前足を開いて突き出し、「ニャッ!」と魔力を放出すると。
ド————ン!!
轟音とともに勢いよく扉が開いた。っていうか、吹っ飛んだ。
おお、見通し最高! これで出入りが自由になったよ! ————って、これだめなやつじゃない?!
すさまじい音に慌てた人たちが、次々と集まって来る。
遠くから「ネコ————————!! 大丈夫か?!」という声が聞こえている。
近くの部屋を掃除していたらしいメイド二人組もいた。
おかっぱ髪の子がすごい勢いで来て、わたしを抱き上げた。
「猫様、ケガをされてますか!?」
うっ、すごい心配されてる。
動揺のあまりか「猫様、猫様!」とガクガク揺さぶられた。
だ、大丈夫。大丈夫、だけど、そんな、揺らさないで、ほしい……っ。
「——どれ、見せてみろ!」
大人気なく奪うようにつかんだのは、シモベ氏だ。
助かったと思うべきか、違う
シモベ氏はわたしを両手で持って目の高さに上げ、あちこち確認している。
「ニ、ニャ……(だ、大丈夫です……)」
「……ネコや。おまえ、なんかしたか?」
じーっと見られたので、目を逸らした。
「……だんな様……。これは一体…………?」
困惑した表情を浮かべて後ろから現れたのは、シモベ氏からセバスと呼ばれているおじいさん。うっすらとした猫の記憶の中で、わたしも大変お世話になっていた。
シモベ氏はあらぬ方向に目をやり、頭をかいた。
「あ、あー……っと、すまぬ。前に設置して忘れてた魔導具が作動したらしい。侵入者があった時に、こうやって爆破する魔導具でな。ネコが触れた時に作動してしまったんだろう」
そしてひょいとわたしを抱き上げた。
「みなもネコも怪我がなくてよかった」
「本当にそうですよ、だんな様。廊下を歩いていた者がなくてようございました」
うっ、ごめんなさい! 誰もいなくてよかった……。
「驚かせて悪かったな。修理の手配を頼む。————ネコ、おまえはいっしょに仕事場だ。扉が開けっぱなしの部屋に置いておくわけにはいかないからな?」
シモベ氏、仕方ないからみたいな風に言っているけど、うれしそうなのを隠しきれていませんよ。
「かしこまりました。ネコ様を可愛がりすぎないようになさってくださいませ」
優しいおじい様といった風情のセバスさんが呆れ顔になるなんて、どれだけネコにかまけているのか。記憶を漁ると、たしかに猫から一時も離れたくないシモベ氏の姿があったわけだけど。
————そういえば、さっきかばってくれた…………?
あの時、魔導具が起動した気配なんてなかったと思うんだ。
魔導具が起動すると魔法が展開される。魔法が使われれば、気づくよ。一応、大聖女にまでなった魔法師だもの。
本当はなかったのに、魔導具があったって言った……?
腕の中から見上げても、シモベ氏の表情はわからない。
普通の猫なら扉をふっ飛ばすなんてしない。魔導具がないのなら、なんで扉がふっとんだのか、おかしいと怪しむよね。シモベ氏が噓をついてまで罪を被る必要はない。
それじゃやっぱり、わたしが感知できなかった魔導具があったのかな…………?
なにはともあれ、部屋から出られたのはよかった。退屈で死なずに済んだ。
それにシモベ氏の仕事ってどんな感じなんだろう。大変興味があるよ。
◇
鼻歌まじりのシモベ氏に連れられてやってきたのは執務室。
部屋の中はがらんとしているのに、机の上だけが書類の山で埋め尽くされていた。
「ああ〜、やりたくない……。魔法伯に書類仕事やらせるなんて、宝の持ち腐れだと思うんだがなぁ」
シモベ氏は魔法伯らしい。
そして自分で宝とか言っちゃうのか。
じとりと見ていると、胸に抱いた生き物の不信な眼差しに気づいたのか、シモベ氏はなんだか言い訳がましいことを言い出した。
「ネコ、俺だって書類仕事が嫌いではないし苦手なわけじゃないんだぞ。ただ、これまで溜まっていた前の領主の分までとなると、わからないしめんどう——いや、大変だって言いたいだけでな? 人手だってまだまだ足りてないのになぁ」
シモベ氏はここの新しい領主様のようだ。
魔法伯で領主。相当偉い人だよ。ご領主のシモベ魔法伯様。
わたしがいたキンザーヌ大帝国に魔法伯という爵位はなかったので、どういう爵位で位置づけなのかわからない。何か活躍をして爵位を賜った魔法師とかそんな感じだろうか。
今聞いた情報からすると、後継という感じではなかった。
キンザーヌ大帝国の領主は基本的に世襲制だったのだけど。この国では違うのかな。それとも訳あって、領主が交代したのか。
新たに領主に任命されたのなら、シモベ氏って実はすごい切れ者なのかもしれない。
ご領主様ならシモベ様とお呼びした方がいいかな。
まぁ猫なので呼びかける機会はないけどね。
猫になってからの記憶は一応あるけれども、情報はあまりない。
中身もすっかり猫になっていて、自分にあまり関係ないことは気にしていなかったんだろうな。
これからはしっかり情報を得ていこう。
今世を精一杯生きるために。