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第16話 女心?


 翌朝。


 俺たちは食堂で朝食を取ることにした。

 ただし、寒村から食料を分けてもらうのは気が引けるので、シャルロットが「こんなこともあろうかと!」と空間収納ストレージに大量備蓄していた食糧を供給してもらった形だ。


 シャルロットは『シナリオ』で追放されるのを知っていたからな。事前に色々準備できていたのだろう。……追放令嬢全員分の寝間着まで用意していたらしいのは素直に驚いたが。


「さて」


 食後には歯磨きをしたいのが人情というもの。

 用意のいいシャルロットは人数分の歯磨きと歯磨き粉(前世と違い、本当に粉状)を提供してくれたので、あとは井戸から水をくめば歯磨きができる。


 昨日、村長から井戸の水は使用しないようにと言われたものの、エリザベス嬢が『浄化ライニ』してくれたので問題なく使うことが出来た。ただでさえ水不足の中、俺たちが水瓶の水を使うのも申し訳なかったしな。


(しかし、水の汚染ねぇ?)


 この世界の常識で、まず最初に思いつくのは鉱山開発による鉱毒被害だ。が、この近くでは鉱山開発は行われていないらしい。


 となると地下水の汚染となるのだろうか? そうなるともうお手上げだ。いくら前世の記憶を思い出したところで、俺に水質改善の知識なんてないのだから。


 そう。俺としてはお手上げだったのだが。


「……何とかしてあげたいものですわね」


 そんな呟きをするエリザベス嬢だった。





「何とかしてあげたい、と言われてもなぁ?」


 そりゃあ俺だって何とかしてやりたいが、人間出来ることと出来ないことがあるだろう?


「地下水の水質改善なら、わたくしが浄化ライニを掛ければ……」


 え? まじで? 浄化ライニって地下深くにある水にまで影響を及ぼせるのか? そんなの本物の『聖女』じゃないか。あの王太子、絶対判断を誤っただろ……。


 と、シャルロットが片手を上げた。


「反対だね。エリーの負担が大きすぎるし、たとえ一時的に水質が戻ったとしても、原因が分からなければすぐ元に戻ってしまうはずだよ」


 なるほどその通り。大本を何とかしなければ一時的には改善してもすぐにまた汚染されてしまうはずだ。


 しかしエリザベス嬢は納得しきれないようであり。


「たとえ一時的にとはいえ、村の人が救われるならそれでいいのではないでしょうか?」


 エリザベス嬢の発言を受け、感極まったかのようにラックがエリザベス嬢の手を握った


「エリザベス様っ!」


「ラック様……」


 うっとりと見つめ合う二人はとりあえず置いておくとして。まぁなんとも『聖女様』らしい考え方だよな。


 それを否定するつもりはない。

 誰かを助けられる『力』があるのなら、それを使いたいと思うのが人情だ。

 特に『聖女』となり、困っている人を救い続ける人生を送るなら必須とすら言えるはず。


 しかし、王妃としてはどうだろう?


 王妃になればそんな考えをしていられない。民一人一人のことなど気に掛けず、国全体を運営しなきゃいけないのが王と王妃なのだ。


 極論すれば、100人を救うために10人を切り捨てることを躊躇ためらわない。それが王妃に求められる思考だろう。この村で言えば水質を改善するより村人をどこか別の土地に移して開墾させた方が効率的となる。


 そして、心優しいエリザベス嬢ではそんなことは出来ないはずだ。


 それはそれで素晴らしい人格者だと思う。が。王妃としては……。


(そう考えれば、婚約破棄をした王太子はある意味正しかったのか……?)


 いや、あんな集団婚約破棄野郎の考えに賛同するのは嫌だし、アレは単純にヒロイン様と結婚したかっただけなんだろうけどな。


 俺と似たような考えに至っているのか、シャルロットも困り顔で肩をすくめた。


「やれやれ。アーク君、どうしたものかな?」


「……いやなんで俺に聞いてくるんだ? 俺には水質改善なんて出来ないぞ?」


「だってうち・・のリーダーはアーク君だろう? 何をするにもまずはアーク君が決断してくれないと」


「え? なんで俺? なんで俺がリーダー? 俺なんて一番リーダーに適していない人間だろうが」


 同意を求めてまずはメイスを見る。が、彼女は首を横に振った。


「そうですね。今までの流れからして、アーク様がリーダーをした方がよろしいかと」


 どんな流れだよ? 俺なんて女の子と楽しくお喋りしていただけじゃないか。


「ん。お兄ちゃんでいいと思う」


 ミラ、お前もか……。


 いきなりそんなことを言われてもなぁ。俺は剣を振るしか能がない人間だし、水質改善なんて……。


 …………。


 ふと、思いついたので質問している。


「シャルロットは浄水の知識があるか?」


 俺の問いかけにシャルロットがにやりと笑う。


「いい質問だね。ボクが領地で研究していた・・・・・・・・・浄水方法であれば提供しようじゃないか」


 領地で研究と言うが、どうせ前世知識なんだろうな。


 続いてメイスに視線を移す。


「メイスは水を『鑑定』できるか?」


 もし鑑定できれば水質汚染の原因も分かるだろう。鉱毒か、細菌か。あるいは別に理由があるのか。


 頭のいいメイスは俺の考えを察してくれたみたいだ。


「水を鑑定ですか……。やったことがないので何とも。しかし試してみる価値はあるかと」


 よし、それならさっそく井戸に行ってみて――


 くい、っと。服の裾を掴まれた。


「私は?」


 ちょっと不満げな顔をしているミラ。自分も何かお役に立ちたいということだろうか?


「はははっ、大人が働いているときに遊べるのは子供の特権だぞ?」


 俺が頭を撫でると、ミラはみるみるうちに頬を膨らませてしまった。あれー?


「女心が分かってないねぇ」


「女心が分かってませんね……」


 なぜかシャルロットとメイスに呆れられてしまった。え? これ俺が悪いの?




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