ちはるは揺れる足場を渡りながら、周囲を見渡していた。空間には薄い霧が漂い、遠くに聖光の気配を感じるものの、はっきりとその姿を確認することはできなかった。
「聖光、こっちに来られる道はある?」
声を張り上げて問いかけるが、返事は途切れがちだった。音が霧に吸い込まれていくようで、心が次第に不安に包まれる。
「ちはる……その場で待て。俺がそっちへ向かう」
ようやく届いた聖光の声に、ちはるはほっと息を吐いた。その声には冷静さと共に、彼女を見つけるという確固たる意志が感じられた。
「わかった。待ってる」
霧の中、聖光の影が少しずつ近づいてくるのが見える。その姿に胸の奥の緊張が少し和らぐ。
一方、千景と杉太は互いの声を頼りに、それぞれの位置を確認し合っていた。足元の道は細く不安定で、急な揺れが彼らを襲うたびに緊張が走る。
「千景、あとどれくらいで合流できそうだ?」
杉太が声を張り上げる。その声には少しの焦りが感じられるが、いつもの軽さも忘れていない。
「もう少しだ。この先の分岐で合流できるはずだ」
千景の声は冷静だが、その足取りには急ぐ気配が見える。
「さすがにこの状況でのんびり話す余裕はないか。お前らしいな」
杉太が冗談めかした声で言うと、千景は短く答えた。
「状況を見て行動するだけだ。ふざけている暇はない」
「それが俺たちの違いってやつかもな」
杉太が笑い声を上げると、その言葉に千景は一瞬だけ口角を上げた。
「お前の軽さも、時には役に立つと認める」
「おお、素直じゃないお前に褒められるとはな。記念日だぜ」
軽口を叩きながらも、杉太の足取りには確実さがあった。二人の姿が少しずつ近づき、ようやく合流を果たす。
その頃、綺羅羅は別の浮遊島で霧の中を進んでいた。彼女の足元は揺らぐことなく、冷静に道を選びながら進んでいる。
「皆、どこにいるの……?」
小さな声で呟く。孤独の重みが少しずつ心にのしかかる中、遠くから聞き覚えのある声が届いた。
「綺羅羅! 聞こえるか!」
ちはるの声だった。その瞬間、綺羅羅の目に安心の光が浮かぶ。
「ちはる! 聞こえるわ! 私もそっちに向かう!」
声を返しながら、霧の向こうにぼんやりと見えるちはるの姿を目指す。やがて足場が合流し、二人は再会を果たした。
「よかった……綺羅羅、大丈夫だった?」
ちはるが駆け寄りながら声をかける。その瞳には涙が浮かんでいた。
「ええ、何とかね。でも、皆がどうしているか気がかりで……」
綺羅羅が言葉を続けると、ちはるが力強く頷いた。
「大丈夫、みんなを見つけよう。一緒に」
ようやく全員が一つの浮遊島に集まった時、霧が静かに晴れ始めた。その先に現れたのは、巨大な光の輪だった。それは扉のようにも見え、その先に何か決定的な試練が待っていることを予感させた。
「これが……最後の試練かもしれない」
聖光が低い声で言う。その言葉に、全員が緊張を強めた。
「全員揃ったんだ。これまで以上に力を合わせれば、乗り越えられるはずだろ?」
杉太が軽い口調で言うが、その目には強い決意が宿っている。
「ええ、その通りよ」
綺羅羅が続ける。その声には、これまでの試練を乗り越えてきた確信が込められていた。
「行こう。ここまで来たんだ。もう、引き返す理由はない」
千景が冷静に言い放ち、先頭に立つ。その背中に皆が続き、光の輪へと向かって歩みを進めた。