「あんたらはさぁ……」
俺が呆れていると、さすがに罪悪感があるのか師匠とシルシュは慌てだした。
「いや待って欲しい。わざとではないのだ」
『そうじゃそうじゃ。善意。善意の行動じゃろう?』
「……それは、そうだがなぁ……」
「『……チョロい』」
「ん? 何か言ったか?」
「『いや別に?』」
なんだかニヤニヤと笑う二人だった。怪しいなぁおい。
まぁしかし、あまり強く注意しすぎて不機嫌になられると困るな。なにせ相手は師匠とシルシュだ。一対一でもヤバいのに二人一緒になっては勝負にならないのだ。
「ヘタレ」
ミラから厳しいお言葉をいただいた。ヘタレで結構、命の方が大切だ。
「…………」
うわぁ、という顔をされるとさすがの俺でも傷つくぜ?
ミラと無言のうちにそんなやり取りをしていると、
「――むっ、緊急通信だな」
師匠が右耳を手で押さえた。おそらく
近衛師団長であるこの人に関連する緊急事態というと、王族か王城だな。
「……国王陛下に説教されたあの
「起こしてくれると楽でいいな。首を刎ねるだけで終わる」
「それもそうですね」
「――むっ、感度が悪いな。あるいは……通信妨害?」
おいおい。
近衛師団長向けの
「仕方ない、王都に戻るか。わざわざ一泊を許してもらったというのに、すまないな」
「いや、お気になさらず。どうせ大した歓迎もできないですからね」
「うむ。次来るときはもっと発展させていることを期待しているぞ?」
「……いや、ここで暮らすどころか発展させろと?」
「いっそ国でも建てたらどうだ? 騎士王アーク。中々様になる名前じゃないか」
「冗談にしても笑えないっすね」
「冗談のつもりはないのだがな」
くくっと笑ってから師匠は魔の森の外へと繋がる道へと歩き始めた。
「まさか、徒歩で来たんですか?」
「まさか。近くの村に馬を預けているさ。魔の森近くに止めておいては魔物の餌食になるからな」
「……
「はははっ、いくら何でも無理だろう」
「「…………」」
グラントの実力を知っている俺とラックとしては「おいおい、飼い主が知らねぇのかよ……」という感じだった。
まぁとにかく。
嵐のようにやって来た師匠は、嵐のように去って行ったのだった。
「……そういや、シルシュが転移魔法で送ってやれば良かったんじゃないか?」
『ハッ、アレは我の背中に聖剣を突き刺した女だぞ? なぜそこまでしてやらなければならんのだ?』
「……そう考えれば、そうか」
なんか仲良さそうだったし、すっかり忘れていたぜ。
◇
師匠の姿が見えなくなった頃。
「王都は大丈夫かな?」
シャルロットが少し不安そうな声を上げた。
「まぁ、大丈夫なわけがないよな」
なにせ貴族社会のバランスを丸ごと無視して婚約破棄×4をやらかしたんだ。そういうのにまるで詳しくない俺でも「ヤバすぎる」と分かるレベル。むしろなんで王太子としての教育を受けてきたあのアホ――じゃなかった、王太子が理解できないのか。
「う~ん……」
「なんだ? 誰か心配な人がいるのか?」
真っ先に思い浮かぶのは家族のこと。だが、シャルロットの口ぶりでは両親との仲もそれほど良くなさそうだったが……。
「ボクの両親のことなんて心配してないよ。むしろ『ざまぁああああ!』と思っちゃうくらいさ」
「そ、そうか……」
根本的に善人であるシャルロットからここまで言われるって……。一体どれだけやらかしてきたのか。
「ただ、ボクの家族の中でも、妹だけはまともでねぇ」
「妹さんか」
「――妹は世界一可愛い。分かるだろう?」
「あぁ、分かる」
妹は可愛いよな。
「……そこは『いや、今はシャルロットが世界一可愛いさ(キラーン)』と答えるべきじゃないのかな?」
「その(キラーン)も口に出さなきゃならないのか?」
ちなみにシャルロットはちゃんと(キラーン)と口にしていた。おもしれー女。
「ボクの妹は世界一可愛いからね! あの
「そ、そうか」
シャルロットの勢いに思わず後ずさってしまう俺だった。あのシャルロットがアホだのアホ共だの罵るのだから相当だな。
まぁ、妹さんが無理やり婚約させられるのは可哀想だが……。
(シャルロットの妹なら、自分で何とかしそうだな)
そんなことを考えてしまう俺だった。
できることなら手助けもしてやりたいが……。人間、出来ることと出来ないことがあるからな。神様でもないんだから全ての人を救うことなんて無理。今はシャルロットたちとの生活基盤を整えなきゃならんだろう。