目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第71話 悪影響


 ででーん。


 と、土壁の建物が完成していた。


 しかし様子がおかしい。


 見た目こそこの世界で一般的な庶民の家って感じだ。……いや最初は土の壁だけで屋根は作らないという話だったのだから、屋根ができている時点で何かがおかしいのだが。それは大したことじゃないから置いておくとして。


 ――大きいのだ。


 家の形はそのままに、とにかくデカくなっている。入り口なんてドラゴン形態のシルシュが通れるんじゃないかってほどの大きさだ。人間の家をそのまま何十倍にも拡大したような……?


「うぇえええぇえ……」


 おっと今はミラを優先するか。青い顔をしているのでとりあえず背中をさすってみる。


 すると、エリザベス嬢が近づいて来た。ちなみにエリザベス嬢はラックにお姫様だっこされて退避した。爆発しろ。


「わたくしが癒やしましょう」


「すみませんが、よろしくお願いします」


 頭を下げるとエリザベス嬢がくすりと笑った。


「敬語でなくて、平語で結構ですわよ。アーク様はわたくしたちの代表なのですし。……正直、押しつけたような形になってしまいましたもの」


「しかし……」


 チラッとラックを見ると、「あ? エリザベス様の温情に文句があるのか? 死ぬか?」みたいな顔をしたので大人しく了承することにする。コイツは戦闘能力こそ低めだが、頭が回るので敵にすると厄介なのだ。


「じゃあ、よろしく頼む」


「えぇ、頼まれましたわ」


 エリザベス嬢がミラの治療を始めると、みるみるうちに顔色が良くなってきた。やっぱりすごいなぁ回復魔法。


 しかし、師匠とシルシュが触れた瞬間にこんな風になってしまったのだから……。


「一気に大量の魔力を摂取しすぎたのか?」


「それもありますが、やはり普通の人間には異質すぎたのでしょう」


「あー……」


 なにせ本物のドラゴンの魔力と、元勇者(ドラゴンの血で強化済み)の魔力だものな。ひっでぇちゃんぽんだ。


「ミラ様は元々魔力の高い銀髪ですし、薄めたドラゴンの血を被っていましたから平気だったのでしょう。もしこれが普通の人間だったら……」


「う~む……」


 これは少しお説教しておくか。





「もうちょっと考えて行動するように」


「はーい」


『分かりましたー』


 地面に正座しながら、どことなく暢気な声を上げる師匠とシルシュだった。ほんとに分かっているのかねぇ?


「……ふっ、アークにお説教されるのもいいな……」


『うむうむ。これはこれで……』


 なんか楽しそうに頷き合う師匠とシルシュだった。こいつら絶対分かってねぇな……。


 まぁいいや。

 かなりデカいが、できたのだから使ってしまおう。ということで俺は住居に近づいたのだが……。


 うん、やはりデカい。

 そして扉が巨大すぎてとてもではないが人力じゃ開けられそうになかった。シルシュに頼むか……?


「ん」


 と、復活したらしいミラが近づいて来た。そのままドアの隣、土壁部分に触れる。


「ここに人が通れるくらいの穴を開ければいい」


「なるほど」


 穴が開けば出入りできるし、あとで扉でも付ければいい。今日のところは皆が入ったあとに土魔法で塞げばいいしな。


「じゃあ――」


 土壁に触れたミラの手に、魔力が集まっていくのが分かる・・・


 お?

 なんか、異常に集まってないか?

 いやでもミラは俺らの中でも一番魔法の扱いに長けているからな。まさか失敗はしないだろう――


「あっ」


 あ?


 ――空気が震えた。


 人が吹き飛ばされそうなほどの突風が襲いかかり、それによって巻き上げられた土煙で視界がゼロになる。まぁ俺にとっては何の問題もないのだが。


「うにゃあぁああ!?」


 毎度の如くシャルロットが吹き飛ばされて転がっていたものの、ケガはなさそうなのでとりあえずよし。


 これは……攻撃魔法の余波? いやしかし、いくらなんでも土壁に穴を開けるには過剰じゃないか?


「……手加減ができなかった」


 困惑するようなミラの声。


 土壁を見ると……人の身長の数倍はありそうな穴が開き、反対側の壁までも貫通していた。


「手加減が、できなかったのか?」


 シャルロットが手加減に失敗したときも上手いこと対応したミラが?


 困惑する俺の背後からエリザベス嬢が近づいてくる気配がする。


「おそらくは、ですが……ドラゴンの魔力を直接注ぎ込まれたことが悪影響を及ぼしているのでは?」


 まじかー。まぁ、確かにヤバそうだよなー。


 なんかどんどん人間離れしていくな。と、他人事のように思ってしまう俺だった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?