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◆ Ave Maria ◆
はる
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年12月30日
公開日
3万字
連載中
舞台はフランス、パリ。
中世ヨーロッパの風情を残す美しいこの町は、世界と共に8年前、神々によって一度半壊している。

この、神の支配する残酷な世界に生きる人々にとって《救い》はあるのか


◆◇◆

※神話をモチーフにした描写やキャラクターが登場しますが、すべて創作でありフィクションです。

※話ごとに視点が冒頭◇◆___◆◇内のキャラクターに変わります。

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◆◇◆


群像劇が織りなす《秘密》をつなぎ合わせて行った時、明らかになる混沌の世界をお楽しみください‪

ep.1-1 ◇ Prologue

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" Ave Maria "


どうか、僕を兄さんに会わせてください

僕は、大好きな兄さんがいれば、それでよかったんだ


―エリック


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


……



― フランス・パリ郊外 ―


◇◆ Ericエリック ◆◇


「エリック、お疲れさん」


そう言って僕を迎えに来てくれていたのは、大好きなフレデリック兄さんだ。

紺色がかった癖のない黒髪をセンターパートにわけた兄さんは、頭も良くて魔法の扱いも上手い、優しい自慢の兄。


僕は今日、学校が終わった後魔力を測定するためにここ《共同魔法研究所》に《検査》を受けに来ていた。だけど今日はいつもよりも時間がかかって遅くなっていた。

今は7月。ここフランス・パリも随分遅い時間まで明るいけれど、まだ小学2年生の僕が一人で歩いて帰るには危ないからと言って、兄さんが迎えに来てくれていた。一人で帰るよりも兄さんが一緒にいてくれる方がずっと嬉しいから、検査後だけど疲れなんてどこかへ飛んで行った。



「エリック、今日の魔力検査はどうだった?」



兄さんは黒目の大きい漆黒の、優しげな瞳をこちらに向けながら僕に尋ねる。



「今日は魔力測定だけだったけど前とあまり変わらなかったよ。僕の前がロンだったみたいでさ、あまりに魔力が多いから測定する機械が壊れちゃったんだって。だから機械を直すのに時間がかかったみたい。ロン、すごいよね。僕と同じ2年生なのに」

「はは、ロンはなんというか、神秘的な力を秘めてそうな子だよね」



兄さんはそう言いながら笑う。ロンは僕の幼馴染で同級生だけど、ロンの魔力量は他と比較するまでもないくらい、とんでもなく多いらしい。大人よりも何倍も多いんだって。

本人は、どこにそんな力を秘めてるの?っていうような、肌も髪も雪のように真っ白で、小柄で儚げな見た目をしているんだけど。だけどその姿はまさに……



「ねぇ、兄さんもロンが《マリア》かもしれないって噂、信じてる?」

「うーん、そうだなぁ……ロンが《マリア》なら、世界は平和になりそうだよね。ほら、ロンは大体誰にでも優しいからさ。だけど確かに彼の《特殊魔法》は美しいと思うよ。手を合わせて祈るような姿はとても神秘的で、まさにマリアのようだ」

「……兄さんまで。ロンは、まだ小学生なのに」

「はいはい。エリックは、ロンがマリアだと言われるのがあんまり好きじゃないんだよな」

「だって……友達だもん」


僕が拗ねたって、兄さんはいつだって穏やかに聞いてくれる。


《マリア》……それは、『この世界をきちんとあるべき姿に導いてくれる者』と大昔の大予言者が残した者の名称。この世界の人たちはみんな、幼いころからそうやって教わる。だけどその一切は不明……なぜなら、その大予言は何千年も前から伝わるものだとすら言われているくらいに謎が多く、まるで御伽噺のようでもある。



《マリア》は、いつか現れるのかな。本当にロンがマリアなのかな。

……だとしたら、責任が大きすぎる。



ここは、生きた人も死んでしまった人も、魔術師も非魔術師も一緒に暮らす混沌の世界。だから人々はいつか《マリア》がこの混沌の世界から死んだ人々を正しく導いてくれるって信じてる。天国とされる、《天界》へ。


