「――おかしいとは思わないか?」
眠りに落ちそうな直前、二段ベッドの下段にいたラックが呟いた。
「あん?」
いきなりどうした?
一応気配を確認したが、侵入者はいない。一体何がおかしいのかと俺がラックの言葉を待っていると、
「こういうとき、『眠れませんの……』と言って女の子が部屋を訪れるものじゃないのか!?」
「……はぁ?」
漫画やアニメの見過ぎだろう。と突っ込もうとして、そういえばこの世界にそんなものはないなと思い直す。つまりコイツは自分の妄想力だけで漫画やアニメのテンプレにたどり着いたわけだ。凄いのか凄くないのか……。
「またアホなことを」
「そう言うな。アークも想像してみろ。静かな夜中に、ドアをノックする音。訝しみながら扉を開けると、そこには――」
「あー……」
眠りに落ちる直前だったので、意識もまだ目覚めきっていない。判断力が鈍っていた俺はラックの言うようにドアを開ける妄想をして――
『やぁ、アーク君』
いつもの調子で。いつもより頬を赤く染めているシャルロット。
『夜分遅くにすみません』
ここに来るまでに『覚悟』は決めたのか、動揺は見られないメイス。
『ん』
だっこして、とばかりに両手を差しのばしてくるミラ。
…………。
「……いやなんで三人なんだよ? パジャマパーティーの開幕か?」
俺が思わず自分の妄想にツッコミを入れると、
「うっわ。まさかの三人同時かよ。このハーレム野郎が」
「……いい度胸だ。表出ろ」
「いいのか? お前相手だと俺なんて三秒も持たないぜ?」
「……騎士としてもうちょっと頑張れよ親友」
「俺は頭脳労働派なんだよ。お前はもっと自分のバケモノじみた強さを自覚しろ、親友」
「騎士団長よりは弱いぞ?」
「あの
「そんなもんかね?」
たしかに訓練時は何分間も剣を合わせることができるが……あれは騎士団長が
いつか、騎士団長と本気でやり合う日も来るのだろうか?
……あ、なんか今の『フラグ』っぽいな?
やだやだ、あんなバケモノと戦うだなんてと俺は布団を被ったのだった。