「
私は入院していた病院の近場にある、
彼の話によると、今日の勤務は常勤で、夕方の6時くらいからなら会えると言われ、近くにある、この場所で待っている。
しかし、緊張するなあ。
そりゃ、そうだよね。
今から本当の想いを私からも伝えるんだから、普通のふりができる方がどうかしているよね。
「あの、お客様。ご注文はお決まりでしょうか?」
私の席にカクカクな人の似顔絵が描かれたエプロンを着けた、高校生くらいの若い女性店員がやって来る。
ここでドリンクバーだけで、何も頼まないわけにはいかない。
なるべくお腹も満たせて、精がつく食べ物。
それに勝つという暗示もこめて……。
「かっ、カツカレーでお願いします」
「えっ? はい、かしこまりました」
店員が『えっ、それいっちゃうんですか?』的な驚いた表情でキッチンへとリターンする。
やっぱり、女性がカツカレーを食べるのは外れているのかな。
壁際にあった時計の針は、夜の7時を回ろうとしていた。
****
それから10分くらいが経ち、出入り口のピンポンが鳴り、一人の見慣れたお客が入店する。
「よお、
青のパーカーに、黒のジーンズの蛭矢君だ。
今回はマニアックで、アニメチックなおかしな格好じゃない。
勤務が終わって、直通の仕事帰りだもんね。
「……しかし、それにしても何それ?」
蛭矢君が私のいるテーブルを見て、思わず目が点になる。
「はむはむ。カツカレーですよ?」
「……それ普通、女性が待ち合わせ場所で食べるかい?」
「ああー! それ差別ですよね。女の子だってガッツリ食べたい時もありますよ」
「だけど、それにしても、ご飯の量が凄く多いんだけど?」
「はい、特盛を頼みましたから♪」
「……もはや、大食い女王だな」
蛭矢君が
あんな、はしたないみたいな発言をしておいて、そのわりにはジロジロと私の口元ばかり……。
「さっきから女の子が食べる仕草をじっと見て、蛭矢君のスケベです」
「ごめん、あまりにも美味しそうに食べていたから」
「蛭矢君も何か食べますか?」
「そうだな。ずっと見ていたら、お腹が空いたな。僕も何か注文するかな」
蛭矢君が私の向かいに着席して、呼び出しベルを鳴らし、店員を呼ぶなり、色々と注文している。
ものの10分後に、テーブルを埋めつくす料理の数々。
ピザにステーキ、親子丼にサンドイッチ、小籠包に高菜ピラフ、ハンバーガーにミートスパゲティーに、焼き魚、豚カツ、コロッケ、餃子……揚げ物、ドンブリ、定食……まさにキリがない、高カロリー、高タンパク食のオンパレード。
そう言う蛭矢君だって、大食い魔神じゃん。
「英子も食べるだろ、僕がおごるからさ」
「私も食べる前提なんですね」
「だってそんなの食べて、まだ終わりじゃないだろ?」
「失礼ですね。だからタプタプになるのですよ」
「たぷたぷって何だ?」
「いちいち聞かないで、分からないならググって下さい」
「はいはい……たぷたぷと……」
そう呟きながら蛭矢君は、可愛らしい女の子のイラストが描かれたカバーをつけたスマホで検索している。
「あれ、何やらエロい画像が出てきたんだが!?」
「はっ、タプタプでどうしてですか?」
「はては英子ちゃんもスケベだな?」
「どうしてそうなるのですか!」
本当に彼の発言には、遠慮というものがない。
乙女に対して失礼だよ。
「──って、何、私は、ちゃっかりとファミレスでデート気分を味わっているのですか!?」
「頑張れよ、恋する清少○言」
「野口○郎さんみたいな人に言われたくはありません……」
「そうか、僕もついにイケメンデビューか」
「あの、医者としての例えですからね?」
「照れるなよ、僕と君との仲だろ?」
「あっ、いえ、その……」
それから先の言葉がつっかえる。
やっぱり言えない。
彼の目の前だと打ち明けられない。
私の口からは……。
「英子ちゃん、
「あっ、えっと……」
「まさか、お腹が痛いのかい? だったら早くした方がいい」
「なっ、何でそうなるのですか!」
私は、彼の足を思いっきり踏んづける。
「ひぶし!?」
「もういいです。私、帰ります」
「待ってよ、大事な話があるから、呼んだんだろ」
「そうですが、ここまでおまぬけさんとなると……」
「おまぬけは君もだろ……ぎゃぴっ!?」
「だから、一言余計です」
私は再び席に座り直し、蛭矢君の足をめがけて腕を伸ばし、指でぎゅーと彼の太ももをつねる。
思わず勢いあまって座った席から、上半身が飛び出しそうになる彼。
「……はひっ、それで話と言うのは?」
涙目になりながらも、テーブルに突っ伏し、私と対等に向き合おうとする蛭矢君。
もうズルいよね。
いつも生意気だけど、口だけは上手いんだから……。
「……あっ、それから大切な話に入る前に、僕からもちょっといいかい?」
「何でしょう?」
「英子ちゃんに紹介したい人がいるんだ」
不意にカウンター席に座っていた、黒いみつあみの髪の少女がこちらに振り向く。
その少女は小学生くらいな姿で、私と目が合うと感激な表情をしていた。
「……まさか、この子が?」
「ああ、僕の妹の
夜美ちゃんが、軽やかな足取りでこちらに滑走してくる。
「英子お姉ちゃんのおかげで、あたしの命が助かりました。ありがとう」
「夜美ちゃん……」
私は可愛く
「えっ、お姉ちゃんどうかしたの?」
「私ね、あなたにずっと会いたかった……元気になって良かったね」
「うん。お姉ちゃん……ありがとう」
「どういたしまして」
さあ、夜美ちゃんにも会えたし、勇気ももらえた。
だから今こそ、私の想いを伝えるよ。
「蛭矢君。今度こそ、
「ああ、何だい?」
「実は私は……」
「……うぐっ!?」
そう、言葉を開きかけた瞬間、私はバランスを崩して、椅子から床へとずるりと崩れ落ちた。
「英子ちゃん?」
体が、いや、両足が痛くて痺れた感覚で、まともに動かせない。
私はファミレスな場所だけに声も出せず、唇をへの字に曲げたまま、痛みに耐えるのにただ必死だった……。
「どうした、英子ちゃん、英子ちゃん!?」
「お姉ちゃん、しっかりして! 蛭矢お兄ちゃん、早く病院へ電話を!」
「ああ、分かった!」
薄れていく景色の中で、蛭矢君と夜美ちゃんに
第41話、おしまい。