「
電話越しにそう言ってきたのは、高校まで仲が良かった
家でゴロゴロしてたところに、いきなり着信があったので、つい名前を確認せずに取ってしまったのが間違いだった。
「あー、いや、今年も仕事が忙しいからパス、かな」
「いや、あんた、今、無職でしょ」
バレてる。
ややブラック寄りの会社で働いていたが、過労で倒れたことを切っ掛けに退職し、実家に戻って来ていたのだ。
もちろん、このことは地元に残っている知り合いにも教えていない。
となると、紬に教えたのは母さんあたりだろうか。
なぜか、仲がいいんだよな、あの2人。
「んー。行けたら行く」
「そう。わかった」
俺がそういうと、紬は納得したように電話を切った。
俺的にはもっと粘られるというか、行くとはっきり言うまで電話が続くと思っていたから、ちょっと拍子抜けだ。
悪いな、紬。
行けたら行くと言って、行く奴はいないんだ。
それにしても、高校を卒業してから1度も行っていないのに、なんで、あいつは毎回、誘ってくるのだろうか。
働いていた頃は、仕事が忙しいの一言で済ませていたのだが、無職となってしまった今ではその技が使えない。
なので、行けたら行くということで切り抜けた。
とはいえ、実は何回か、同窓会に行きたいと思ったことはある。
久々に会いたい友達もいるし。
でも、会いたいという気持ち以上に、会いたくない人がいる。
高校の頃、本気で好きになって、人生で初めて告白というものをした。
で、盛大にフラれたわけだ。
本当に好きだったということもあり、かなり凹んだ。
フラれてからは教室内でも、目を向けることができなかった。
同じクラスだったということもあり、本当に辛かった。
いわゆる、トラウマという奴になってしまったのだろう。
今でも、あのときのことを考えると胸が痛くなる。
そして、真壁みのりは毎回、同窓会に参加していると聞いている。
だから、仕事が忙しいといういいわけをして、今まで避けていたのだ。
まあ、今年も避けるわけなのだが。
そして、同窓会当日。
いきなり、紬が家にやってきた。
「……マジか」
「やっぱり……」
パジャマ姿で出た俺に、紬は呆れたようにため息をつく。
「行けたら行くって時点で、行く気ないって思ってたのよね。だから迎えに来たのよ」
「……行きたくないってわかってるなら、放っておいてくれよ」
「情けないなー。そんなにみのりさんに会うの嫌なの?」
「うっ! なんでわかった?」
「なによ、フラれたくらい。あんただって、フッたことあるんだからお互い様でしょ?」
「いや、俺、フッたことねーし。てか、告白されたことないし」
「……あっそ。とにかく、早く準備しなさいよ」
「いや、だから行かねーって」
「あんたさー、いつまで引きずってんのよ。いい加減、前向けば? これからずーっとそのトラウマ抱えて生きていく気?」
「……けどさ」
「あー、もう、イラつく!」
紬はそう言うと、俺の手を掴んで、ズカズカと家の中に入ってくる。
そして、ほぼ強制的に、持っている服の中でコーディネートし、強引に同窓会に連れて行かれた。
「蒼馬くん、久しぶりー。元気してた?」
同窓会会場で背後から声を掛けられ、振り向くとそこには真壁みのりが立っていた。
最後に会ってから10年近く経つのに、真壁みのりだとわかる。
随分と大人っぽくなっていた。
まあ、当然だけど。
「ああ。真壁は? 元気だったか?」
「うん。めちゃめちゃ元気」
「……今って、何してるんだ?」
「専業主婦だよ」
真壁みのりはそう言って、左手の薬指の指輪を見せてくる。
既に結婚していたのか。
だが、俺はそのことにあまりというか、全然動揺はしなかった。
率直に言うと「あっそう」という感じだ。
「だからさー、普段はあんまり人と会えないから、同窓会が楽しみなんだよね」
「ははは。そうなんだ」
真壁みのりとは普通に話せた。
ごく普通に、自然に。
「あ、
俺と話している途中で、
ああ、あんな感じだったな。
結構、自己中心的な性格の真壁みのり。
10年経っても、あまり変わっていないらしい。
「意外と、平気でしょ?」
そう言ってきたのは紬だった。
「ああ、そうだな」
俺は今までいいわけを作って、同窓会に来なかったことを後悔したのだった。
同窓会の2次会が終わった帰り道。
紬は酔ってフラフラと歩いている。
「おい、危ないぞ」
「そう思うなら、支えてよー」
「……たく」
俺は紬の手を握り、引き寄せた。
間近で紬の顔を見る。
「お前、綺麗になったな」
「なにそれー?」
俺も多少、酒を飲んだから酔っていたんだろう。
思ったことがつい、口に出てしまった。
昔は……いや、たった今まで紬は男友達みたいな感覚でいた。
間近で紬を見るまでは。
「今更、私の魅力に気づいたの?」
「……そうだな」
きっと俺は真壁みのりしか見ていなかった。
真壁みのりが好きだといういいわけをして、恋愛というものから目を背けてたのかもしれない。
「あははは。フッたくせに、何言ってんだか!」
「は? フッた?」
「あー、やっぱり、告白したことに気づいてなかったかー」
「え? え? え?」
「そういうとこだぞ。どうせ、みのりさんにフラれてから恋愛してなかったでしょ?」
「う、うるさいな……」
「でも、私も一緒かなー?」
「なにがだ?」
「蒼馬にフラれてから、恋愛してこなかったの。ううん。フラれたことをいいわけにして、恋愛しようとしなかったのかも」
「……」
「もしかしたら、私が告白したこと、気づいてないかもって思ってさ。だから、確認したくて、毎年、蒼馬を同窓会に誘ってたんだよね」
「そうだったのか……」
全然知らなかった。
というか、今も必死に高校の頃を思い出すが、告白されたという記憶がない。
「……なあ、紬」
「なに?」
「俺と、付き合わないか?」
「ええー、突然?」
「あー、いや、ごめん。俺、酔ってるみたいだわ」
「なによ、今度はお酒をいいわけにする気?」
「うっ!」
「……いいよ。付き合ってあげても」
「……ホントか?」
「うん。今、私、酔ってるから」
「お前も酒をいいわけにするのかよ」
俺たちは大声で笑った。
10年のわだかまりを吹き飛ばすように。
きっと近所迷惑だろう。
だけど、今だけは見逃して欲しい。
なぜなら、俺たちは酔っているのだから。
という、いいわけだ。