暗闇を進む三人の間には、ほのかな緊張と安堵が混ざり合っていた。それぞれが孤独を抜け出し、少しずつ仲間の姿を取り戻していることが、希望となっていた。だが、その先に待つ未知の試練への不安が、彼らの心をわずかにざらつかせている。
ちはるは杉太と綺羅羅の間で、二人の表情を何度も確認しながら歩いていた。特に杉太は、いつもの軽い口調を保ちながらも、その目は鋭く暗闇の奥を見据えていた。
「ねえ、杉太。いつも思うんだけど……どうしてそんなに強くいられるの?」
ちはるが不意に問いかけると、杉太は少し驚いたように眉を上げた。
「強い? 俺が?」
彼が苦笑いを浮かべるのを見て、ちはるは慌てて付け加えた。
「だって、杉太はいつもみんなを和ませてくれるし、不安そうな顔をほとんどしないから」
その言葉に杉太は短く笑い、少しだけ目を伏せた。
「そう見えるなら、それでいいさ。でも、強いってわけじゃない。ただ、怖い顔してたら周りも余計不安になるだろ? だから、無理にでも笑ってるだけだよ」
「無理に……?」
ちはるはその言葉に思わず立ち止まった。杉太の言葉には軽さの裏に隠された真剣さがあった。
「まあな。俺だって、怖いことくらいあるさ。でも、誰かが笑ってなきゃ、こんな場所じゃやってられないだろ?」
彼が肩をすくめて言うと、綺羅羅が少しだけ微笑んだ。
「それが杉太の優しさなのね。無理に笑ってても、それでみんなが安心できるなら、それも一つの強さだと思うわ」
その言葉に杉太は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに照れくさそうに頭を掻いた。
「優しさかどうかはわかんないけどな。とにかく、今は早くみんなを見つけようぜ」
彼がそう言って歩き出すと、ちはるは少しだけ胸が軽くなるのを感じた。
その時、遠くから何かが揺れるような光が見えた。光はわずかに赤みを帯び、ゆらゆらと揺れている。三人は互いに目配せをしながら慎重にその方向へ進んだ。
「千景……かもしれない」
ちはるが小声で呟いた。その言葉に綺羅羅も頷き、さらに歩調を早めた。
光に近づくと、それは間違いなく千景だった。彼は鋭い目で周囲を警戒しながら、じっと立ち尽くしている。彼の周りには微かな赤い炎のようなものが漂っていた。
「千景!」
ちはるが声を上げると、彼はゆっくりと振り返った。その目に浮かんだのは、安堵とほんのわずかな驚きだった。
「無事だったか」
短い言葉だったが、それだけでちはるの胸に温かさが広がった。
「千景こそ、大丈夫だったの?」
ちはるが駆け寄って尋ねると、千景は少しだけ眉をひそめた。
「問題ない。だが、この空間が何を意図しているのか、まだ掴みきれない」
「とりあえず、四人揃ったんだ。次は聖光を見つければ、全員だろ?」
杉太が明るい口調で言うと、千景は短く頷いた。
「そうだな。聖光を見つけ次第、この空間からの脱出を試みる」
その冷静な言葉には、彼自身が感じている緊張を隠し通そうとする意志が込められていた。
四人で進み始めた時、再び遠くから光が見えた。それは青白い光で、どこか神聖な雰囲気を纏っている。全員が息を呑み、その方向へ歩みを早めた。
光の中に立っていたのは、確かに聖光だった。彼の周りには幾重にも重なる光の輪が漂い、それが彼を守るようにゆっくりと動いていた。
「聖光!」
ちはるが声を上げると、彼は静かに顔を上げた。その表情は落ち着いていたが、彼の目にはこれまでよりも強い意志が宿っているように見えた。
「全員、揃ったのか」
彼が静かに言うと、ちはるは力強く頷いた。
「うん、みんな無事だったよ」
「よかった……これで次の試練に進める」
聖光の言葉に全員が安堵の息をつき、彼の周りに集まった。
「さて、次はどんな厄介なことが待ってるのかね」
杉太が苦笑しながら言うと、綺羅羅が少し笑いながら応じた。
「厄介でも、全員が揃ってるならきっと乗り越えられるわ」
「その通りだ。誰一人欠けることなく、全員で進む」
千景が静かに言い放つ。その言葉に、全員が短く頷いた。
暗闇が少しずつ晴れていき、前方に新たな道が現れた。全員が互いに顔を見合わせ、そして静かに歩みを進めた。その足音は、試練を乗り越えるための新たな決意を刻むように響いていた。