ハロー。私は Polly Collett 。脚本家よ。自慢ではないけれど、これまでも多くの大ヒットを手がけてきたわ。
素質はあるけれど最新のトレンドからは外れてしまっている
え? 原作そのままを映画にしてほしいって? 甘いわね。砂糖を入れすぎたカフェラテのように甘い考えだわ。
いい? 何事も変化を恐れてはそこで終わりなの。あなたの好きなその
まあ、あなたみたいなことを言う人は今までだっていくらでも見てきたから、言いたいことも、その不安も分からなくはないわ。でも安心してちょうだい。私の腕は今までの
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前置きが長くなってしまったわね。さっそく今回の
『桃太郎』……。ずいぶん古い日本の昔話ね。
うーん……昔話としては悪くないけれど……。お世辞にもトレンディとは言えないわね。
まずは「男が仕事、女が家事」この考えが古臭いわ。そうね。「家事を積極的に担う夫と、管理職まで登りつめたエリートキャリアウーマンの妻」これに変えましょう。
川から流れてきた桃を勝手に持ち帰ってしまうのもよくないわね。妻が取引先から貰ってきたことにでもしましょうか。
桃から子どもが出てくるのもまずいわね。桃に子どもを入れて捨てるなんて決して許されることではないわ。ここはシンプルに二人の間の子に……さすがに老夫婦間では無理があるわね。40代くらいにして、高齢出産へのエールにしておきましょう。あ、もちろんラブシーンはカットよ。子どもに見せられないわ。
子どもは女の子にしましょう。ヒーロー物=男というのは時代遅れよ。名前は……メアリーにしましょうか。残念だけど、主人公が東洋人では数字が見込めないわ。差別的に聞こえるかもしれないけれど、これは数字に基づいた確かな事実。残念だけど、映画制作はビジネス。感情論だけでは成り立たないの。
相手を悪と決めつけて暴力で解決しようというストーリーラインも問題ね。平和的にスポーツの話にしましょう。人数的にバスケあたりかしらね。
きび団子? 聞いたことのない食べ物ね。素直にランチボックスにすればいいんじゃないかしら。こんなところで奇をてらう必要はないわ。
イヌ・サル・キジを使役するのもよくないわね。立派な動物虐待だわ。代わりは……黒人女性のキャラが欲しいわね。一人はアフリカ系アメリカ人のジェニファーにしましょう。もう一人は……美人以外の主要キャラも欲しいから、個性的な見た目のエマ。最後は性の多様性を意識して、性自認女性のトランスジェンダーのボブにしましょう。
もちろん主従関係なんてナンセンス。対等な契約関係であるべきだわ。もちろん契約書も必須よ。口約束ではあらぬ曲解を招くわ。ちょっとしたことかもしれないけれど、神は細部にこそ宿るものなのよ。
対戦相手側だからといって「悪そう」なんてイメージにするのは偏見ね。盗みなんて働いているはずがないし、練習道具はちゃんと自分たちで用意しているはずよ。
スポーツマンシップは大事ね。正々堂々。油断せず戦うべきね。
ジェニファーとエマとボブの見せ場も欲しいわね。メアリーは……監督でいいかしら。白人女性の活躍話なんて既に星の数だし、敢えて黒子に徹してもらいましょう。
うーん。素直に勝つ話にしてもいいけれど……敗北から得られるものだって、きっとかけがえのない物であるはずだわ。それこそ
子の成長を喜ばない親はいないわ。これで彼女たちは幸せに暮らしていけるはず。ハッピーエンドね。
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さて、こんなものかしらね。ずいぶんトレンディになったんじゃないかしら。これで大ヒット間違いなしね。
で、この映画のタイトルは何だったかしら?
「桃太郎」……? 変わった名前ね。そんな単語、出てきたかしら……?