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第13話 閑話 おもしれー女たち


 エリザベスによって部屋の浄化が終了したあと。


 この建物には多くの部屋があったので一人一部屋で休むことも可能だったが……シャルロットたちは自然とエリザベスのいる部屋に集まっていた。


 よく考えなくても、彼女たちは婚約破棄をされて、魔の森へと追放されている最中。夜一人になるのは不安だったのだろう。

 エリザベスにはラックが寄り添っていて。シャルロットやメイス、ミラは(無条件で味方になってくれた)アークとのやり取りで精神的な余裕ができ、表向きは平気に見えただけで。


 シナリオによってこの未来・・・・を知っていたシャルロットすら、ふとした瞬間不安に苛まれるのだから、そうではない子は尚更だろう。


 そんな不安をかき消すように少女たちは雑談に花を咲かせる。


「……あなたたちは、ずいぶんとアーク様に懐いておりましたわね?」


 からかうような口調で尋ねるエリザベス。こんな質問ができるのは、やはり婚約破棄直後から想い人に支えてもらったからこそだろう。


 そんな親友エリザベスの様子にホッとしつつ、シャルロットが笑う。


「はははっ、懐くか。エリーは中々面白い表現をするね。でもまぁそういう表現も悪くないかもしれないな。アーク君には以前から注目していたが、ここまで楽しい人物とは思わなかったからね」


「たしか、アーク様はシャルの義兄になる予定でしたか」


「そうそう。いやでもあの子が婚約破棄してくれて助かったよ。これで遠慮なく狙いにいける・・・・・・というものだからね」


「…………」


 狙いに。

 それはもちろん恋愛的な意味なのだろう。


 あのシャルロットの口からそんな発言が出ることに驚きを隠せないエリザベスだった。


「――はっ!?」


 まさか、と。エリザベスの脳裏にひらめきが走る。


「シャル、あなた……もしや婚約破棄前からアーク様とねんごろ・・・・な関係でしたの!?」


 婚約者がいるのに浮気! 婚約者がいる相手と浮気! なんという悪役! なんという悪党! と、一人で盛り上がるエリザベスだったが。


「いや、ないない」


「そうですね。アーク様はそんな人ではないでしょう」


「ん、ないない」


 シャルロット、メイス、ミラから口々に否定されて愕然とするエリザベスであった。


(み、皆様、アーク様に対する好感度が高くありませんこと!?)


 当然。婚約破棄のうえ追放されたばかりの時期に優しく接してくれた男性の好感度は高くなるだろう。ラックとべったりだったエリザベスは眼中にもなかったかもしれないが。


 そんなエリザベスを放置してシャルロットは肘でメイスの脇腹を突く。そう、出会ったばかりなのにアークを庇ってみせたメイスのことを。


「メイス君も、ずいぶん積極的だったじゃないか。馬車の中でアーク君に身体を押しつけたりして」


 シャルロットの発言にエリザベスが「あらあら!」と目を丸くする。シャルロットと違い真っ当な貴族令嬢であるメイスが、婚約関係にもない男性に身体を押しつけるだなんて!


 慌てたのはメイスだ。何度も眼鏡を押し上げながら言い訳する。


「あ、あれは違います……い、いえ、違うといいますか、なんといいますか……」


 まさか本人を前に「エリザベス様とラック様の恋路が気になって盗み聞きしようとした結果なんです」とは言えないメイスであった。


「……いえ、あの男と違い、アーク様には粗野な感じがしませんから、自然と距離感が近くなってしまったのは否定しませんけど……」


 アークもそれなりに乱雑な口調だが、それが真っ当に思えるほど元婚約者は悪かったのだろう色々と。


 結果として反論できなくなってしまったメイスの様子を見て、「まさかあのメイス様が……」と勘違いしたまま納得するエリザベスである。


 このままではマズいと判断したメイスは矛先を別の場所に向けることにした。


「せ、積極的と言うならミラ様もそうだったでしょう? まさかアーク様の膝の上に乗るだなんて……」


 あのとき馬車の中にいなかったエリザベスからすれば「あらあらあら!」という事実だ。婚約者と触れあうことすら(公然の場では)控えるべきとされる貴族令嬢が、男性の膝の上に乗るなど! これが愛と言わずに何と言うのかしら! と。もはや思考が近所のおばさんである。


 勝手に盛り上がるエリザベスに対して、ミラがどこか白けた目を向ける。


「お兄ちゃんは、良い人」


「お、お兄ちゃん、ですの?」


「ん。お兄ちゃん」


「お、お兄ちゃんですか……」


 アークが義兄になる予定だったシャルロットがそう呼ぶならまだ理解もできるが、何の関係もなかったはずのミラの呼び方はどういうことなのだろう? あまりに理解がおよばない状況にそれ以上の追求はできなくなるエリザベスだった。


 反撃開始とばかりにミラがエリザベスを見据える。


「そういうエリザベス様は、どうなの?」


「ど、どうとは?」


「ラックと、どうするつもり?」


「う゛っ」


 痛いところを突かれたような顔をするエリザベス。周りからすれば「何を今さら」感しかないのだが。


「わ、わたくしとしましては、ラック様と……いえしかしわたくしは追放された身。騎士としての将来があるラック様に迷惑をおかけするわけには……」


「そういうの、いいから」


 辛辣に突っ込むミラだった。


「…………、…………、……どこか、静かな場所で生きたいですわ。公爵令嬢と騎士ではなく、一人の女と、一人の男として……」


 エリザベスの告白に、一気に盛り上がる女子たちだった。家が決めた婚約者から酷い扱いを受けたお嬢様が、騎士に助けられてささやかながら幸せな日常を得る。年頃の少女はこういう物語が好きなのだろう。



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