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第25章: 繋がりの欠片

ちはるが一歩を踏み出すたび、暗闇は彼女を飲み込もうとするように周囲を覆い尽くしていく。だが、前方に見える小さな光は消えず、彼女を導いていた。光はゆらゆらと揺れながら遠ざかるようにも見えたが、不思議とちはるの歩みを止めさせることはなかった。

「誰か、いる……?」

震える声で問いかけるも、返事はない。ただ暗闇の静寂が彼女の言葉を吸い込むだけだった。

ふと、光がまた少し近づいたように見えた。そして、その光の中から声が聞こえた。それは……杉太の声だった。

「ちはる、どこだ!」

その声に、ちはるの胸が一気に熱くなった。孤独の重圧から解放されるように、彼女は声を張り上げた。

「杉太! ここにいる! 私、ここにいるよ!」

暗闇の中で響くその声は、いつも以上に切実だった。だが、返事は一瞬途絶えた。

「ちはる……聞こえるなら、動くな! お前の近くに向かってる!」

再び杉太の声が聞こえ、ちはるは小さく息を吐いた。その声には、彼特有の軽さと温かさが混じっていた。


しばらくして、暗闇の中から姿を現したのは、確かに杉太だった。彼の目には少し焦りが見えたが、彼女を見つけた瞬間、安心したように笑みが浮かんだ。

「無事だったか、ちはる。こんな場所で一人なんて、さすがに怖かっただろ?」

彼が声をかけると、ちはるは大きく頷いた。

「怖かった。でも……杉太の声が聞こえたから、少しだけ安心できた」

「おいおい、そんな感謝されると、俺も照れるんだけどな」

冗談めかした口調だが、その目には彼女への気遣いが感じられた。

「でも、どうして杉太はここに来られたの?」

ちはるが尋ねると、杉太は少し頭を掻きながら答えた。

「なんだろうな……とにかく、誰かの声が聞こえた気がして、そっちに向かっただけさ」

「誰かって……私の声?」

「たぶんな。でも、それが理由だろうとなんだろうと、こうして見つけられてよかったよ」

杉太の言葉に、ちはるはほっとしたように笑みを浮かべた。


「さて、これで二人は揃った。問題は、他のみんなだな」

杉太が周囲を見渡しながら言う。その言葉にちはるは少し不安げに答えた。

「千景や綺羅羅たちも、同じようにどこかにいるのかな……」

「あいつらがそう簡単にやられるとは思えないけどな。特に千景は、俺らよりタフだろ?」

杉太の言葉には確信があった。それにちはるも頷きつつ、千景の冷静な表情を思い浮かべた。

「そうだね、千景ならきっと無事だと思う」

「だろ? だから、今は俺たちができることを考えるべきだ」

杉太の言葉にちはるは少しだけ力を取り戻したように感じた。彼の軽い言葉の裏には、しっかりとした信念が隠れている。それが彼女を支えているのだと改めて気づいた。


二人が歩き出してしばらくすると、再び遠くに光が見え始めた。それは綺羅羅のシルエットだった。彼女はゆっくりと歩きながら、周囲を慎重に見回しているようだった。

「綺羅羅!」

ちはるが声を上げると、彼女は一瞬驚いたように振り返り、すぐに安心したように微笑んだ。

「ちはる、杉太……よかった、二人とも無事だったのね」

その言葉にちはるは頷き、すぐに駆け寄った。

「綺羅羅こそ、大丈夫だった?」

「ええ、何とかね。でも、この場所、何かが私たちを試しているように感じるわ」

彼女の声には冷静さがあったが、その中に潜む緊張をちはるは感じ取った。

「試されてるのはきっと、私たちの繋がり……だよね」

ちはるが静かに言うと、綺羅羅は目を細めて同意した。

「そうね。だからこそ、こうして少しずつでも再会できるのが重要なのよ」

「残るは千景と聖光だな」

杉太がそう呟くと、ちはるもまた小さく息を吐いた。

「みんなで揃って、次の試練に進まなきゃね」

彼女の言葉に、綺羅羅と杉太は力強く頷いた。そして、再び三人は暗闇の中を進み始めた。

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