龍の腕は言わずもがなだが、アルバートもやはり王子の従者というだけのことはあり、かなりの腕の持ち主だった。
二人がやり合うと、なかなか決着がつかない。
私はいつも待ちぼうけ。
これは長くなりそう、と判断した私は近くのベンチに腰を下ろす。
すると、ヘンリーも私の隣にちょこんと座ってきた。
「本当に二人は仲良しだよね」
戦う二人を見ながら呑気そうに笑っているヘンリーを見つめ、私はあきれたように笑った。
いや、あなたのせいですけどね。と心の中でツッコミを入れる。
私はヘンリーを見つめながら、ある男性のことを思い浮かべていた。
あの人はどうしているだろうか……もうそろそろまたお見舞いへ行こうかな。
そんなことを考えながら、龍とアルバートの対戦を見守った。
そして、時は過ぎ……二人の対戦も、なんとか
肩で息をしながらまだ睨み合っているが、二人の動きは止まっている。
通り過ぎて行く人々が、先ほどから何事かという視線を二人に送っている。何かの撮影かと思われているのだろうか。
こんな白昼堂々、しかも街中で、あんなに激しい戦闘を繰り広げている一般人はそうそういない。
本当に困ったものだ。二人の対決は、いつもなかなか決着がつかない。
どちらかの体力が限界を迎えるか、私が待つことに疲れ、怒り出すことで終止符が打たれるか。
たいてい、私が怒りだすことで終わることが多かった。
今回も私がキレた。
通行の邪魔になるし、ここは早めに切り上げた方がいいと思った私は、時を見計らい二人に向け怒ったのだ。
私がよほど怖いのか……怒られた二人はピタリと動きを止め、急に大人しくなる。
まあ龍は私の言うことだから逆らえないのだろう。アルバートもヘンリーの好きな人という私の立ち位置を考えてのことだろうか。
傍から見たら、私がめちゃくちゃ怖い人みたいに見えるではないか……と、少し悩みどころだ。
龍とアルバートの問題もクリアした私は、気を取り直し、当初の目的を遂げようと考えた。
不機嫌そうな二人を引き連れ、ヘンリーが行きたいという場所を巡っていく。
未知の体験に、はしゃぎ喜ぶヘンリー。
そんな姿を目にしていると、ふと私の頭の中に、例の彼のことが思い浮かんでくる。
やっぱり帰りに寄ってみよう、そう思った。
私は頃合いを見計らい、皆に声をかけた。
「私これから行くとこあるから、先帰っておいてくれる?」
突然の発言に、皆が一斉に私に注目する。
「では、私もお供いたします」
龍が私の隣にピタリと寄り添ってきた。
「いいよ、私一人で行くから」
龍は私の眼差しから、どこへ行くのかだいたい見当がついたようだ。
一瞬寂しげな表情を見せた龍だったが、すぐにいつもの真顔へと戻り、頷く。
「わかりました。遅くならないにようにお願いします」
「うん、大丈夫、ありがとう。じゃあ、ヘンリーたちを家までお願いね」
「えー、流華、どこ行くの? 僕も連れてってよ」
ヘンリーが私の周りをぐるぐると旋回しながら、まとわりついてくる。
龍はヘンリーの肩をがしっと掴むと、私から引き剥がした。
「おまえは俺と一緒に帰るんだ」
「そんなー、嫌だー」
子どものように駄々をこねるヘンリーを、龍が無理やり引きずっていく。
「おい、ヘンリー様に何をする」
怒ったアルバートは龍の行く手を阻んだ。が、龍は無視を決め込み、アルバートをするりとかわし進んでいく。
「貴様! また私にやられたいのか?」
アルバートの叫びに、龍の足が止まった。
「なんだと?」
振り返った龍のこめかみには、また血管が浮き出ている。
「龍!」
私が叫ぶと、龍は困った表情でこちらを見つめる。
その様子に、アルバートが勝ち誇ったように微笑んだ。
「お主、あの方には弱いのだな。
まあ、私もヘンリー様を悲しませたくはない。ここは我慢しようではないか」
アルバートも最近私の言うことを聞くようになってきた。
ヘンリーが好きな相手というだけで、彼の中で私の株は上がっているらしい。
「むー、わかったよ。流華、早く帰ってきてね」
龍に引きずられながら大きく手を振るヘンリー。
私は笑顔で三人を見送った。
相変わらず龍とアルバートは言い争いを続けている。
その姿を見て、私は小さくため息をつく。
「さて、行きますかっ」
一度大きく深呼吸し気持ちを落ち着けてから、私はヘンリーたちに背を向け歩き出した。