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厄災の始まり(2)

 グラディスは心を落ち着けて、深く呼吸をし、女性に近づいた。

 それは知るはずのない人だったけれど、その身に宿る血が感じさせてくれた。


「母上」


 そっと手に触れる。

 物言わぬ躯を撫でる手が、ピタリと止まった。


「もう、いいのです。貴方の悲しみは私の内にある。貴方の怒りは私の半身に宿った。もう、そのように悲しまなくてもいいのです。その業は全て、受け継がれたのです」


 女性はゆっくり、グラディスに視線を向けた。

 そして、柔らかくグラディスに微笑みかけ、その頬に触れていった。


『ごめんなさい』


 そう、聞こえた気がした。


 パリンッと硝子の割れる音。砕け散る世界。

 途端に景色は暗闇から光を取り戻し、幻想ではない世界が戻ってくる。


 散っていたのは大きな鏡。

 それは古より、その者の負の感情、記憶に反応して映像として見せるという。

 飲み込まれるのも、砕くのもまたその者による。

 グラディスは立ち上がり、散ってしまったのだろう仲間を、探し始めた。

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