「実は僕、創作小説を書いてるんだぜ」
午前中の授業で疲れた生徒たちによる天国な休息、教室でのお昼休み。
突然、
「大丈夫、この暑さで頭やられて熱中症になったん?」
そんな蛭矢君に対し、心配性な
「違う、僕は真面目な話をしてるんだよ!」
「だから、妄想絵日記ごっこもいいけど、たまには水分補給もきちんとしなよ。まあ、今日は美伊南が色々持ってきたからさ」
トマトジュース、
おしるこ、
コーンポタージュ、
おでん缶、
めんつゆ、
スパゲティーミートソースなど……。
彼女の紺色の四次元スクールバッグから、様々な物がポンポンと飛び出てくる……。
「美伊南ちゃん、でもこれほとんど飲み物じゃないですよね?」
「そして極めつけは……、
じゃーん、一晩かけて煮込んだビーフシチュー♪」
「あの、人の話聞いてますか?」
美伊南ちゃんが私の話をそっちのけで、赤の1リットルサイズなステンレスの水筒をさらけ出す。
「美伊南ちゃん、シチューは食べ物ですよ!?」
「大丈夫、
──それにこんな昔話があるんだよ」
……ふむ、それなら詳しく聞かせてもらいましょうか。
私と蛭矢君が、教室の机を美伊南ちゃんの机に繋げて座り、彼女の昔話に耳を
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──昔、あるところに空腹でひもじい男がいた。
男は昨日、とあるギャンブルにハマって一文無しになり、帰宅して冷蔵庫を開けた手元にはビーフシチューのルーとタピオカミルクティーしか残っていなかった。
そこで男は考えた。
もしかしたら、この二つを都合よく組み合わせれば、最強の栄養ドリンクが完成するかもと。
喉の乾きを癒し、さらに空腹さえも満たす──これはノーベル賞ものの一石二鳥な最高傑作になるかも知れないと……。
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「──そして男は知ったのよ……タピオカじゃないアクセントの方が良かったと」
「それで飲んで効果はありました?」
「熱で固まったタピオカを喉に詰まらせ、丸一日狂って病院に運ばれて──たわ
その話を横で聞いていた蛭矢君が急にガバッと立ち上がる。
それからすぐさま、覚悟を決めた顔つきでタピオカビーフシチューの入ったボトルのカップを我が手に取り、勇ましき勇者にも見えるよ。
でも大変。
あれはバ○ルスライムみたいな怪しげな液体だから彼を早く止めないと。
「待って、蛭矢君。それは飲まないで下さい!」
だけど、時すでに遅し。
どうしよう。
彼はあっという間にグイグイと飲んでしまったよ。
ああ、もう知らないよ……。
「──中々、
すると予想外の反応。
へえ、これ見た目だけで実は美味しいんだ?
──そこへタイミングよく
「そうなのか? 俺も喉カラカラなんだ。ちょっと飲ませろよ」
「……うくっ」
『バタン!』
あれ、そのまま固まった体勢で大瀬君が地面に倒れたよ!?
「あはは、効果には個人差があるから気をつけてな」
大瀬君、物凄い顔で白目を
このあと、蛭矢君は元気一杯になり、タピオカビーフシチューはスタッフで犠牲者が出ながらも美味しくいただきましたとさ……。
みんな、食べ物は粗末にしては駄目ですよ。
第4話、おしまい。