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ep.1-2 ◇ A la cathédrale 《大聖堂にて》

à la cathédrale

- 大聖堂にて -


◇◆ Haruハル ◆◇


アヴェ・マリア 恵みに満ちた方

主は貴方のお導きの元で祝福されています

神の聖主導者マリア

わたしたちのために、

今も、死を迎える時も、お祈りください。

アーメン。



フランス・パリにある、ここは街で一番大きな大聖堂。

彫刻やステンドグラスの装飾が美しい、重厚なゴシック様式の建物はとても神秘的で正に聖域のよう。


私はハル・ルロワ。魔術師の小学生。



窓からはとうに夕陽の朱が消え、祈りを捧げ終わった、そんな時。何かが弾けたような、不思議な風が吹き抜けた……気がした。


それはこの大聖堂でよく会うお兄さん、ノアくんも同じように何かを感じたらしい。彼は、

ミルクティ色の柔らかそうな髪をセンターパートに分けていて、淡いセレストブルーのぱっちりとした瞳に長い睫毛とつり眉は、どこか意志の強そうな印象を与える。

……ざっくり、運動神経のよさそうなクラスの人気者、というイメージ。


前に学年を聞いた時、私とそこまで変わらないのに、背が高く整った顔立ちのためにもっとお兄さんだと思っていたのでビックリした記憶がある。


「ノアくん」


私は話しかけてみた。


「今……何か、感じなかった?えっとその……おばけ……とか……?」

「おばけ?……あぁ、そっか、ハルはんだったよな。でも多分今のは違うと思うな。魔力が弾けた、みたいな、そんな感じだと思う」

「ふぅん……そっか……」

「怖い?」

「えっ、あっ、ううん。そんなんじゃなくて……大丈夫、ありがとう」

「お母さんのとこまで一緒に行ってやるよ」



ノアくんは優しい。この大聖堂のことをよく知っているように見える。



……この世界は混沌に満ちていて、生者も死者も同じ世界にいる。

本来生者と死者は干渉することはできないし、互いに見えない……ものらしい。でも、私には『』。


でも、別に「視える」だけ。私は魔術師じゃないよ。霊感が強い、みたいな……そういう体質。

だけどそれには少し不思議な規則みたいなものもあるの。


おばけじゃなかったらなんだろう。

もしかして、これが『warlock黒魔術師』……だったら、ちょっと怖いな……。




「ノアくん、さっき言ってた『魔力が弾けた』って、どういうことなの?もしかして『warlock黒魔術師』 とも関係ある?」

「うーん……それとも違うんじゃないかなぁ。上手く言えないけど」



ノアくんは優しい魔術師さん。

だけど、中には『warlock』……つまり、『黒魔術師』と呼ばれる、ちょっと恐ろしい魔術師さんもいるんだって。

何かどう恐ろしいのか……それは昔からそういうもんだって教えられるだけで、詳しいことはよく分からない。まるで、御伽噺のよう。

だけどみんな、口を揃えてこう言う



warlock黒魔術師には、近づいてはいけないよ」と



でも、warlockの実態を知っている人は少ない。本当にいるのかもよくわからない。

ノアくんと何気ない会話をしながら一緒に歩いていたら、入口付近にお母さんを見つけた。



「あ、お母さんだ」

「よかった。じゃあ気をつけて帰れよ」

「うん、ありがとうノアくん。おやすみなさい」

「おーまたなー。おやすみ」



そうしてノアくんと別れ、私はお母さんと一緒に帰路に着いた。



私は毎日こうして祈りを捧げに大聖堂を訪れる。それは、《マリア》様を信じているから。


……その昔、大預言者は『遠い未来、この世界をきちんとあるべき姿に導いてくれる者が現れる』と言った。

その方は祈りを捧げる抽象画として伝えられることが多い……通称、《マリア》様。

だから私たちはこうして毎日祈りを捧げる。



マリア様……本当に、現れるのかな。



この世界には、本当は《天界》という場所があると、みんな信じている。

その天界には優しい神様や天使様がいて、まるで楽園のような世界だと。信じていれば、死後たどり着ける場所。

私たちはそれをずっと信じてこれまで生きてきたけれど、ずっと生者と死者は同じ世界にいるし、この混沌は続いている。



……だけど最近よく耳にする噂。

もしかしたらこの混沌は、終わりを告げるかもしれないって。



そうしたら死者さんは見えなくなるのかな。



先程のノアくんとの会話……『魔力が弾けた』とは一体何なのか不思議に思いながら、私はお母さんと一緒にきらきらと星の瞬き始めた夜の道を歩いた。

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