目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
いいわけ
鍵谷端哉
恋愛現代恋愛
2024年12月30日
公開日
2,577字
連載中
ブラック会社を辞めて、家に戻ってきた蒼馬。
そんなとき、同窓会の連絡が来る。
その同窓会には学生の頃にフラれた真壁みのりが来ることを知り……。

第1話

蒼馬そうま、同窓会があるんだけど、今回は出るでしょ?」


 電話越しにそう言ってきたのは、高校まで仲が良かった相沢あいざわつむぎだ。

 家でゴロゴロしてたところに、いきなり着信があったので、つい名前を確認せずに取ってしまったのが間違いだった。


「あー、いや、今年も仕事が忙しいからパス、かな」

「いや、あんた、今、無職でしょ」


 バレてる。

 ややブラック寄りの会社で働いていたが、過労で倒れたことを切っ掛けに退職し、実家に戻って来ていたのだ。


 もちろん、このことは地元に残っている知り合いにも教えていない。

 となると、紬に教えたのは母さんあたりだろうか。


 なぜか、仲がいいんだよな、あの2人。


「んー。行けたら行く」

「そう。わかった」


 俺がそういうと、紬は納得したように電話を切った。

 俺的にはもっと粘られるというか、行くとはっきり言うまで電話が続くと思っていたから、ちょっと拍子抜けだ。


 悪いな、紬。

 行けたら行くと言って、行く奴はいないんだ。


 それにしても、高校を卒業してから1度も行っていないのに、なんで、あいつは毎回、誘ってくるのだろうか。

 働いていた頃は、仕事が忙しいの一言で済ませていたのだが、無職となってしまった今ではその技が使えない。

 なので、行けたら行くということで切り抜けた。


 とはいえ、実は何回か、同窓会に行きたいと思ったことはある。

 久々に会いたい友達もいるし。


 でも、会いたいという気持ち以上に、会いたくない人がいる。


 真壁まかべみのり。


 高校の頃、本気で好きになって、人生で初めて告白というものをした。

 で、盛大にフラれたわけだ。


 本当に好きだったということもあり、かなり凹んだ。

 フラれてからは教室内でも、目を向けることができなかった。

 同じクラスだったということもあり、本当に辛かった。


 いわゆる、トラウマという奴になってしまったのだろう。

 今でも、あのときのことを考えると胸が痛くなる。


 そして、真壁みのりは毎回、同窓会に参加していると聞いている。

 だから、仕事が忙しいといういいわけをして、今まで避けていたのだ。


 まあ、今年も避けるわけなのだが。



 そして、同窓会当日。

 いきなり、紬が家にやってきた。


「……マジか」

「やっぱり……」


 パジャマ姿で出た俺に、紬は呆れたようにため息をつく。


「行けたら行くって時点で、行く気ないって思ってたのよね。だから迎えに来たのよ」

「……行きたくないってわかってるなら、放っておいてくれよ」

「情けないなー。そんなにみのりさんに会うの嫌なの?」

「うっ! なんでわかった?」

「なによ、フラれたくらい。あんただって、フッたことあるんだからお互い様でしょ?」

「いや、俺、フッたことねーし。てか、告白されたことないし」

「……あっそ。とにかく、早く準備しなさいよ」

「いや、だから行かねーって」

「あんたさー、いつまで引きずってんのよ。いい加減、前向けば? これからずーっとそのトラウマ抱えて生きていく気?」

「……けどさ」

「あー、もう、イラつく!」


 紬はそう言うと、俺の手を掴んで、ズカズカと家の中に入ってくる。

 そして、ほぼ強制的に、持っている服の中でコーディネートし、強引に同窓会に連れて行かれた。



「蒼馬くん、久しぶりー。元気してた?」


 同窓会会場で背後から声を掛けられ、振り向くとそこには真壁みのりが立っていた。

 最後に会ってから10年近く経つのに、真壁みのりだとわかる。

 随分と大人っぽくなっていた。


 まあ、当然だけど。


「ああ。真壁は? 元気だったか?」

「うん。めちゃめちゃ元気」

「……今って、何してるんだ?」

「専業主婦だよ」


 真壁みのりはそう言って、左手の薬指の指輪を見せてくる。


 既に結婚していたのか。


 だが、俺はそのことにあまりというか、全然動揺はしなかった。

 率直に言うと「あっそう」という感じだ。


「だからさー、普段はあんまり人と会えないから、同窓会が楽しみなんだよね」

「ははは。そうなんだ」


 真壁みのりとは普通に話せた。

 ごく普通に、自然に。


「あ、香織かおりだー! 元気してたー!?」


 俺と話している途中で、渡辺わたなべ香織を見つけて、真壁みのりが走って行った。


 ああ、あんな感じだったな。


 結構、自己中心的な性格の真壁みのり。

 10年経っても、あまり変わっていないらしい。


「意外と、平気でしょ?」


 そう言ってきたのは紬だった。


「ああ、そうだな」


 俺は今までいいわけを作って、同窓会に来なかったことを後悔したのだった。



 同窓会の2次会が終わった帰り道。

 紬は酔ってフラフラと歩いている。


「おい、危ないぞ」

「そう思うなら、支えてよー」

「……たく」


 俺は紬の手を握り、引き寄せた。

 間近で紬の顔を見る。


「お前、綺麗になったな」

「なにそれー?」


 俺も多少、酒を飲んだから酔っていたんだろう。

 思ったことがつい、口に出てしまった。

 昔は……いや、たった今まで紬は男友達みたいな感覚でいた。

 間近で紬を見るまでは。


「今更、私の魅力に気づいたの?」

「……そうだな」


 きっと俺は真壁みのりしか見ていなかった。

 真壁みのりが好きだといういいわけをして、恋愛というものから目を背けてたのかもしれない。


「あははは。フッたくせに、何言ってんだか!」

「は? フッた?」

「あー、やっぱり、告白したことに気づいてなかったかー」

「え? え? え?」

「そういうとこだぞ。どうせ、みのりさんにフラれてから恋愛してなかったでしょ?」

「う、うるさいな……」

「でも、私も一緒かなー?」

「なにがだ?」

「蒼馬にフラれてから、恋愛してこなかったの。ううん。フラれたことをいいわけにして、恋愛しようとしなかったのかも」

「……」

「もしかしたら、私が告白したこと、気づいてないかもって思ってさ。だから、確認したくて、毎年、蒼馬を同窓会に誘ってたんだよね」

「そうだったのか……」


 全然知らなかった。

 というか、今も必死に高校の頃を思い出すが、告白されたという記憶がない。


「……なあ、紬」

「なに?」

「俺と、付き合わないか?」

「ええー、突然?」

「あー、いや、ごめん。俺、酔ってるみたいだわ」

「なによ、今度はお酒をいいわけにする気?」

「うっ!」

「……いいよ。付き合ってあげても」

「……ホントか?」

「うん。今、私、酔ってるから」

「お前も酒をいいわけにするのかよ」


 俺たちは大声で笑った。

 10年のわだかまりを吹き飛ばすように。


 きっと近所迷惑だろう。

 だけど、今だけは見逃して欲しい。


 なぜなら、俺たちは酔っているのだから。


 という、いいわけだ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?