「貴方の傍で、貴方の作る世界の礎となりましょう。この命尽きるまでどうかお使いください、ロッシュ陛下」
「物好きな奴だな。お前といい、ファウスといい」
嘆息しつつも、ロッシュはウェインの剣を拾い彼へと渡す。
それはまるで騎士拝命の儀式のような、厳かな空気がある。
それを見て、ファウスは本当になすべき全てをなしたのだと感じて寂しく笑みを浮かべた。
『陛下、ウェイン』
不意に声がかかり、二人はそちらに視線を向ける。
見ればファウスの体は先程よりも随分薄く、その気配も消えそうになっていた。
「ファウス!」
『私は願いを叶えた。もう、思い残す事もないのです。陛下、どうか健やかに。過去ではなく、未来をご覧ください。決して諦めることなく、大切なものは何かを見てください。貴方にはできるはずです。貴方の傍にいる、貴方の仲間を大切になさってください』
光が天から舞い降りるように、ファウスの体を包んでゆく。ファウスの体はゆっくりと、天の光に溶けるように混じりあい、そして消えてゆく。
光が去ったその後には、彼の残した記憶と言葉のみがあった。
「……ウェイン、一つ俺に約束しろ」
「はい」
「絶対に、自ら命を捨てるような事はするな。無様でも、最後まで生きろ。生きるために足掻け。もしも俺の前に死体で戻ってきたら、俺は決して許さない」
押し殺す怒りのような悲しみの声。
それを聞いたウェインは、確かにその言葉を胸に深く刻みつけた。
「俺はこのままグラディスを追う。なんだか嫌な予感がするんだ。お前はここにいろ。女王が生きている間は接触しない方がいい」
場を改めたロッシュがウェインに命じる。
それにウェインも同意し、少しでも離れようと大広間の戸口へ向かったその時だ。
何かおかしな気配が近づいてくるのを感じたのは。
「ウェイン、離れろ!」
ロッシュもそれを感じ、鋭くウェインに投げる。
それに素早く従ったウェインの目の前で、扉は姿の見えないものに開け放たれた。
そしてそこへ、見たことのないものが飛び込んできたのだ。
真っ赤な炎のようなドラゴンだった。
大きな翼を広げた幻想の生き物は二人には目もくれず、その先の王の間へと一直線に飛んでゆく。
肌がジリジリと焼かれるような熱だけが二人には残った。
「ロッシュ陛下、どうかお急ぎを。グラディス様を……この世界を」
「あぁ、そうする」
改めて剣を握ったロッシュは、大広間から王の間へと急いで向かった。