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第6話 おもしれー女・その3


 馬車は再び停車し、しばしの休憩となった。


 休憩後、御者席の隣に座ったのは一回り小さな少女。


 名前は……ミラ・アーラル伯爵令嬢だったか?


 シャルロットよりもさらに色の濃い銀髪。


 この世界では『銀髪持ち』は人を超える魔力を持つとされている。特にミラの保有魔力は絶大で、それに注目した魔導師団長が半ば無理やりミラを自分の息子の婚約者に据えた。……と、いうのは俺ですら知っている噂だ。


 侯爵(高位貴族)である魔導師団長の家と、伯爵(中位貴族)家の娘。結婚できない訳ではないが、身分差で周りがうるさく言ってきそうな家格差だ。


 ちなみに貴族の家格としては公爵>侯爵>辺境伯>伯爵>子爵>男爵>騎士爵となっていて――まぁそれはどうでもいいか。


 無理やり結んだ婚約であるせいか、年齢も少し釣り合っていない。魔導師団長の息子やシャルロットたちは貴族学園の卒業生なので17歳であるはずだが……このミラという少女はまだ12とか13歳くらいにしか見えない。


 そんな子が貴族学園の卒業記念パーティーにいたのは……まさか、一緒に婚約破棄をするためにわざわざ呼び寄せたのだろうか?


 クズだな。


 追放されたのは不幸だが、そんなヤツと結婚しなくてもよくなったのだから評価に困るよな。


 そんなミラは銀髪をツインテールにまとめ、フリフリしたドレスを身に纏い、自分の身長の半分くらいはありそうなクマの人形を抱き抱えていた。前世の知識で言うとゴスロリっぽい感じ。


 何より目立つのが左右で色の違うオッドアイだ。右目が青で、左目が金。とくに左目は黄金のように光り輝いている。


 まさしく『お人形さんのような』美少女なので、きっと将来は美人さんになるだろうな。うんうん、将来が楽しみだ。この子の未来のためにも、これは本格的に逃がしたあとのことを考えなきゃいけないか。


「…………」


 俺が決意を新たにしている間。ミラはじぃーっと俺の顔を凝視していた。

 なんだろう? こう、俺という人間を見極められている気がする。いやしかし12とか13歳くらいの少女がそんなことをするはずがないし、ただ単に警戒されているだけか?


「か、可愛いクマさんだな~?」


 警戒心を少しでも解こうと、そんなことを口にする俺だった。いや我ながら不審者っぽいな。


「…………」


 ずい、っとクマの人形を俺に差し出してくるミラ。


『よう! 俺の名前はクーマだ!』


 人形の腕を上下に動かしながら、裏声でそんなことを言ってくるミラ。……いや、ミラの口は動いていないから、腹話術だろうか?


 まぁ、たとえお人形さん遊びでも、付き合ってくれるなら乗るとしましょうかね。


「おう、クーマか。俺の名前はアークだ」


『悪?』


「アーーークだ。クマのくせにいい度胸しているじゃないか」


『お? なんだやるのか? 騎士だからって容赦はしねぇぞ?』


 器用にも人形を動かし、クーマにシャドーボクシングをさせるミラだった。ちょっと楽しくなってきたな。昔は妹とよくやったものだ。


「ほう? この俺に喧嘩を売るとはいい度胸じゃねぇか」


 しゅ、しゅ、っと。御者台に座ったままシャドーボクシング返し(?)をする俺である。


 騎士団で鍛えた身体能力を察したのか『や、やるじゃねぇか……』と冷や汗を流すクーマだった。

 ……うん? 今、ぬいぐるみが冷や汗を流してなかったか? 気のせいか?


 いやいや、そんなはずないか。気を取り直した俺はクーマ越しにミラへと話しかけた。


「お嬢ちゃん、今回は災難だったな。大丈夫か?」


「…………。……うん、平気。優しいお兄ちゃんに助けてもらったから」


 優しい?


「あぁ、ラックのことか。あいつは見た目だけなら優男だからな。しかし嬢ちゃん、人は見た目によらないというか、あいつは下ネタ大好きな不真面目騎士で――」


「違う」


「ちがう?」


「お兄ちゃんに、助けてもらえた」


「おにいちゃん?」


 クーマの頭越しにミラが見つめているのは――間違いなく、俺。


 俺が優しいとな?

 この、目つきが悪く態度が悪く騎士団長から叱られてばかりの俺が、優しいとな?


 う~ん? 人を見る目がないとか?

 あるいは悪い人間に憧れる年頃で、「あの人は本当は優しいの!」とか妄想しちゃったとか?


「違う」


 まるで俺の心を読んだかのように断言するミラだった。


「お兄ちゃんは、優しい。だから、私たちを助けて欲しい」


「いや、まぁ、優しいかどうかはともかく、助けられるよう努力はするさ。……だが、いまさらだが、その『お兄ちゃん』ってのは?」


「男の人は年下の少女から『お兄ちゃん』って呼ばれると弱い。シャルロットがそう教えてくれた」


「何を教えているんだあの女は……」


 いや、まぁ、自分のことを『お兄ちゃん』と呼び慕ってくる少女は見捨てることができないし、その意味ではシャルロットの狙いも正しいのが何とも……。


「やっぱり、優しい」


 クーマを抱きしめながら、満足げな顔で俺を見るミラだった。


 なんというか、こいつも面白い女というか少女だな?




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