グラディスは心を落ち着けて、深く呼吸をし、女性に近づいた。
それは知るはずのない人だったけれど、その身に宿る血が感じさせてくれた。
「母上」
そっと手に触れる。
物言わぬ躯を撫でる手が、ピタリと止まった。
「もう、いいのです。貴方の悲しみは私の内にある。貴方の怒りは私の半身に宿った。もう、そのように悲しまなくてもいいのです。その業は全て、受け継がれたのです」
女性はゆっくり、グラディスに視線を向けた。
そして、柔らかくグラディスに微笑みかけ、その頬に触れていった。
『ごめんなさい』
そう、聞こえた気がした。
パリンッと硝子の割れる音。砕け散る世界。
途端に景色は暗闇から光を取り戻し、幻想ではない世界が戻ってくる。
散っていたのは大きな鏡。
それは古より、その者の負の感情、記憶に反応して映像として見せるという。
飲み込まれるのも、砕くのもまたその者による。
グラディスは立ち上がり、散ってしまったのだろう仲間を、探し始めた。