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第21話 彼のこと

 龍の腕は言わずもがなだが、アルバートもやはり王子の従者というだけのことはあり、かなりの腕の持ち主だった。

 二人がやり合うと、なかなか決着がつかない。

 私はいつも待ちぼうけ。


 これは長くなりそう、と判断した私は近くのベンチに腰を下ろす。

 すると、ヘンリーも私の隣にちょこんと座ってきた。


「本当に二人は仲良しだよね」


 戦う二人を見ながら呑気そうに笑っているヘンリーを見つめ、私はあきれたように笑った。

 いや、あなたのせいですけどね。と心の中でツッコミを入れる。


 私はヘンリーを見つめながら、ある男性のことを思い浮かべていた。


 あの人はどうしているだろうか……もうそろそろまたお見舞いへ行こうかな。

 そんなことを考えながら、龍とアルバートの対戦を見守った。



 そして、時は過ぎ……二人の対戦も、なんとか終結しゅうけつを迎えた。

 肩で息をしながらまだ睨み合っているが、二人の動きは止まっている。


 通り過ぎて行く人々が、先ほどから何事かという視線を二人に送っている。何かの撮影かと思われているのだろうか。

 こんな白昼堂々、しかも街中で、あんなに激しい戦闘を繰り広げている一般人はそうそういない。


 本当に困ったものだ。二人の対決は、いつもなかなか決着がつかない。

 どちらかの体力が限界を迎えるか、私が待つことに疲れ、怒り出すことで終止符が打たれるか。

 たいてい、私が怒りだすことで終わることが多かった。


 今回も私がキレた。

 通行の邪魔になるし、ここは早めに切り上げた方がいいと思った私は、時を見計らい二人に向け怒ったのだ。

 私がよほど怖いのか……怒られた二人はピタリと動きを止め、急に大人しくなる。


 まあ龍は私の言うことだから逆らえないのだろう。アルバートもヘンリーの好きな人という私の立ち位置を考えてのことだろうか。

 傍から見たら、私がめちゃくちゃ怖い人みたいに見えるではないか……と、少し悩みどころだ。



 龍とアルバートの問題もクリアした私は、気を取り直し、当初の目的を遂げようと考えた。


 不機嫌そうな二人を引き連れ、ヘンリーが行きたいという場所を巡っていく。

 未知の体験に、はしゃぎ喜ぶヘンリー。

 そんな姿を目にしていると、ふと私の頭の中に、例の彼のことが思い浮かんでくる。

 やっぱり帰りに寄ってみよう、そう思った。


 私は頃合いを見計らい、皆に声をかけた。


「私これから行くとこあるから、先帰っておいてくれる?」


 突然の発言に、皆が一斉に私に注目する。


「では、私もお供いたします」


 龍が私の隣にピタリと寄り添ってきた。


「いいよ、私一人で行くから」


 龍は私の眼差しから、どこへ行くのかだいたい見当がついたようだ。

 一瞬寂しげな表情を見せた龍だったが、すぐにいつもの真顔へと戻り、頷く。


「わかりました。遅くならないにようにお願いします」

「うん、大丈夫、ありがとう。じゃあ、ヘンリーたちを家までお願いね」

「えー、流華、どこ行くの? 僕も連れてってよ」


 ヘンリーが私の周りをぐるぐると旋回しながら、まとわりついてくる。

 龍はヘンリーの肩をがしっと掴むと、私から引き剥がした。


「おまえは俺と一緒に帰るんだ」

「そんなー、嫌だー」


 子どものように駄々をこねるヘンリーを、龍が無理やり引きずっていく。


「おい、ヘンリー様に何をする」


 怒ったアルバートは龍の行く手を阻んだ。が、龍は無視を決め込み、アルバートをするりとかわし進んでいく。


「貴様! また私にやられたいのか?」


 アルバートの叫びに、龍の足が止まった。


「なんだと?」


 振り返った龍のこめかみには、また血管が浮き出ている。


「龍!」


 私が叫ぶと、龍は困った表情でこちらを見つめる。

 その様子に、アルバートが勝ち誇ったように微笑んだ。


「お主、あの方には弱いのだな。

 まあ、私もヘンリー様を悲しませたくはない。ここは我慢しようではないか」


 アルバートも最近私の言うことを聞くようになってきた。

 ヘンリーが好きな相手というだけで、彼の中で私の株は上がっているらしい。


「むー、わかったよ。流華、早く帰ってきてね」


 龍に引きずられながら大きく手を振るヘンリー。


 私は笑顔で三人を見送った。

 相変わらず龍とアルバートは言い争いを続けている。

 その姿を見て、私は小さくため息をつく。


「さて、行きますかっ」


 一度大きく深呼吸し気持ちを落ち着けてから、私はヘンリーたちに背を向け歩き出した。


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