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トゥルーバッドハッピーエンド
明里灯
SF空想科学
2024年12月29日
公開日
3.7万字
連載中
渋谷ロクは「幸せ=お金」の信条をもとに犯罪を繰り返す少女。
クソったれな人生をアガるために、元伝説の詐欺師ホームレス「オッサン」とともに10憶円分のワクチン強奪に乗り出す。

ハイテクが詰まった強固な金庫開け、ハッキング、詐欺、ネットの深層ダークウェブ。
最新犯罪の深層を疑似体験しつつ、一人の少女が「幸せ」にたどり着く様を覗き見る物語。

 幸福とは何か。


 金にキマってるだろ!


 金じゃ買えないものがあるとか、愛だとかそういう御託はいい。


 金に困らない坊ちゃんお嬢ちゃんが、テレビ観ながらチップスの油にまみれた指で鼻穴ホジって言ってることだろ?




「渋谷ロク、お勤めご苦労さん」




 大東山少年院正門前――私を見送ってくれたのは、小太りの担当指導員、山田だ。


「そういう冗談止めろ。ヤーさんの出所じゃないんだから」


 殺すぞ。


 私は重いフルフェイスのメットを振り、隣に立つ山田を睨んだ。


 メット越しなので眼光の威力半減だろうけど――。


 いや、だからこそ殺す気で睨む。


「しかし、お前さん。派手な格好だね。最近の子は脚出さないと死んじゃうの?」


 返ってきたのはセクハラな視線だった。


 動きやすいスニーカー、膝上の短パンに薄手のパーカー。


 動きやすいし、着慣れた格好だけど、確かにオッサン世代には目に毒かもしれない。


 ま、別にどうでもいいんだけど。


「こっち見んな、殺すぞ」


「おー怖い怖い」


 山田は大げさに肩をすくめた。


 息が荒い男なので、ヘルメットのフロントガラスがすぐに曇っている。


「うちの娘がデキソコナイじゃなくてホント良かったよ」


 チッ、言いたい放題だな。


 私は吐き捨てられたセリフを背に、クソったれの少年院を後にした。




 あぁ、それにしても、しばらくぶりのシャバだ。


 賑やかな景色を横目にスキップぎみに歩いていると、いつの間にか渋谷の駅まで来ていた。


 まるで人がゴミのようだ、とはよく言ったもので。


 その人ゴミの一人である私もゴミなのだろう。


 ウイルスのせいで人は少なくなったものの、未だにこの街は賑やかだ。


 一つ大きく違う点は、行きかう人々がフルフェイスのメットをかぶっている点だろう。


 駅前の交差点の信号待ちの間――。


 私は巨大テレビのニュース速報で退屈をしのぐことにした。


『国際ウイルス分類委員会ICTVがnMORT-25と命名してから一年。我々人類は外出時のフルフェイスヘルメット、帰宅時の消毒なしでは生きられなくなりました。ですが、まだ人類の敗北ではありません。ワクチンの研究は日々続いており……』


 人類の敗北――。


 大げさなセリフに鼻が鳴ってしまう。


「嬢ちゃん、久々やなぁ」


 声をかけてきたのは、顔見知りのホームレスだ。


 名前はジョウ。大きいヤマでは世話になっている情報屋だ。


「金はねぇぞ」


「出所祝いだよ」


 ジョウは丸まった背をトントン叩いた。


 ウイルスが蔓延してるっつぅのにヘルメットを被っていない。


 ホームレスは屋外でも面が拝める数少ない人類だ。


「日本にワクチンが入るみたいだよ。一本あたり一憶円、十本のワクチンが大東山大学病院に保管されるらしい」


「へぇ」


 私は情報屋の話を背に、すれ違うサラリーマンの財布を盗んだ。


 黒い長財布は軽くて気分が萎えるが、情報屋のニュースはココロオドル内容だ。


 鏡を見なくても口角が上がってしまうのが分かる。


「人生大逆転!」



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