ミラが(師匠とシルシュのやらかしで)デカく作りすぎた家。というか、規模で言えば倉庫とか体育館だな。当面はその家(仮)で寝泊まりすることになったんだが……それでまた一悶着あった。
いや、一悶着というかアホなボケツッコミというか。
「やはりアーク君たちもこの家で寝泊まりするべきでは?」
「べきでは? ではないんだが? 年頃の娘さんがそんなことを言っちゃいけません」
「ふっふーん! 正体を現したね女たらし! ボクは『寝泊まりするべき』と提案しただけで、エロい展開になるとは一言も――アウチ!?」
ついつい、ついついシャルロットの脳天に空手チョップ(弱)を叩き込んでしまう俺だった。だってしょうがないよな叩きやすい――じゃなくて、アホなことばかり抜かすのだから。
「そもそも、男子と寝泊まりすることをそう簡単に提案するんじゃない」
「真面目か!?」
「常識人なだけだ」
「……おかしい。こんな美少女から迫られて、どうして落ちないんだい?」
「落ちる落ちない以前にさぁ」
いきなりアクセル全開で突っ込んできたら避けるだろう、反射的に。
「くっ! タイム! 会議タイム!」
「はぁ?」
シャルロットが少し離れたところでしゃがみ込むと、示し合わせたかのようにメイスとミラも寄ってきて、円陣を組んだ。
「……これは強敵だね。どうやって落としたものか……」
「むしろ、私たちが簡単に落ちすぎただけでは?」
「ん」
「けど待って欲しい。あれだけいい男が目の前にいるのに、落ちないのもどうかと思うんだ。すでにお相手がいるエリーならとにかく」
「それは、まぁ」
「ん」
お嬢さん方、その秘密会議(?)は俺に聞こえちゃいけないやつじゃないのか? いや、むしろわざと聞こえるようにしてプレッシャーを掛けているとか? シャルロットだって公爵令嬢なのだからそのくらいの陰謀は……いやでもシャルロットだしなぁ。
「――アピール☆ターイム!」
ズバッと挙手するシャルロットだった。また何か面白いことを始めるらしい。
にわかに立ち上がったシャルロットは右手を掲げ、左手を自分の胸に当てた。いつもの演劇っぽいポーズだな。
「この国でも珍しい銀髪! 誰もが振り返る美貌! そしてなにより公爵令嬢とは思えないほど付き合いやすい性格! オススメだよ!」
自分で言うな。
と、切り捨てるほど俺は鬼じゃない。
「……そうだな。シャルロットは文句なしの美少女だし、話していて楽しいよな」
「――ぐはっ!」
吐血したような呻き声を上げながら地面をゴロゴロ転がっていくシャルロットだった。年頃の娘さんがさぁ……。
「では、次は私が」
意外とノリがいいメイスだった。いやもはや意外でも何ともないか? シャルロットのボケボケに平然と付き合える女性が『クールな眼鏡っ娘キャラ』は無理があるものな。
「……いえ、しかし、シャルロット様やミラ様に比べて魔法の才能もないですし、詰め込んだ知識も役に立っているとは……」
アピールタイムじゃないの……?
「いやいや、魔法が全てじゃないさ。俺も魔法が苦手だからな、むしろ親近感がある。それに、知識が役に立つのはこれからだろう? ――期待しているぜ」
「……むぅ、これは中々……」
ちょっと頬を染めながら一歩二歩と後ろに下がっていくメイスだった。風邪でも引いたか?
「ん」
いや、「ん」って。せめて何か言おうぜ?
「いや~ミラは大活躍だったな! ミラがいなければここまで上手く事が運ばなかっただろう! しかも美少女! これは将来が楽しみだぜ!」
「……ん」
くるりと踵を返し、すたすたと歩いて行ってしまうミラだった。耳が赤い気がするが……風邪か? あとでエリザベス嬢に診てもらおう。
ちなみにエリザベス嬢とラックはというと、「わたくしもアピールした方がいいのでしょうか?」「いいえ、貴女の魅力を知っているのは私だけでいいのです」「ラック様……」「エリザベス様……」といつものボケをかましていた。爆発しろ。