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少年刑務所の部屋。同居する受刑者の若者は寝息を立てる中、僕は壁に少しもたれかかって、磨りガラスを見つめた。外では雨がしとしと降っている。
「雨、好きだったんだけどな」
以前は好きだった雨。わずかに連なる音の旋律や、人に潤いをもたらしてくれるところが好きだったが、今ではそのどれもが嫌悪感を抱いてしまう。人を殺したことによって、感受性や性格、強いては人格までもが捻じ曲がってしまうものなのだろうか。
殺人の衝撃を、今も鮮明に思い出せる。その光景はなおも網膜に焼き付いていて、ありありと見える。握った拳銃の感触。轟いた銃声。弾丸に貫かれた男の悲痛な顔。その後、僕を襲った強すぎる罪の意識と還ってきた悪の因果。そいつらが僕の心臓を抉り取るように、僕に苦痛を絶え間なく与えた。そして殺人の代償は支払われ、今こうして受刑している。厳しい規律の生活の中で自分の過去を嫌でも見つめなおす時間が増えた。
あいつ、どうしているかな。と、織田夏木のことを想う。夏木とは互いに利用し合う関係だった。形上、交際していた時はそのことが忌々しくも感じられた。不便で自由がなくて、だけど互いを求め合う時だけは律儀だった、そんな関係。かつての純粋な恋人だった一ノ宮江美よりも、夏木と一緒にいる時間が長かった。
溜息をついた。この世はいつだって不条理だ。幸福な奴は死ぬまで幸福だし、不幸な奴は死ぬまで不幸だ。神は平等を重んじるとは、詭弁もいいところだった。
だが、そんな幻想を考えていても仕方がない。明日も刑務作業と刑務所内だけの歪んだカーストが存在する生活が待っている。自分の布団に潜って、硬く目をつむった。