『運命を回す少女はカラントを手にし、凍れる魔女へと刃を向けるであろう』
(カルマスの予言『ラーノ書』より)
デトラント大陸の海の玄関口ボランは、荷下ろしをする水夫と買い付けた商品をチェックする商人、そして出入の者を監視する役人でごった返している。
長い船旅で縮こまった体を天に向かい一杯に伸ばした少年もまた、手荷物一つを持って甲板を降り始めた。
長い真っ直ぐな黒髪に、大きな緑の瞳を希望や好奇心に輝かせた少年は、とても身軽にステップを踏む。
まるで少女のような愛くるしい顔立ちで、身なりさえ綺麗ならそこそこの家の子に見えただろう。
「おい、そこの坊主!」
スロープを降りた所で少年を呼び止めた役人が、ギロリと睨み付けてくる。
それに少年はニッと笑った。
「あぁ、身分証明ね。ちょっと待ってよ」
ズボンのポケットをガサゴソと漁る。そうして出てきたのは、出向した港が書かれた書類だった。
「これだけじゃ通すことは」
うんざりと言いたげな役人。
だが、少年がジェスチャーで「書類を開けてごらんよ」と促すのを見て、役人は閉じたままの書類を開く。
そして、口元にニンマリと笑みを浮かべた。
「通ってよし」
「どーも」
書類を返してもらい、少年は駆けるように歩いて行く。
そして、キラキラした目で街を見回した。
ボランはデトラント大陸の南の玄関口。他大陸からの物資が荷揚げされる活気ある町である。
町自体はあまり大きくはないが、王都までの大きな行路がある。
と、出航前に聞いていたのだが……
「なんか、聞いた話よりも小さいよな。それに、ちょっと寒い」
緑輝くこの世の楽園。神々が愛した島・デトラント。
そういう噂を聞いていた少年は少々がっかりした表情を浮かべ、半袖の服から出ている腕を摩る。
そして、とりあえずの場所を探してメイン通りへと歩き出した。
キョロキョロと当たりを見回しながら入った店はギルドと書かれている。各町に必ずある冒険者ギルドである。
旅をしながらモンスター退治や物資の護衛、要人警護などの仕事を受けられる仲介屋のようなもので、手っ取り早く金を稼ぐにはうってつけだ。
ただ問題は、初めての場所だと信用がなくて実入りのいい仕事は回ってこないのだ。
中は小さな酒場のようで、カウンターの中には屈強な男が一人、体に似合わない小さなグラスを磨いている。男は直ぐに少年を見つけ、豪快な笑みを浮かべた。
「おう、坊主。仕事探しか?」
「うん、そうなんだ。ここでは初めてなんだけど、仕事あるかな?」
スツールに掛けた少年に、店のマスターである男が飲み物を出す。それを有り難く受け取った少年の前に、マスターは一枚の紙を出した。
「とりあえず名前とギルド歴書きな。話しはそれからだ」
ペンを握り、素直にそれに従った少年は、名前の欄に『ラクシュリ』と書く。
職歴は過去に二十件、どれも魔物退治だった。