三度目の休憩のあと。
色ボケてないで仕事しろ、ということで俺は半ば無理やりラックと運転手を交代したのだった。
当然というか何というか、王太子の元婚約者で、ラックを慕っているというエリザベス公爵令嬢も付いていき、御者台の助手席に座ったようだ。
というわけで、馬車の中にいるのは四人。
俺の隣にシャルロット(おもしれー女)が座り、対面の席にメイス(眼鏡っ娘)とミラ(&クーマ)が腰を下ろしている。
それぞれの女性と個別に交流したあとだったので、俺は女性だらけの空間でも変に緊張することなく雑談することができていた。
「あのエリザベス嬢は公爵令嬢だったよな? 伯爵家の三男であるラックとは身分が違いすぎるが、どうやって知り合ったんだ?」
俺の疑問にシャルロットが答えてくれた。
「エリーの実家である公爵家は大きな家だからね。分家の一つがラック君の伯爵家らしいよ? きっと一族が集まる場で知り合ったのだろうね」
「あー、なるほど」
貴族の親戚関係は複雑だからな。いちいち覚えてられないし、
「いえ、確認はした方がいいと思いますが。人間関係のこじれに巻き込まれたくないのなら」
と、メイスが助言してくれた。『私の嫌いな〇〇と仲良くするなんて!』って感じか。貴族の場合は名誉やら権力やら歴史やらが絡むから面倒くさそうだ。
「ま、俺は実家を半ば追い出されたようなものだからな。お貴族様の面倒くさい人間関係とは無縁の存在なのさ」
「……騎士様の中にはそういう方も多いと聞きますよね。正直、羨ましいかもしれません」
そう呟いたメイスは深いため息をついた。
「いえ、婚約破棄されて追放された私も、それらとは無縁になったと言えるかもしれませんが」
ならこれからは自由に生きればいいさ。
と、無責任な発言はできなかった。まだこの子らをどうやって救うか決まってないからな。下手に希望を持たせるような発言は慎むべきだろう。いや助けること自体は決めているが。
「お兄ちゃんは変なところで真面目」
ミラからそんな評価を下されてしまった。俺を『真面目』と評するとは、やはりちょっと人を見る目がないんじゃなかろうか?
「……面白い
なぜかミラから半眼を向けられ、クーマは『やれやれだぜ』とばかりに肩をすくめていた。ぬいぐるみで肩なんてないくせにな。
あと、どう考えてもミラの方がおもしれー女(少女)だからな? そこは強く主張しておきたいところだ。
「しかし、エリザベス嬢が婚約破棄されたとなると……」
次の王妃とかどうなるんだろうな? やっぱりあの『ヒロイン様』か?
俺の呟きにシャルロットがうんうんと頷いた。
「ラック君とエリーの恋物語が堂々開幕だね? 分かるよ」
シャルロットの言葉にメイス、ミラが続く。
「いえ、しかし身分が違いすぎるのでは?」
「追放されたのだから、関係ない」
無責任にそんな話題で盛り上がる俺たちだった。
「――お?」
背後から声が聞こえた。
俺の座っている席は、よく考えてみれば壁を挟んで御者席がある。さっきメイスが言っていたように声が聞こえてくるのか。
どれどれと馬車の壁に耳を押しつける俺。
『いけません! ラック様には騎士としての未来が――!』
『ですが、エリザベス様を見捨てて帰ることなどできません』
『これはわたくしの失態が起こしたこと! ラック様を巻き込むわけには!』
『いいえ、それは冤罪です。私は貴女の誇り高さ、公平さ、そして何よりも優しさを知っているのですから』
『ラック様……』
おぉ、なんかいい雰囲気だな。完全に二人の世界じゃないか。というかラックお前そんなに紳士というかイケメンな言動ができたのか……?
盗み聞きは趣味じゃないが、いやいや聞こえてしまうんだからしょうがないよな。
「へぇ? 面白そうな事態になっているね?」
俺と同じように壁へと耳を押しつけるシャルロット。それはいいんだがなんでわざわざ俺に身体を寄せてくるんだ? ちょっとこう、あれだ、腕に柔らかい感触が……。
「まさかあのエリザベス様が……」
驚きの声を上げつつ、俺の横に強引に割り込み壁に耳を押しつけるメイス嬢。こっちからも柔らかい感触が。
いやいや、シャルロットならまだ分かるが、年頃のご令嬢がそう簡単に男に近づいちゃいけないって。シャルロットならまだ分かるが。
「ん」
なぜか俺の膝の上に腰を下ろすミラ。いやせめて盗み聞きはしろよ。何で俺を椅子にして満足しているんだよ。
両手に花。そして膝の上にも美少女。
ちょっと前の俺なら羨ましがる状況のはずなのだが……存外、喜ぶ余裕ってないのな。柔らかな感触やらいい香りやらで思考が止まりそうになるというか。ドキドキより戸惑いの方が上回るぜ……。
『見た目は極悪人のくせに、案外ヘタレなのな』
うるせぇぞクーマ。