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第27章: 揺るがぬ繋がり

全員が再び揃い、新たな道を歩み始めた。一行の間に漂う空気には、安堵と緊張が入り混じっている。試練を乗り越え、互いの存在を確かめ合ったことで得た強さが、次に待つ未知への恐れをわずかに和らげていた。

ちはるは歩きながら、それぞれの仲間の表情を静かに観察していた。杉太はいつものように軽口を叩きながらも、どこか疲れが見える。綺羅羅は冷静な顔つきを保っているが、その視線には鋭い警戒心が宿っている。千景は相変わらず前を見据え、背筋を伸ばして歩いていたが、その足取りにはわずかな迷いが感じられた。そして聖光は、他の誰よりも穏やかな顔をしていたが、その目にはどこか達観した光が浮かんでいる。

「……ねえ、みんなは、何を思ってここにいるの?」

不意にちはるが問いかける。その声は小さかったが、彼らの間に沈黙を呼び込むには十分だった。

「何を思って……か」

杉太が軽く笑いながら口を開いた。

「俺は単純だよ。ただ、この場所から生きて帰りたい。それだけだな」

「生きて帰りたい……でも、それだけじゃないんじゃない?」

ちはるがそう指摘すると、杉太は一瞬驚いたように目を丸くし、それから笑みを浮かべた。

「バレたか。まあ、確かに。みんなと一緒に帰るってのが本音だよ。一人だけ生き延びても意味がないからな」

その言葉に、ちはるは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。杉太の軽口の奥には、いつも仲間への強い想いが隠されている。それを改めて感じた瞬間だった。


「私は……そうね、私自身が強くなるためかしら」

綺羅羅が口を開く。その言葉にちはるは少し意外そうな顔をした。

「強くなるため?」

「ええ。私は、誰かに支えられるばかりじゃなくて、誰かを支えられる人間になりたいと思ってる。だからこそ、この試練は私にとって重要な意味を持ってるの」

その言葉にちはるは小さく頷いた。綺羅羅の目には確固たる決意が宿っている。それは、彼女がこれまで自分の弱さと向き合いながら進んできた証のようだった。

「……いいね、綺羅羅。私もそうなりたい」

ちはるがそう言うと、綺羅羅は微笑みながら彼女の肩に手を置いた。

「大丈夫よ、ちはる。あなたなら、きっとなれるわ」


「俺は、そうだな……」

聖光が静かに言葉を紡ぎ始めた。その声には、どこか重みがあった。

「俺は自分の役割を果たしたいと思っている。それが何なのか、まだはっきりとはわからないけど……この旅の中でそれを見つけたいと思ってる」

「役割……?」

ちはるが問いかけると、聖光は少しだけ視線を伏せた。

「俺たちはみんな何かを背負っている。それを乗り越えるためには、自分が何をすべきかを知る必要があると思うんだ」

その言葉にちはるは頷き、彼の穏やかな横顔を見つめた。聖光の言葉は深く、彼女の心に響いた。


千景は黙ったまま歩いていた。その様子を見ていたちはるが、おそるおそる声をかけた。

「千景は……どう思ってるの?」

千景は少しだけ歩みを止め、振り返った。その目は鋭く、それでいてどこか揺れているようだった。

「俺は、全員をここから出す。それだけを考えている」

その言葉は簡潔で冷たく聞こえたが、ちはるはその裏に隠された不安を感じ取った。

「それだけ……? 本当に?」

ちはるが問いかけると、千景はわずかに眉をひそめた。

「お前には関係ない」

そう言って再び前を向こうとする千景の腕を、ちはるは思わず掴んだ。

「関係ないなんてこと、ないよ! 千景が何を考えてるのか、私たちには知る権利があると思う!」

その言葉に、千景は一瞬だけ動きを止めた。そして、低い声で答えた。

「俺は……ただ、自分の弱さを見せたくないだけだ」

その言葉にちはるは目を見開いた。千景の胸の奥にある孤独が、ほんの一瞬だけ覗いた気がした。

「千景……私たちがいるよ。一人じゃない」

ちはるの静かな言葉に、千景はわずかに目を伏せ、短く頷いた。

「わかってる……ありがとう」


一行はその言葉を胸に、新たな試練の入り口へと足を進めていく。クライマックスが近づくにつれ、彼らの繋がりは一層強固なものとなり、次なる困難を乗り越えるための準備が整いつつあった。



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