近衛騎士団長ライラが(隠しきれないほどウキウキとしながら)王城から離れた後。
王太子は満足そうな顔で副騎士団長・フリオラの背中を叩いた。
「よし! よくやったぞフリオラ!」
「お褒めいただき光栄の極み」
「うむうむ! あのバケモノが暴れては門が破壊されるかもしれないからな! よくぞ平和に追い払った! やはり平和が一番だからな!」
「……ははっ、新たなる国王陛下のお望みとあらば」
いやあの人が暴れたら王城が全壊しかねないんだよなぁ、とは口にせず恭しく頭を下げるフリオラである。
「自分の実力はこれで理解していただけたかと」
「うむ! お前ならばあの粗暴な近衛騎士団の連中も御せるだろう! 今からお前が正式な近衛騎士団長だ!」
「光栄の極みでございます」
この王太子は『ライラが女だから』という理由で嫌い、近衛騎士団長をやめさせようとしていると誤解されていたが……実際は『ドラゴンの血を浴びたバケモノ』に王族の護衛はさせられないという理由で嫌っていたのだ。
だからこそ、そんな背景のないフリオラなら、たとえ女性であろうとも近衛騎士団長に任命することにためらいはなかったようだ。
ある意味では性差にこだわらない人材登用ができると言えるだろう。
ただし、問題は、致命的なまでに人を見る目がなく、考える頭が足りないことなのだが。
……いや、クビになった途端に喜び勇んで去ってしまうようなライラが近衛騎士団長に相応しいのかという問題もあるので、ある意味では人を見る目があったのかもしれないが。
思うことは多々あるフリオラだが、彼女は自分がなすべきことをするだけだ。
「では、殿下。近衛騎士団の人事権も私が握ったという認識でよろしいでしょうか?」
「うむ?」
「近衛騎士団にはまだ反抗的な者がおりますので。そのような連中は新たなる国王陛下の近衛師団に相応しくありません。牢屋にぶち込むか、罷免してしまおうと思っているのですが」
「おお! そうか! 感心だな! いいぞ、好きにしろ! ただし牢屋に入れるのは無しだ! 反抗的な者に食事を与えるなど予算の無駄だからな!」
「さっそく無駄の削減に意識を割かれるとは、さすがでございます。邪魔者を排除した近衛師団は必ずや国王陛下のお役に立つことでしょう」
「はははっ! まだ国王ではないぞ! まだ、だがな!」
今まで手放しに褒められた経験が少ないのか、調子に乗りまくる王太子。この感じなら上手いこと操れそうだなと思いつつ、フリオラは僅かに視線を動かして王太子の横に立つ人物を見る。
――聖女候補、アリス。
読み切れない人物である。
男爵令嬢でありながら王太子やその側近たちに取り入った手腕は見事。だが、そのまま権力掌握に動いてもいいはずなのに、なにかを企んでいる様子はない。
(周囲の反発の強さに驚いたのか? ……いや、すでに裏では動いている可能性もあるか? おそらく彼女は
ただの人間が公爵令嬢であるエリザベスを出し抜いて『聖女』の筆頭候補になれるはずがないし、王太子やその側近たちを骨抜きにできるはずもない。
なにより。ライラを王都から引き剥がし、魔の森へと向かわせたのはアリスの献策だという。近衛騎士団長であるライラを王都からこうも簡単に離れさせる……並大抵の腕ではない。
排除すべき王太子が目の前に。そんな状況だったのにライラが動かなかったのも『読み切れない』アリスがいたせいだろうとフリオラは当たりを付ける。そもそも、聖女筆頭候補の結界ともなればライラの斬撃すら防ぐ可能性もあるのだ。
(……表面上の行動だけを見ると、動きに一貫性が見られない。だが、これは私からは全体像が見えていないだけか……?)
実家に何の権力もないアリスは、今の状態では王太子たちから飽きられたら終わり。それを回避するために裏では自分独自の権力確保に動いている可能性も……。
(考えられるのは――教会。聖女としての力か?)
王太子がこのあとどうなろうとも構わないが、教会とは一定の距離を保ちつつ協力関係を維持しなければならない。――その鍵となり得るのが、アリス。聖女をこちらに抱き込むことができれば……。
(ここは、接近しておくのがいいか。あとはこちらからどれだけの『利』をあちらに提示できるかだが……)
真面目に、生真面目に、自らができることを全うしようとするフリオラだった。
ライラは少し反省するべきだろう。