「ウナギ、ウナギ~♪」
「どうしたのですか、
「違うよ。今日は何の日か知らないの?」
「ふふっ、知ってるぜ。
一輪の
でもね、今どきそんな姿は流行らないよ。
少女漫画の読みすぎかな……?
「だから
「なふ、僕をスルーだと!?」
そんなイキイキとしていた蛭矢君が膝を落とし、絶望な色の抜けた表情で私を見ている。
ほら、私の思った通りになった。
その姿は日陰で育つモヤシだ。
それからごめんね、私もミーシャちゃんとか知らないの……。
「というわけで、今日はウナギを食べて精をつける日なんだよ」
「……ウ、ウナギですか」
「どうしたの、
実は私はウナギが姿も味も苦手なのだ。
実物は蛇のようでヌルヌルして気持ち悪く、味は濃厚でべっとりしていて生臭く、あまつさえ
しかも魚とは無縁な世界の甘辛い味つけ。
まさに、あれは異世界で発明された食べ物だ。
「もうすぐ
「あわわ……」
「大丈夫、心配しないで英子……」
困惑している私の撫で肩をホコリを払うように優しく叩く美伊南ちゃん。
あっ、
そうだよね。
私たちは小さい頃から一緒だったんだもん。
二人の心は、いつでも以心伝心だよね。
「弁当のお金は大瀬が自腹で払ってくれるから♪」
「ガビーン、違うでしょ!?」
「へっ、男がおごってくれるのに何が悪いん?」
「はあっ!?」
ヤバい、思わず声に出てたよ。
それよりこの状況をどうしようか。
……というか幼い頃から口には出さなかったけど、ウナギ苦手アピールはしてきたじゃん。
ご飯だけ食べて、ウナギだけ残したりしてさ。
それが分かってない、あの三人組は何なの?
三人寄れば仙人の知恵じゃないの?
まだ今なら間に合うんじゃないかな?
私は大瀬君の電話番号をスマホにかける。
『はい、もしもし。英子からだなんて珍しいな。どうしたんだ?』
「あのですね、私……」
『別にわざわざ電話しなくてもいいだろ。もう目の前にいるし?』
「えっ、あわっ!?」
大瀬君が不思議そうな顔をして、私の横で電話をしていた。
「……も、もしもし亀よ~」
「亀さんよ~♪」
そんなテンパってる私に上手に合わせてくれる大瀬君。
何、このイケメン男子。
対応が王子さま過ぎるでしょ。
「──遅いじゃない、大瀬。もう美伊南、お腹と背中がくっついちゃいそうだわ……」
「いや、美伊南。内臓を圧迫したらマズいだろ……」
「はははっ。そりゃ、違いねえな」
私を
これがウナギパワーなの?
「──それにしても大変だったな。今日は
「つまり、無数の
「へえ、その中から美味しそうなのをつついてきたんやろ。大瀬、あんたやるじゃん!」
しかし、一体この三人は何の会話をしているのかな?
カラスが餌をつついたような内容にしか聞こえないけど……。
「ああ、そんなことより早くしないと冷めちゃうな」
「英子、こっちおいでよ」
「英子ちゃん。大人しゅう、こっちゃーこい、こっちゃーこい~♪」
……何か、あの三人が巧妙な愉快犯に見えてきた。
まるで私がウナギが苦手なのを
そう思うと、私のお腹が悲鳴をあげた。
「ごめんなさい、先に食べてて下さい。私、トイレ行ってきます……」
私も駄目だな。
腹痛を理由に逃げても、一時しのぎでどうにもならないのに……。
****
「みんな、ごめんなさい。私、実は……」
散々悩んだあげく、私はウナギが苦手なのを打ち明けることにした。
「知ってるよ、英子、駄目なんだよね」
あれ、三人とも知ってたんだ。
ごめんね、疑ったりして……。
「──だから、英子はシャケ弁当が嫌いなんだよね?」
「……はいっ!?」
「──幼稚園の遠足の時にさ、親が割りばしを入れ忘れたらしくて、たまたまその時の弁当がシャケ弁当でさ……それがトラウマになってから苦手になって……ふぐっ!?」
「先ほどから
私は美伊南ちゃんの後ろに素早く回り、完全に首ごとヘッドロックする。
「ぐっ、英子たん、ふぐぐ……。
ギブギブ!?
か、かわりに特大のうな重弁当と交換するから……!?」
「いりません!!」
「ぐはっ……!?」
あっ、私、自分では自覚はないですが、怒らせると試合中のプロレスラーみたいに怖いらしいですよ。
くれぐれも気をつけて下さいね。
第8話、おしまい。