そしてその《マリア》や、混沌から世界を導く鍵は、僕たち魔術師の《特殊魔法》に隠されているらしいんだ。魔術師全員が使える《基本魔法》とは違って個々に秘められた、それぞれの特有の魔法。

……だけどその特殊魔法も、謎が多い。

僕はそんな《特殊魔法》に関して前から気になっていたことがあったから兄さんに聞いてみることにした。



「兄さん、特殊魔法って……」

「エリック、静かに」

「……?」



その時一瞬、全身がぞわっするような生暖かい風が木々の葉を揺らし、通り抜けていった。

兄さんと一緒に歩いているのに、道端にある公園はいつもよりも闇が深く、木々はうっそうとしている。いつもと変わらない景色なのになんとなく気味が悪い。


……そしてこの気味の悪さは現実を伴ってそこへ影を落とす。


カサッと音がした方に目を向けると、そこには2人の知らない男の人たちがいた。2人は兄さんの顔見知りだったのか、兄さんは彼らを「非魔術師だ」と言った。そして「エリック、さがって」、と。

そうして彼らは僕たちに近づいてきて、僕たちにこう尋ねる


「君たち、《特殊魔法》使えるよね」


……!!


突然、背の高い方が兄さんに襲いかかったかと思ったら気づいたときには僕は別のがたいのいい男に腕をつかまれていた。そうして、その後ろから男がもう2人。

……ぞっとした。彼らは2人組だと思ってたけど、実はいたんだ。

そんな……



突然の緊迫した状況に思考が停止する。

…………怖い………!


急に恐ろしくなって助けを求めるように兄に目線を向けると、兄さんの昏く冷静な眼差しは、僕を掴んだ2人の非魔術師の男たちを真っ直ぐに見ていた。



「エリックから手を離せ」

「……兄さん……」

「お前たち、《研究所》の人間だろう。俺は協力しないと言ったはずだ。エリックを巻き込むことは許さない」



一触即発のこの状況に身体が震えて動けない。僕は目は見開いたまま、指の先まで体が硬くなってしまったようだ。

……だけど、《研究所》って……?


僕をつかむ男の手に力が込められる。そして後ろから低い声が喋る。

「《特殊魔法》には、この世界の構造の鍵を握る秘密が隠されていると言うが《マリア》とも関係があるんだろう」と



すかさず臨戦態勢をとる兄。これは……魔法の詠唱を省く時の態勢だ。

なんで……この人たちは何者なの……?


だけど。


だけど、ダメなんだ、僕たち魔術師が非魔術師に魔法で攻撃することは。

……だから



「兄さんお願いやめて、非魔術師を攻撃なんてしたら兄さんは……!」



振りほどこうともがくも、僕の力では男たちは微動だにしない。

兄さんが一歩近づいたその時、男が制す


「おっと、下手な真似はやめた方がいいぞ。魔術師は俺たちに攻撃できないことなんか知ってんだよ……!……動くなよ、動けばこいつが……」と僕の後ろで喋りながら男が何かを取り出す気配がした。

だけど、何を言っているのかも、何を取り出したのかも何もかもどうでもいい



使



「お願い待って、兄さんが、ねぇ……っ、なんで……話し合いじゃどうにもならないの……?

魔法は絶対にダメだよ……っ!」



兄さんが何を考えているのかわからなくて、恐怖と不安で自分の心臓の音が聞こえるようだった。男たちの行動よりも兄さんの一挙一動から目が離せない。

暑さからではない、冷汗が流れ、落ちた。


兄と対峙した非魔術師の男の1人が、僕をとらえた男に向かって低い声で「連れていけ」と言った。

小学生の力なんかじゃ抵抗するもむなしく、そのままずるずると闇の方へ連れていかれる……かと思ったその時、兄の声が僕の耳に届いた。



「基本魔法……」

「兄さん、ダメだってば!!!」

「『eau』」

「……っ!!!」



……一瞬、眩い光に目を閉じる。

と同時に背後にバシャッと冷たい水を感じた。魔術師たちに集中的な水を降らせたのだ。



兄さん……どうして……



「うっわ、なんだこれ!」

「ただ濡れただけだろ気にすんな!」

突然の大量の水に慌てふためく男たち。



その一瞬、気を取られた男たちが僕を離した瞬間、立て続けに魔法を使う兄



「……『glace』」



全身びしょぬれになった男たちは濡れた部分から瞬時に凍っていった。僕はその隙に逃げて兄の後ろに隠れる。

だけど……!



