いよいよ、明日は大学入試センター試験。
私たちも身構えながら、今日の夜を過ごしてるよ。
「明日のこの時間には、一日目の試験が終わり。そう考えると緊張するな」
「
「当たり前だ、
そうだよね。
王子さまだって、受験の悩みくらいあるよね。
「……いや、どこぞやのお金持ちだから、脳味噌もスーパーコンピューターで出来ているのかと」
そこへカクカクロボットの動きで、
「蛭矢。何だ、その発言とぎこちない動きは。俺は人間を辞めているのか?」
「ああ、寝ている間にお前を改造したからな」
「嘘つけ。俺の体についての取り扱い説明書がついてないじゃんか」
それ、取説とかの問題かな?
「なになに、ついに大瀬は危ないクスリに手を出したの?」
「何言ってるんだ。俺はそのようなものとは
「またまた、憎いね。この色男は?」
美伊南ちゃんが、片ひじで大瀬君をつついている。
「……だからクスリ、ダメ、ゼッタイ」
大瀬君が両腕で大きくバツ状態にして、必死に訴える仕草をしてる。
「……いつも思うんだが、俺、本当に四人のリーダーなのか?」
よくは分からないけど、なぜか悔し顔で泣いてるけどね。
「おー、坊や。今日のおやつがなかったからとそんなに泣くでない。よちよち」
蛭矢君が猫のように優しく、大瀬君の頭を撫でる。
「えぐえぐ……って、俺は幼稚園児かよ!?」
王子さまも落ち込んだり、逆ギレしたりと忙しいね。
「さて、今日、みんなに集まったのも他ではない」
──テイク2。
再び、仕切り直す大瀬君。
「そう、今日はこの
一瞬、その場の空気が凍りつく。
「えっ、美伊南たち身の皮一枚になるの? どんな
「そりゃ、化学室で定番なホルマリン漬けだろ」
「ええっ、あんな液体に浸けられたらヤバいじゃん」
「脳味噌もシチュー確定だな」
「それ、嫌すぎるわ」
何か、お二人さんが変な方向に走ってるね。
そろそろ私の出番かな。
「二人とも大瀬君を困らせたら駄目ですよ。ごほごほっ……」
思わず大声を出したせいか、反動で咳き込む私。
「あっ、英子。ちゃんと寝てないと駄目だよ」
ああ、情けない。
明日が試験なのに、風邪をひいてしまうなんて……。
「大丈夫。病院から処方された薬も飲んだから、明日の朝には治るさ」
蛭矢君が布団をかけ直してくれた。
「さあ、僕たちは部屋から出ようか」
「いや、勉強する前に、英子に何かご飯食べさせた方が良くない?」
「……そうだな。朝から何も食べてないって言ってたしな」
「わ、私のことは、いいから、みんな、勉強に集中して……ごほごほっ……」
私が軽く咳き込みながら、ベッドから上半身を起こそうとするのを、美伊南ちゃんから止められる。
「こらこら、駄目だよ。病人はワガママ言わない」
「そうだぜ。いいから寝てろ。ちょっとキッチン借りるからな」
「えっ、蛭矢。料理なんて作れるの?」
「ふふっ、ひきこもりの経験もあるゲーマーをなめるなよ」
二人が仲良く話しながら電気を消し、寝室のドアをゆっくりと閉める。
再び、私の部屋が暗くなり、静かな空間になった。
そうだね。
明日に備えて、今はゆっくり休まないと。
そう考えると、私の体に眠気が襲ってきた。
やがて、深い眠りへと入っていった……。
****
──私は何かのはずみで目を覚ました。
何やらガタゴトと物音がして、騒がしい声がしたからだ。
「──美伊南、それはまずいって」
「いや、口に入れば一緒だよ」
「でも、相手は病人なんだぜ?」
「大丈夫、一つだけ入れただけじゃん」
「……もう、どうなっても知らないからな」
不意に部屋の電気がつき、香ばしい匂いを放った茶色の土鍋を、ピンクの鍋つかみで持った美伊南ちゃんが入ってくる。
「英子、よく眠れた? ご飯食べれそう?」
「はい。ひょっとして、美伊南ちゃんが作ったのですか?」
「うん。雑炊が美味しくできたよ。食べてみる?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、あーんして」
「何か恥ずかしいですね」
「もう、病人がなに言ってるの」
「はい」
美伊南ちゃんが差し出した熱々な雑炊の入ったスプーンを含むと、口の中に広がるほのかな酸味から、ピリリとした味が口一杯に広がる。
「か、カラーい!?」
「ありゃ? 程よい
私は美伊南ちゃんから受け取った麦茶のコップを飲み干し、ベッドの中でもがき苦しみながらも土鍋の中身を指さし、美伊南ちゃんに尋ねてみる。
「これ、何ですか? よく見たらお米が真っ赤なのですが?」
「えっ、美伊南特製キムチ雑炊だけど?」
「それがこんなに辛くなりますか?」
「エヘヘ♪」
「……ほら、だから僕に作らせろと言っただろ」
部屋のドアから聞き耳を立てていたのか、タイミングよく蛭矢君が部屋に入ってきた。
「これ、何が入っているのですか?」
私は蛭矢君に答えを求めた。
美伊南ちゃんは
「英子ちゃん、それはハバネロだよ」
「はあ? 普通、雑炊に入れますか?」
「美伊南、だから一本丸ごとは止めろって言っただろ」
「エヘヘ、ごめんちゃい」
「後はお前が残さず食べるんだな」
「ええー、マジで?」
蛭矢君の容赦ない絡みにより、美伊南ちゃんの顔から血の気が引いてくる。
あの、真面目に調理してよね。
そんな不安な顔にさせる食材を作ったの?
「美伊南ちゃん、こうなったら腹をくくりましょう」
「まさに明智の策略による、織田信長の末路やわ」
「いや、ただの例えですよ。実際には腹切りはしませんから」
「だよね、モツを出したらヤバいよね」
そんなB級ホラーの戯言を聞きながら、私と美伊南ちゃんは、
ちなみに後からの話によると、大瀬君はリーダー役で疲れ果てたのか、リビングのソファーでうたた寝をしていたそうです。
発案者が寝てどうするのやら……。
第31話、おしまい。