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第12章: 絆の輪郭

霧がわずかに晴れ、灯火が落ち着いた柔らかな光を放っている。その光が全員の顔を照らし、いつの間にか険しかった表情が少しだけ緩んでいた。

ちはるは目の前の光の存在を見つめていた。それは人の形をしているようで、しかし何かが欠けているようにも見える。孤独を纏いながらも、温かな何かを求める姿がそこにはあった。

「……光が優しくなったね」

ちはるが呟くと、杉太が後ろから軽く笑った。

「お前があんな熱いセリフを言ったからじゃないか? ほら、泣いてた影もやっと落ち着いたみたいだ」

彼の軽口にちはるはわずかに笑みを浮かべたが、その心にはまだ不安が残っていた。

「でも、本当にこれでいいのかな……?」

彼女の疑問に、千景が短く応じる。

「状況が変化したのは事実だ。それを無駄にしないために、次にどう動くかを考えるべきだ」

彼の声は冷静だったが、その目にはまだ緊張が張り詰めている。

「冷静なのはいいけどさ、少しぐらい労いの言葉があってもいいんじゃないの?」

杉太が苦笑しながら言うと、千景は軽く眉をひそめた。

「感情的になって判断を誤る方が問題だ。お前こそ、もう少し真面目に状況を見ろ」

千景の厳しい言葉に、杉太が肩をすくめた。

「真面目になってるさ、これでも。俺なりに考えてんだよ」

彼の言葉に、ちはるは少しだけ杉太の横顔を見た。その目は普段の軽薄さとは違い、どこか思慮深さを湛えていた。

「ありがとう、杉太」

ちはるがぽつりと言うと、杉太は驚いたように彼女を見た。

「何だよ、急に?」

「あなたが冗談を言ってくれるから、私たち、少しだけ怖さを忘れられるんだよ」

その言葉に杉太は一瞬黙り込んだが、すぐに少し照れくさそうに笑った。

「おいおい、そういうことは影が完全にいなくなってから言えよな」

杉太の軽口にちはるがくすりと笑う。そのやり取りを黙って見つめていた千景が、静かに口を開いた。

「……感情を緩めることが必要な時もある。だが、次に何をすべきかは忘れるな」

彼の言葉には相変わらず厳しさがあったが、その裏にある柔らかな意図をちはるは感じ取っていた。

「うん、わかってる」

ちはるが頷いた瞬間、光の存在がわずかに動いた。まるで彼らの会話を聞いていたかのように。

「……お前たち……絆……強い……」

その声が再び霧を震わせた。ちはるはその言葉に驚きつつも、答えた。

「私たちが強いかどうかはわからない。でも、あなたを助けたいって思ってる。それだけは本当だよ」

光の形が少しだけ鮮明になったように見えた。その姿にちはるは一歩踏み出す。千景が止めようとする気配を感じたが、彼女は振り返らずに言った。

「大丈夫、私が何とかする。ねえ、あなたは本当に孤独なの?」

その問いに光は一瞬静止した後、再び動いた。そして、低く掠れた声が響いた。

「……孤独だ。長い間……ここで一人……」

ちはるの胸に鋭い痛みが走る。その言葉が、自分の過去の孤独を突き刺したからだ。誰にも届かないと思った言葉。誰にも求められないと感じた日々。それが、目の前の存在に重なった。

「……私も同じだった」

ちはるの声は小さかったが、その場にいた全員の耳に届いた。千景が目を細め、杉太が言葉を失い、綺羅羅が静かに息を呑む。

「私も、ずっと一人だった気がする。でも……みんながいて、少しずつ変わったの」

その言葉に、光が微かに震えたように見えた。そして、さらに言葉が紡がれる。

「……仲間……が……救い……」

「そうだよ。私たち、仲間になれるよ。あなたを一人にはさせない」

ちはるの声が霧の中で響いた。彼女の言葉に応じるように、光がさらに強く輝き始めた。

「お前、何てことを……」

千景が低く呟いたが、その声には責める響きではなく、驚きが込められていた。

「大丈夫だよ、千景。私、信じてるから」

ちはるの言葉に、千景は短く息を吐き、何も言わずに彼女のそばに立った。

「俺も信じるべきなのかもしれないな」

杉太がぽつりと言い、綺羅羅が静かに微笑む。

「ようやく素直になったわね、杉太」

光の存在は次第に形を持ち始めていた。それは新たな希望の象徴であり、彼らの絆が形となったものだった。


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