光り輝く扉をくぐった瞬間、全員の身体が軽く浮き上がるような感覚に包まれた。目を開けると、彼らは広大な大地に立っていた。空は黄金色に輝き、風は穏やかで温かい。それはこれまでの冷たさや暗さとは対照的な、穏やかで幻想的な空間だった。
「……ここが最後の場所?」
ちはるが足元に目をやりながら呟く。彼女の足下には、一面に広がる草花が揺れていた。風に乗る甘い香りが、彼女の心を少しだけ和らげる。
「最後にしては……静かすぎるな」
杉太が不安げに周囲を見回す。その顔には冗談めいた軽口もなく、緊張が滲んでいた。
「静かな場所ほど、何かが起こる前触れなのよ」
綺羅羅が冷静に言葉を継ぐ。その目は大地を見つめ、何かを探しているようだった。
「気を抜くな。これまでの試練よりも厳しいものが待っているはずだ」
千景が前に立ち、警戒心を露わにする。その姿は頼もしく見えるが、その背中には重圧がはっきりと刻まれていた。
「何か……聞こえない?」
聖光が静かに言った。全員が耳を澄ませると、どこからともなく響く不協和音のような音が聞こえた。それは風に紛れながらも、確かに彼らの耳に届いていた。
「これは……音楽?」
ちはるが小声で呟く。その音は次第に大きくなり、やがて周囲の空間が歪み始めた。
「来るぞ!」
千景が叫び、全員が身構える。その瞬間、空間が揺れ、一つの巨大な影が彼らの前に現れた。それはこれまでの影とは異なり、すべての試練を象徴するような存在感を持っていた。
影はまるで生き物のように蠢きながら、低く響く声で語り始めた。
「お前たちが乗り越えた試練……それを超えるための最後の問いを投げかけよう」
影の言葉に全員が黙り込む。その問いが、彼らに何を求めるのか、誰もが理解していた。
「問いだと? 何を試すつもりだ」
千景が冷たい声で問いかける。その鋭い目が影を見据えている。
「お前たちが築いてきた絆。それが、本当に揺るぎないものかどうかを確かめる」
影の声が響くと同時に、地面が割れるように裂けた。彼らの足元が崩れ、全員が異なる方向へと弾かれるように飛ばされた。
「ちはる!」
杉太の声が遠ざかり、ちはるは一人で草花の中に倒れ込んだ。立ち上がろうとするが、周囲に誰の姿も見えない。
「また……一人?」
ちはるの心に、孤独の重みが押し寄せる。だが、次の瞬間、彼女の前に小さな光の球が現れた。
「あなたが選ぶのは、自分を信じる力か、それとも仲間を信じる力か」
光の球が静かに語りかけてくる。その言葉にちはるは目を見開いた。
「……どっちも、信じる。私は、みんながいるからここにいるんだもの」
彼女の言葉に光が一瞬揺れ、優しく輝いた。
一方、千景もまた孤立していた。彼の前に現れた影は、冷たい目で彼を見つめていた。
「お前は本当に誰かを信じたことがあるのか?」
影の問いに、千景はしばらく黙ったままだった。だが、彼はやがてゆっくりと口を開いた。
「……信じることが怖かっただけだ。だが、今は違う」
その言葉に影が動揺するように揺れ始める。
「本当に信じることができるなら、示してみろ」
影が挑発するように言うが、千景は動じなかった。
「俺は彼らを信じている。それが俺の答えだ」
その瞬間、千景の周囲に光が広がり、影は消えていった。
他の場所でも、杉太、綺羅羅、聖光がそれぞれの影と向き合っていた。孤独や恐怖、自己への疑念に立ち向かいながら、彼らは自分たちの信念を貫いた。そして、それぞれが再び立ち上がり、仲間のもとへと戻ろうとしていた。
やがて全員が再び集まった時、空間が明るい光に包まれた。影は完全に消え、穏やかな風だけが彼らを包んでいた。
「……終わったの?」
ちはるが呟く。その声に千景が短く頷いた。
「ああ、終わった。俺たちの絆は本物だと証明された」
「なんだか……信じられないけど」
ちはるが笑いながら言うと、杉太が肩をすくめて笑った。
「これだけ厳しい試練を越えたんだ。それくらいの自信を持っていいだろ」
「そうね。ここまで来られたのは、全員が一緒だったから」
綺羅羅が微笑みながら言う。その言葉に、聖光も静かに頷いた。
「これから何があっても、俺たちは繋がっている。それが、この試練が教えてくれたことだ」
全員が互いの顔を見合わせ、静かに笑い合った。その笑顔は、試練を乗り越えた者だけが持つ強さと温かさを示していた。