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第10話 四姉妹の緊急会議は僕の足の痺れも問わず、夕方までみっちりと続いた

◇◆◇◆


 狭いテントの室内にて、水晶玉をかざした占い師の言葉は明らかに僕らの的を外していた。


「あーあー。二人の相性は最低だって」

「付き合って一ヶ月はいいんだけど、意見の食い違いから段々と冷めていくか」


 卑劣な占いの結果に、僕は落ち込んでる女の子にかける言葉もなかった。


「私たち、てっきり運命の赤い糸で結ばれてると思ったのに」

「まあ、人生なんてそんなもんさ。だったら運命に抗えばいいんだよ」


 僕は女の子の手を優しく握る。

 ほんのりと温かく柔らかい手触り。

 この子を占いという作り話なんかで悲しませたくない。

 そんな純粋に彼女を好きという気持ちで一杯だった。


「えっ?」

「僕たちの運命なんか、占い如きに決められてたまるかよ」


 繋いだ手を離すまいと握った力を込め、厚手のコートの中に繋いだ手を入れる。


「神様に見せてやろうよ。僕たちの愛の絆を」

「うっ、うん」


 女の子は照れながら微笑みかけ、僕と一緒に次の遊園地のアトラクションへと向かった──。


****


 ──真昼過ぎの僕の自宅、いつにもなく緊迫した空気のリビング内にて。

 横長の木のテーブルに姉妹が座る中、僕だけがフローリングの床にいるという切ない形をとっていた。


「それでどうして僕は床に正座してるのかな?」

「被告人は静粛に。では始めますね。第二千三十六回目、三重咲みえさき姉妹緊急特別会議!」


 何だよ、その膨大な回数の集まりは?

 その回数だと、随分大昔の紀元前からやってたのかな?


「まずはこの男、志貴野しきの容疑者の経緯だけど、被害者の秋星あきほ、置かれた状況を説明して」

「はい。突如、私の前に現れたと思っていたら、ガッチリとした目つきで下着姿を見られてですね……」

「入浴中のプレートをかけていたのにも関わらず、お兄ちゃんってば最低」


 三人ともちょっと待ってくれ。

 あれは秋星が突然、大声を上げたから風呂場に駆けつけたんであって、事故というよりか、大きな誤解だよ。


「本来なら極刑にしたいんだけど、みんなも異議はないよね」


 美冬みふゆが決めた刑罰に他の姉妹が無言でコクコクと頷く。

 すると美冬が怒った顔でこっちを見て、立てた親指を床の方向に向ける。


 その合図は灰になって、永遠に消えろの意味だろうか。

 様子からして、文句も無しで島流しなのかな。


 嫌だよ、自給自足なんて柄じゃないし。

 テレビでは気軽にやってるけど、あれは予め、道具などが用意されてからの演出だからね。

 素人が何もなしに、無人島漂流生活なんてどう考えても無謀だよ。


「ならば問答無用。美冬閣下、悪の親玉に夏希なつきの二段回し蹴りを食らわせてもいいでしょうか?」

「ええ、手加減抜きでやって。ただし部屋を汚すような流血沙汰にはしないように」


 おい、格闘家夏希、僕は血の通った人間だし、生身に蹴りとかヤベエって!!


 それに二段だよ。

 二連打のコンボとかゲームじゃないし、当たりどころによっては骨が折れて、あの世行き列車確定だし。


「オケ。半殺しの連続コンボでいいんだね」

「そうね、この見境なく、色んな女とデートする女たらしキモオタには、精々生きて罪を償ってもらうから」

「わーい、人間の実験台なんて久々だよ!」


 ああ、今から鳥の加工みたく、体中の毛をむしられてから、人体改造されるんだね。


 それで僕を蒸し焼きにするつもりかな?

 僕は痩せてるし、ほとんど肉はついてないけど……ハラミや骨付きカルビじゃあるまいし、どこに食べれるような肉の部位があるのかな。


「ではこのことに関して、何か弁論したいなら聞いてあげるけど? むっつり暴漢魔変人オタク」

「いや、僕は秋星を助けようとしたんだ。決して、覗きをしたわけでは」


 僕は起きてしまった事故に誤魔化しもせずに、遭った出来事だけを明確に伝える。


「あれはお風呂場でネズミが出たからであって……覗く気は少しもなく……」

「ふーん。少しはあったんだ」


 不機嫌そうに腕を組んだまま、上目遣いで睨んでくる美冬。

 彼女は僕という存在が、そんなに嫌なのかな。


「はい。そんな感情も、ちょっとはありました」

「だってさ。最早もはや、弁解の余地もないわ。まさにケダモノの固まりよね」


 くっ、人助けのためとはいえ、こんな形で犯罪者扱いされるなんて。

 悪いのは急に飛び出してきたネズミだよね。


 もうシェアハウスなんてやめたいよ。

 親父、女性恐怖症の僕には女の子と一緒に住むなんてやっぱり出来なかったんだ。


 でも純白の薄衣の秋星は天女様みたいで綺麗な体だったよね。

 出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいて……。


 ううっ、しっかりと脳裏に浮かんでいて、思い出してしまうと体が火照ってしまい……、ああっ? 静かに収まれ、僕の煩悩。


「うわっ。コイツ、今度はにやけ顔で天女がどうとか呟いて、鼻血を垂らし出したわ。変態丸出しだわ」

「むっつりスケベさんは正直ですね」


 警戒心を解かない美冬と何がおかしいのか、ニマニマと笑っている春子はるこ

 とても同じ姉妹の反応には思えない。


「ぼっ、僕は断然でんでん虫のカタツムリーノからのむっつりではなーい!!」


 今回の経験上、多少、動揺しながらも言ってることは、三流役者だということはよく分かった。


「ねえ、秋星お姉、片栗粉がなに?」

「まあ、男の子にも色々あるのよ……」


 秋星が遠い目をしながら、夏希の質問に答える。

 野郎から下着を見られ、恥ずかしすぎて自我を無くしたか。


「本当に資源を無駄にして。全然エコロジーじゃないねえ」


 だったら僕じゃなく、製紙工場に直接口論してよ。

 再生紙をフル活用して、全国の悩める野郎たちに光を与えたまえ。


「と言う事だよ。僕は無実だよ」

「言い訳はいいわよ。アタシは真実を述べてるだけであって」

「だけど美冬お姉ちゃん、この人は冗談でもこんな犯罪者の真似事はしないよ」


 春子が僕を庇って発言を返す。

 この娘は初めて出会った頃から、友好的だった。

 どうしてかは謎だけど、僕の味方であることは確かだね。


「だからハルの話も聞いて」

「まあ、あのカスに惚れてるハルがそう言うんならしょうがないか」

「べっ、別にお兄ちゃんがどうとか、そんなんじゃないよ!?」


 ハルがあたふたとしながら、美冬の告白にテンパってる模様である。


「マジで分かりやすい妹だね」

「だから違うってば!!」


 さっきから姉妹揃って、何の話をしてるんだろう。

 ハルなんて僕と目が合ったら、視線を逸らすし、どことなく顔も赤い。


 それよりもさ、いつまで正座しないといけないの?

 そろそろ足が限界なんですけどー!?


「……まあ、志貴野は修行中の身だからな」

「あのね、賢司けんじ。人んちに勝手に上がりこまないでよ」

「ノックならしたぜ(自慢げ)」

「ちゃんと呼び鈴を鳴らしてよ!!」


 そう、賢司の来客に僕の家にプライバシーはないのかよとツッコミそうになるよ……。


 四姉妹の緊急会議は僕の足の痺れも問わず、夕方までみっちりと続いた──。

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