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第9話 技


「さて、っと」


 この時代・この世界の村というのは危険な場所、かもしれない。山賊あたりに制圧されて拠点化されていることもあるし、魔物に襲撃されて『巣』になっている可能性もあるからだ。このように大きな街道から外れ、人の流れの外にある村なら尚更だ。


 というわけで。まずは斥候(偵察)として俺が一人で村の中に入ることになった。今のラックは恋愛脳で役に立つかどうか微妙だからな。


「だ、大丈夫ですか?」


 俺の心配をしてくれるメイス嬢。まともだ。まともな反応だ。なぜだか泣けてくるぜ。


「いざという時のために身体強化ミュスクルでも掛けてあげようか?」


 なぜか指をわきわきと動かすシャルロットだった。なんか怖いから遠慮します。


『いざという時は助太刀するぜ!』


 と、腕をブンブン振り回すクマのぬいぐるみ・クーマ(&後ろにいるミラ)だった。頼もしいことだ。


 まぁでもいざとなったら馬車を走らせて逃げればいいだけなのでそんなに心配していない。というわけで俺がゆったりと村の中心部、おそらくは村長の家があるエリアに向けて歩いていると、


「――う、うおぉおおお! か、金を置いて行け!」


 ちょっと慣れていない・・・・・・大声を上げながら、棍棒を振りかぶった男が突っ込んできた。いや、よく見れば棍棒じゃなくて農具の鍬か? 肝心の先端・鉄部分が付いていないが。


 なんとも三下な襲撃方法だ。


 倒したいだけならあのように真っ正面から突っ込んでこず、物陰から襲いかかればいいだけのこと。金目当ての強盗ならまずは友好的に話しかけて油断させればいい。


 それらをせずにこんな動きをするのだから、やはり慣れていない・・・・・・のだろう。


 さて、どうするか。


 目の前には(おそらく)初めて強盗をしようとしている男が一人。食うに困っているのかガリガリだ。


 素人が鍬を振り下ろすより、俺が腰の剣を抜いて切り捨てる方が遥かに早い。


 だが、ここまで雑な襲撃をするからには相当追い込まれているのだろうし、そんな相手を切り捨てるのは気が引ける。


 なにより、年頃のご令嬢が見ている前で流血沙汰や殺人というのもなぁ。


(よし、ここは一発殴って制圧するか)


 そう決めた俺が無手で一歩を踏み出すと――違和感があった。


 自分の身体の動きが、奇妙だ。


 ――今までより、滑らか・・・に感じられる。


 身体の各所がスムーズに連携しているというか。繋がっていなかった場所が繋がったというか。これまでより数段『動ける』という予感がある。


 そしてなにより、これからどうすればいいか身体が覚えている・・・・・・・・


「――――」


 まずはさらに一歩踏み込み。『動ける』という予感を確信に変える。


 振り下ろされる男の手首を掴み。

 俺の身体を軸足中心に半回転させ。

 そのまま、男が鍬を振り下ろす力を利用して――投げ飛ばした。


「ぁぐ!?」


 地面に強く背中を叩きつけられる男。かなり痛そうだが、剣で切られたり殴られたりするよりはダメージが少ないはずだ。


 武器を持った男の無力化。 


 こんな『技』は習ったことがないはずだ。なのに、どうしてか俺は動けてしまった・・・・・・・


 これは、一体……?


「おや、見事な合気道だね」


 少し離れた場所からパチパチと手を叩くシャルロット。


 ――合気道。


 敵の力を利用する武術。

 初めて聞いたはずの単語なのに、魂に染みついているかのように理解できている俺。


(あぁ、これも前世の記憶ってやつか……)


 どうやら先ほど前世の記憶を思い出したおかげで、知識だけではなく身体に染みついた『技』も使えるようになったみたいだ。


 そんな都合のいいことが、と自分でも思うが、使えたのだからしょうがない。


「おっと、まずは拘束しておくか」


 近くに置いてあったロープを使い、襲いかかってきた男を縛り上げる俺だった。




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