってことなのかな」

「うーん。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。今日休みなのもたまたまであってほしいけどな」

「だってエリック今まで一度も休んだことないのに」


……そう、一度も休んだことないエリックだから、余計に心配なんだよな。

だけど。


「エリックだって風邪くらいひくよ」

「まぁ……それはそう。あいつ頭いいし」

「お前と違って?」

「うるせー」

「ははっ」


そんなこと喋ってたら、先生に「そこ、静かに」と注意されてしまったので一緒に黙る。ちぇ。


エリック……そうは言うものの、心配だ。

そもそもゼノ様って、一体何者なんだろうな。

漠然とした、この世界の神。誰も見たことはないけれど、絶対的な神様として君臨していて、ルールを犯したら俺たちを罰する存在。


………。


こうして結局何もわからないまま、俺たちは今日もまた《マリア様》に祈りを捧げる。



天に召された人の魂も、俺たちの魂も、きちんと天界に導いてください。



俺はちらりとロンを見た。

小柄で透き通りそうな程真っ白なあいつは、いつも通り静かに祈りを捧げていた。



……ロンも、最近あまり元気がないんだよな。

《マリア》と噂されているからというよりも、もしかしたら《共同魔法研究所》で行われている《検査》が原因かもしれない。検査の日は目に見えて元気がないから。あそこで行われているのは、多分、

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