「兄さん本当に魔法を使うなんて……っ……!」

「エリックを離せと言ったのに聞かないからだ。……お前たち、これ以上関わると言うなら今度は『flamme』で全身を焼く。魔法は怖いってことだ。わかったならもう二度とエリックに手をだすな。俺は……天に召されたとしても、お前たち《悪》を許すことはない」

「……兄さん!!!!!」



「……な、んだよ、こい、つ……!」

「くっ……そ、魔法……なん、か……っ」



男たちは凍ってしまってうまくしゃべれない様子……だけど彼らを無視して兄さんは警察に電話をする。

夏とはいえ、きっと体温の低下も著しいのかもしれない。だんだんと顔色が悪くなってきたように見えた僕は少しだけ心配になったけど、兄もわかっていたようだった。



「『Annulati解除on』」



兄さんの魔法解除と共に男たちは倒れ込んだ。遠くからはパトカーのサイレンも聞こえ始めている。

そのまま彼らは「お前なんか天に召されちまえ!」とか悪態をつきながらも、よろめきながら走り去っていった。



だけど……、だけど……!!!



振り向くと、穏やかな顔をしたいつもの兄さんがいた。

兄さんは、僕に優しい声で言う


「エリックごめんな、怖かっただろう。エリックは、俺みたいにはなったらダメだぞ」

「兄さん!!!」

「大丈夫、先ほど警察には連絡したから」

「……っ、そうじゃ……なくて……っ!なんで……?なんで魔法なんか使ったの……?」



そう言葉にして、ひとつの結論にたどり着く。

……僕のせいだ。

僕が、あいつらに捕まったりしたから

非魔術師なんか……っ



僕の混乱など置いてけぼりで、兄さんの体が白く光り始める

兄さんは僕を見て「エリックのせいじゃないよ」と言った。

そうして「エリックが無事で、良かった」と言って……笑った。


……兄さん…………


……っ…


…………。


……これはルール……神の定めた、絶対的なルール



誰も覆せない。誰も、兄さんが天に召されることを妨げることは、できない。

胸の奥が、目頭が、熱くなる。

僕たち魔術師はいかなる理由でも、非魔術師に魔法で攻撃しては、ならない。

……例えそれが、正当防衛だったとしても……ルールに背けば僕たち魔術師は神様によって《天に召されて》しまう。



「エリック」

「……っ、兄さん……っ」



気がつくとボロボロと涙が落ちていた。大好きな、兄さん



「エリック、おいで、」

兄はぼくをぎゅっと抱きしめた。

そして、僕にそっと耳打ちをする


「『___、 _____』


「……!」

「エリック、覚えておいて。そうして、お前の力で俺の伝えたかったことを、見つけて」



兄さんの声が遠くなり、光が強くなる

優しくてあったかい兄さん……



「兄さん……っ」




「エリック、元気でな」

「……っ、兄さん、いやだよ、天に召されるなんて……っ、お願い、行かないでよ!!!」

「エリック、・・・・・……。」


「兄さんーーーーーっ!!!!!」



身体の奥の奥から出た僕の声はむなしく反響するだけで、もう、届かない。

視界が真っ白になって、そして……風が吹き抜けると共に魔力が弾けた。

兄さんは、兄さん、は、……、天に、召されたんだ……



真っ白な光が収束した時には、兄さんは目を閉じそして……もう、息を、していなかった。

視界がゆがんで兄さんの安らかな顔がよく見えない



これが……天に召されると、いう、こ、と……



「あ、あ……、ああ……、う……っ、うわああああああああああっっっ!!!!!」








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