『この出会いがあり、我の名前も知っていた。ならば
くっくっくっ、と。心底面白そうに笑うドラゴン。いや、シルシュ。
名前を思い出したおかげか、彼女についての情報が芋づる式に蘇ってくる。
――シルシュ・ムシュフシュ。
例の『グラン・サーガ ~破滅の王国と七人の騎士~』において重要な役割を果たすドラゴンだ。
世界の破滅を防ぐため、ヒロインと
その聖剣は攻略対象のメイン武器となり。シルシュからの加護を受けたヒロインは聖女としての格が上がり、各種パラメーターが急上昇して……。まぁつまり、ゲーム攻略のための重要なイベントなのだ。
そしてヒロインの純真さに感動したシルシュは邪竜としての姿を捨て、人型となり、ことあるごとに手を貸してくれるお助けキャラ的な立ち位置となるのだが……。
『ほうほう? これはまた面妖な』
シルシュが俺の顔を覗き込んでくる。また心でも読んでいるのだろうか? 今はゲームについての知識で頭がいっぱいだが、大丈夫か?
『うむ。この我を創作物扱いするのは気に食わぬが……愉快ゆえな。許してやろう』
「そりゃどうも」
と、答えた俺はふと気づく。似た目年齢こそ俺に近いが、相手は人を越えた存在・ドラゴン。もうちょっと畏まった言葉遣いをするべきだなと。
『気にするな。人間がどのような口調をしていようが些事ゆえな。それに、今さらであろう?』
「……そりゃまた器が大きいことで」
『うむうむ、それでよい。しかしおぬしの知識は面白いのぉ。なるほど、人間の男に仕えるときはそのような衣装を身に纏うのか』
シルシュが指を鳴らすと、また衣装が替わった。今度はスタンダードなロングスカートのメイド服に。
メイドさん!
銀髪メイドさん!
しかもメイド服は俺好みの質素なデザイン! そうそうやっぱりメイドと言ったらロングスカートだよなミニスカートはちょっと目のやり場に困る――じゃなくて。
「な、なんでメイドに?」
「おぬしの好みじゃろう?」
「ぐっ……」
あまりに的確な返答に反論できなくなる俺だった。
いやいや、落ち着け俺。メイド服は悪ふざけだと納得するとしても、問い糾さなきゃいけないことはたくさんある。
ここはゲームの世界なのか? よく似ただけの世界なのか?
ゲームの設定通りだとして、この剣は『聖剣』なのか?
シルシュが助力しない場合、『
とにかく、一つずつ確認しよう。俺が改めて質問内容を確認していると、
『――ほう、愛されているものじゃな』
シルシュが心底楽しそうに洞窟の天井あたりを見上げた。