ちはるが一歩を踏み出すたび、暗闇は彼女を飲み込もうとするように周囲を覆い尽くしていく。だが、前方に見える小さな光は消えず、彼女を導いていた。光はゆらゆらと揺れながら遠ざかるようにも見えたが、不思議とちはるの歩みを止めさせることはなかった。
「誰か、いる……?」
震える声で問いかけるも、返事はない。ただ暗闇の静寂が彼女の言葉を吸い込むだけだった。
ふと、光がまた少し近づいたように見えた。そして、その光の中から声が聞こえた。それは……杉太の声だった。
「ちはる、どこだ!」
その声に、ちはるの胸が一気に熱くなった。孤独の重圧から解放されるように、彼女は声を張り上げた。
「杉太! ここにいる! 私、ここにいるよ!」
暗闇の中で響くその声は、いつも以上に切実だった。だが、返事は一瞬途絶えた。
「ちはる……聞こえるなら、動くな! お前の近くに向かってる!」
再び杉太の声が聞こえ、ちはるは小さく息を吐いた。その声には、彼特有の軽さと温かさが混じっていた。
しばらくして、暗闇の中から姿を現したのは、確かに杉太だった。彼の目には少し焦りが見えたが、彼女を見つけた瞬間、安心したように笑みが浮かんだ。
「無事だったか、ちはる。こんな場所で一人なんて、さすがに怖かっただろ?」
彼が声をかけると、ちはるは大きく頷いた。
「怖かった。でも……杉太の声が聞こえたから、少しだけ安心できた」
「おいおい、そんな感謝されると、俺も照れるんだけどな」
冗談めかした口調だが、その目には彼女への気遣いが感じられた。
「でも、どうして杉太はここに来られたの?」
ちはるが尋ねると、杉太は少し頭を掻きながら答えた。
「なんだろうな……とにかく、誰かの声が聞こえた気がして、そっちに向かっただけさ」
「誰かって……私の声?」
「たぶんな。でも、それが理由だろうとなんだろうと、こうして見つけられてよかったよ」
杉太の言葉に、ちはるはほっとしたように笑みを浮かべた。
「さて、これで二人は揃った。問題は、他のみんなだな」
杉太が周囲を見渡しながら言う。その言葉にちはるは少し不安げに答えた。
「千景や綺羅羅たちも、同じようにどこかにいるのかな……」
「あいつらがそう簡単にやられるとは思えないけどな。特に千景は、俺らよりタフだろ?」
杉太の言葉には確信があった。それにちはるも頷きつつ、千景の冷静な表情を思い浮かべた。
「そうだね、千景ならきっと無事だと思う」
「だろ? だから、今は俺たちができることを考えるべきだ」
杉太の言葉にちはるは少しだけ力を取り戻したように感じた。彼の軽い言葉の裏には、しっかりとした信念が隠れている。それが彼女を支えているのだと改めて気づいた。
二人が歩き出してしばらくすると、再び遠くに光が見え始めた。それは綺羅羅のシルエットだった。彼女はゆっくりと歩きながら、周囲を慎重に見回しているようだった。
「綺羅羅!」
ちはるが声を上げると、彼女は一瞬驚いたように振り返り、すぐに安心したように微笑んだ。
「ちはる、杉太……よかった、二人とも無事だったのね」
その言葉にちはるは頷き、すぐに駆け寄った。
「綺羅羅こそ、大丈夫だった?」
「ええ、何とかね。でも、この場所、何かが私たちを試しているように感じるわ」
彼女の声には冷静さがあったが、その中に潜む緊張をちはるは感じ取った。
「試されてるのはきっと、私たちの繋がり……だよね」
ちはるが静かに言うと、綺羅羅は目を細めて同意した。
「そうね。だからこそ、こうして少しずつでも再会できるのが重要なのよ」
「残るは千景と聖光だな」
杉太がそう呟くと、ちはるもまた小さく息を吐いた。
「みんなで揃って、次の試練に進まなきゃね」
彼女の言葉に、綺羅羅と杉太は力強く頷いた。そして、再び三人は暗闇の中を進み始めた。