一行が進んだ先には、またしても扉が現れた。これまでのものと違い、扉は透明で、その奥にはさらに不気味な空間が広がっているのが見えた。宙に浮かぶ島々がいくつもあり、それぞれが細い道で繋がれている。空間はどこまでも続いているようで、上下の区別すらあいまいだった。
「なんだ、これ……?」
杉太が呟き、眉をひそめた。その軽い調子は影を潜め、代わりに警戒心がにじみ出ている。
「また試練……それも、これまで以上に厳しいものになりそうね」
綺羅羅が低く言った。その目には鋭い光が宿っているが、同時に不安も隠せなかった。
「全員、気を抜くな。この空間は、俺たちを分断しようとしている」
千景が冷静に警告を発し、その視線を扉の奥に固定する。
ちはるは彼の言葉に反応し、顔を上げた。
「分断って……どういうこと?」
「俺たちの絆を試すには、バラバラにするのが一番だからだ。それぞれが孤立し、どれだけ強く繋がれるかが問われるだろう」
千景の言葉に全員が息を呑む。確かにこれまでの試練でも、絆が試される局面は何度もあった。それが、さらに厳しい形で現れるのだとしたら――。
「行こう、立ち止まっていても始まらない」
千景が扉を押し開けると、透明だった扉がまるで水面のように波打ち、一行を吸い込むようにして引き寄せた。
その瞬間、ちはるの視界が白く染まり、仲間たちの姿が一気に消えた。
「みんな……!?」
ちはるが叫ぶが、その声は虚空に吸い込まれるだけだった。目の前には浮遊する島々と、そこにかかる細い道だけが広がっている。
ちはるは手探りで細い道を進み始めた。その足取りは不安定で、少しでもバランスを崩せば落ちてしまいそうなほど危うい。彼女の心には孤独がじわじわと侵食してくる。
「こんなの、一人で……無理だよ」
そう呟いた瞬間、ふいに前方から声が聞こえた。
「ちはる、聞こえるか?」
それは聖光の声だった。ちはるの胸に一気に温かさが広がる。
「聖光! 聞こえる! 私、ここにいる!」
「よかった……俺も孤立したかと思った。ちはる、どこにいる?」
聖光の声は冷静だが、その奥には彼女を探そうとする焦りが隠れている。
「私……細い道を進んでる。前に島が見えるけど……そっちは?」
「俺も似たような場所だ。お互いに近づける道があるか探そう」
その言葉にちはるは大きく頷き、再び道を進み始めた。
一方、別の場所では、千景が険しい表情で浮遊する島を睨んでいた。彼はひとつひとつの道を慎重に見極めながら進んでいる。
「まったく……これ以上くだらない試練を続けるつもりか」
その呟きには、苛立ちがにじんでいる。
ふと、彼の耳に声が届いた。それは杉太のものだった。
「千景、いるのか?」
「杉太か……無事だったか」
千景が短く応じると、杉太は安心したような息を吐いた。
「まあな。でも、こうして一人ずつ隔離されるのは、さすがに気分が悪いぜ」
「それが目的だ。俺たちを孤立させ、精神を揺さぶるつもりだろう」
「だからって、お前まで張り詰めてたら、この試練も乗り越えられないだろ?」
杉太の言葉に千景は短く息を吐いた。
「お前は……何故そんなに軽くいられる?」
「それが俺のやり方だからさ。どんな状況でも、無理にでも軽くしとかないと持たないだろ?」
杉太の声には笑みが浮かんでいるように感じられる。それに、千景はほんの少しだけ口角を上げた。
「そのやり方、嫌いじゃない」
「ほら、千景にもちゃんと笑える余裕があるじゃないか」
杉太が笑いながら言う。千景は何も言わず、前方の道を見据えた。
「全員を見つける。それだけだ」