「め、メイス。もうちょっと離れてもらえると……」
「へ?」
俺が少し遠回しにお願いすると、メイスが俺の顔を見て、続いて触れあう身体と身体に視線を落とした。
「あ……っ!」
沸騰したかのように顔を真っ赤に染めるメイス。
「も、申し訳ありませんでした!」
馬車の反対側に体当たりする勢いでメイスが俺から距離を取った。ちょっと残念――じゃなかった。気づいてくれて何よりだ。
「お兄ちゃんは変態なの?」
男として当然の反応です。
「…………」
なぜか冷たい目を向けられてしまう俺だった。なぜだ。
それはともかく、そろそろ寝る場所をどうするか考えないといけないな。
俺とラックだけなら馬車の中で野宿ならぬ車中泊をするところ。しかし、貴族のご令嬢にそんなことをさせるのは気が引ける。ここは粗末でもいいからベッドのある場所を準備したいが……。
魔の森へは魔物討伐のために何度か向かったことがある。確かこの近くに寂れた村があったはずだ。宿などあるか分からないが、向かってみる価値はあるだろう。
車内と御者席を繋げる小窓を開き、ラックと相談する。
「ラック。宿泊場所だが、この近くの村に行ってみるのはどうだ?」
「あぁ、まぁそれしかないか。ダメそうなら車中泊か」
「だな。狭いが何とか我慢していただこう」
「そうなるな。……エリザベス様。最悪の場合は馬車の中で一泊していただくことになりますが……」
「はい。ラック様と一緒なら、どんな場所でも耐えてみせますわ」
「いえ、自分は馬車の外で警戒をしていますので――」
「そんな! ラック様を働かせてわたくしだけ眠るなど――」
「しかしですね――」
けっ、イチャイチャしやがって。
少し強めに小窓を閉める俺だった。
「……イチャイチャする?」
小首をかしげるミラだった。まだ膝の上に乗りながら。お前は俺を犯罪者にしたいのか?
「なんだ、アーク君も美少女とイチャイチャしたかったのかい? 言ってくれればいくらでも望みを叶えてあげたというのに!」
まるで舞台俳優のように右手を伸ばし、左手を自分の胸に当てるポーズをするシャルロットだった。おもしれー女。
「ちょっとシャルロット様。男性に対してそんなことを言ったら……」
貴族令嬢らしい常識を説くメイス嬢だった。おもしれー女ばかりだけどツッコミ頑張ってください。
そんな感じのやり取りをしていると馬車は魔の森道中にある村の外れに到着した。