師匠はもう一度沸かした風呂で汗を流し、そのままの流れで一泊していくことになった。
まぁそこまでは比較的平和だったのだが。
「――ふははっ!」
「――はーははっ!」
師匠(近衛騎士団長で元勇者)とシルシュ(人型ver.)がドッカンドッカンとバトルしていた。うん、ドッカンドッカンと。二人が攻撃するたびに大地が割け、空気が震え、魔物たちが逃げていく気配がする。
うーん、人外。人外の戦いだ。
まぁ元勇者とドラゴンだしな。
あんな二人に万が一でも巻き込まれたら大変だ。ということで俺は平和なシャルロットたちに近づいて、さっきの洞窟について報告することにした。
「洞窟があったんだがな、なんだかヤバそうな雰囲気がしたんで一旦退避してきた」
「ヤバそうとはどんな感じだい?」
シャルロットが首をかしげる。彼女なら「なんかゲームのイベントっぽい雰囲気がした」と説明すれば納得してくれるだろうが、他の人がなぁ。……いや、メイスとミラは馬車の中から前世の記憶やらゲーム転生について盗み聞きしていたんだっけか? じゃあもう話してしまうか。今後もこんなことがあるかもしれないし。
「え~っとだな、」
ゲームという表現は避け、神のお告げという感じに説明していく俺。前世の物語だと転生知識をこういう表現を使って解説することが多かったからな。
エリザベス嬢が難しそうな顔をしながら唸る。
「なるほど、神のお告げですか……。聖女試験の際に、そのようなお告げを受ける『特別な』人間がいると聞いたことがあります。――そして、勇者に選ばれるほどの人物なのですから、アーク様が神のお告げを受けても何ら不思議はないでしょう」
おー、すんなり納得してくれたな。盲目的ではなく、ちゃんと理詰めで納得してくれたのはさすがエリザベス嬢だな。……俺が自然と『勇者』扱いされているのはどうかと思うが。聖剣なんて持ってないし。聖剣は岩山で浄水器として活躍中だし。
ちなみにラックは「エリザベス様が信じるなら!」という感じだった。軍師としてそれでいいのか?
まぁとにかく、納得してくれたのならこのまま話を進めよう。エリザベス嬢相手なのでこちらも敬語だ。
「で、その洞窟に入ったところ、既視感とでも言うのでしょうか。ヤバそうな感じがしたのです」
「近づかない方がいいと?」
「いや、『世界』にとってはいずれ何とかしなきゃいけないと思います。ですが、詳細は分かりませんので。まずは拠点を作り、準備万端な状態で調査するべきかと」
「なるほど、ではそのようにいたしましょう」
これまたすんなり納得してくれるエリザベス嬢だった。
「いいのですか?」
「えぇ。真っ当な思考ですし。なにより、わたくしたちの
「……なんでやねん」
思わず突っ込んでしまう俺だった。
「最も合理的な判断だと思いますが?」
「いやいや、血筋で言えば王族に最も近いのはエリザベス嬢ですし、そんなエリザベス嬢の伴侶はラックなのですから。代表というならお二人の方が適しているのでは?」
「そ、そんな……伴侶だなんて……」
恥ずかしそうにしながら自分の頬に両手を当てるエリザベス嬢だった。なんか新鮮。他の女性陣は容赦なくケツを蹴ってくるからなぁ。いやさっきのシャルロットもこんな感じだったか?
と、公爵令嬢としての誇りを思い出したのかエリザベス嬢が咳払いをした。
「とにかく、わたくしはもう公爵家を追放されているでしょうし、血筋はもはや関係ありません。それでも納得できないのなら、公平に多数決といたしましょうか?」
「多数決ですか……」
王政だと王様が全部決めてしまうというイメージがあるが、多くの国は王政でありながら会議(議会)を開き、話し合いと多数決によって物事を決めるのだ。
……まぁ、庶民には参政権なんてないし、話し合いにしても貴族の力関係が大きく影響するんだけどな。それでも王様の独裁よりはマシな国家運営ができるらしい。
それはとにかく、多数決、多数決かぁ。
まぁ、こんな駄目騎士を本気でリーダーに推すことはないだろう。冗談交じりならともかく。
「じゃあ、エリザベス嬢とラックが代表がいいと思う人ー?」
しーん。
誰も挙手しない。なんで? せめてもの抵抗に俺は力一杯手を挙げた。総勢一人。
「ぐっ、じゃあ、俺が代表がいい人ー?」
「はーい!」
「はい」
「ん」
「はい」
「ま、そうなるわな」
シャルロット、メイス、ミラ、エリザベス嬢、ラック……まぁつまりこの場にいる全員が手を挙げたのだった。
な ん で だ よ。