それからも、誕生日パーティーは盛り上がり、食事を終えて、私を囲むようにして会話が弾んでいる
「──さあ、それじゃあ、始めっよ。王様ゲーム」
「あはは、白い子豚ちゃーん。それを待ってたよ!」
「
「なーに、
私の体に抱きついて、いや絡んでくる美伊南ちゃん。
ううっ、お酒くさいよ。
「何だ。英子、全然飲んでないじゃーん。まだ口紅の跡がー。
ああ、ついてない、ああ、飲んでないー♪」
「ほらっ、片想いのグラスに初めてのちゅーしなはい♪」
強引に私のグラスに缶ビールを注いで、押しつけてくる美伊南ちゃん。
まさか、彼女が絡み酒とは。
一緒に暮らす、
「じゃあ、始めっぞ。さっさと棒を引けひょ」
「蛭矢君、それ棒じゃなくて、スルメイカのゲソですよ?」
「ああ、間違えた~ん。こっちだひょっ♪」
「それはポッ○ーですよ……もう見えないなら眼鏡をして下さい」
「なんら、メガネ? おじょうたん、僕たんはそんな名前じゃないぞお~♪」
「そうだぞー、
「なるほど、俺がリーダーゆえの
良かった。
大瀬君だけは酔ってもマトモだ。
「なっ、ヒデ子ちゃん♪」
「違います!」
だあ、私の呼び名は
大瀬君も普通のふりして酔っている。
もしかして私以外、三人とも全滅ですか!?
「さあ、くじ引け。今、クジラ~♪」
蛭矢君の握った棒を、一斉に引き抜くみんな。
「あっ、美伊南が王様じゃーん♪」
「じゃあね、二番と四番がー」
えっ、私二番だよ。
そして、四番に反応する大瀬君。
「クチビル同士を近づけてー」
ちょっと待って、相手は既婚者なんだけど!?
「変顔のポーズ♪」
「はあ? 何でそうなるのですか?」
「はいはい、二人とも笑っちゃダメよ。あっぶっぶー♪」
私の間近で頬をぷくっと膨らまし、目を大きく開いて寄り目にし、さらに福笑いのようなキテレツな顔つきになる大瀬君。
「ぷぷっ……」
いつもイケメンスマイルの彼が、こんな変な顔をするなんて。
これは笑わずにはいられないよね。
「はひっ、英子、笑いまひたね。罰として美伊南特製の青汁を飲めえー♪」
うわっ、美伊南ちゃんが物凄い香りのする紫色のジュースが入ったグラスを勧めてくるよ……。
一体、何が入ってるんだろう。
「ライジョーブ。
「何てものをいれるのですか! これ、もう罰ゲームですよね!?」
「罰ゲームじゃないよんー、王様ゲームだひょ」
語尾がメチャクチャで、目の据わってない蛭矢君が、ユラユラとにじみ、踊っているように見える。
そうか、私はあまりの恐怖のせいで泣いているのか……。
でも、ゲームなんだもん。
嫌でも飲み干すしかない。
それに、たったの200ミリリットルくらいの量だ。
息を止めて飲めば、何とか耐えられるはず……。
「ごくごくごっ……ふぐっ!?」
その強烈な臭みの青汁を一気飲みで空にした後、私はその場にバタリと倒れこんだ。
「あーあ、やっぱり隠し味にヤモリちゃんを入れたら駄目だったかあー♪」
「家の守り神だけあひ、体をみゃもってくれそうな気配はあったんだけどなあ~? ひっく……」
「ああ、豚骨ちゃんもそー思う?」
「今回は僕の素材集めのミシュだったひね」
「ミシュということは一流レストランで、三ツ星を確認ひた料理というわけかあー?」
そのミシュの言葉に、しゃしゃり出る大瀬君。
「そうか、俺がミシ○ッピ川から汲んできた水だから、体に良いはずと?」
「そのミシュじゃねーよ。ミシュランだよ。このポンポコタヌキ」
「なっ、この俺がタヌキだと? お前、表出ろやあ!」
「何やて、表に出て何をどーすんのよ。この変態エロタヌキがーあ!」
「……ちょっと二人とも喧嘩は止めて下さい」
ようやく私は持ち直し、大瀬夫婦を
「英子ちゃん、これも一つの愛情表現らよ。うぷっ……」
蛭矢君が溜まりに溜まったナイヤ○ラの滝を、勢いよく放出しそうになる。
ちょっと、こんな所で汚さないでよ?
ああ、洗面器か、バケツを用意しないと……。
そもそも、医者なのにアルコールをガバガバ飲んで……許容範囲というのを理解していないのかな……。
「──さて、それじゃひゃ、ゲームの続きを始めっぞ」
蛭矢君が口から虹色の滝を出してから蘇り、またしても彼の指示でクジをひくみんな。
「……あっ、私が王様だ」
「……じゃあ、一番と二番が……」
「「はい、はーい♪」」
私が口に出した瞬間に、美伊南ちゃんと大瀬君がとっさに反応して手をあげる。
それじゃあ、王様ゲームの面白さが半減するじゃん。
「──じゃあ。はい、抱き合って仲良しをする」
「えっ、しょーがないなー」
「分かった、おいで子猫ちゃん」
「大瀬パパ、にゃおーん♪」
大瀬君が甘いマスクで両手を大きく広げながら、美伊南ちゃんを迎え入れる。
その体にぎゅっと抱きつく美伊南ちゃん。
「……何か、父と娘の再会みたいで泣けてくるな」
これこそ、信頼できる夫婦の証。
その様子を見つめていた蛭矢君が眼鏡を外し、目頭を押さえている。
「……蛭矢君、その調子だと、酔いが覚めたみたいですね」
「ああ、すまなかったよ。悪ふざけが過ぎた」
「別にいいですよ。たまには
「そうそう。この職業って意外とストレスが溜まるんだよ。どこかで発散しないとさ……ところで英子ちゃん……」
蛭矢君が私に向かって笑いかけて、何かを言おうとする。
「えっ、何ですか?」
「英子ちゃん、実は……」
彼が少し迷いながら、ゆっくりと語り出す。
「──英子ちゃん。実は君が好きだ」
「はあっ!?」
それは突然の告白だった。
何、蛭矢君、まだ酔っているの?
「返事は今日じゃなくていいから……じゃあ、僕は帰るよ」
蛭矢君が、仲良し夫婦にも別れを告げて、玄関で革靴に履き替える。
その大きな背中に、私は問いかけた。
「蛭矢君、何で私のことが……?」
「……何でと言われてもな。恋をするのに特別な理由がいるかい?」
そう言って彼は、どこかの飼い犬が鳴き叫ぶ夜道の中を帰っていったのだった……。
私は蛭矢君の返事に、どう答えたらいいのだろう……。
第39話、おしまい。