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第19話 初お出かけ

 その日、疲れた私は早々に眠りについた。

 すると、また夢を見た。


 またあの映像?



 誰かと一緒に走っている。

 必死に走っているせいで、二人ともかなり息が上がっていた。


 手を繋ぎながら森の中を駆けていく。

 後ろを振り返ると、どうやら追手が迫ってきているようだった。

 私と一緒に走るのは、いつもの金髪の男性。


 森を抜けるとそこは崖の上。

 目の前には、闇に溶け込んだような黒い海がどこまでも広がっている。


 ザァッと風が吹き抜けた。


 私は隣の男性にしがみつく。男性も私をきつく抱きしめ返した。


 頬を涙が伝っていく。

 男性は私の涙をぬぐうと優しく微笑んだ。

 そしてそっと私に口づける。



 映像はもやがかかったように、だんだんと薄れていく。


 これは何? 夢?

 夢にしては、この前から同じ人物ばかり見ている気がする。

 それに、なんだか懐かく感じるのはなぜ?


 だんだんと意識が薄れていき、私はいつの間にか深い眠りについていた。





 今日は学校が休み、そう休日。

 いつもなら家でゴロゴロするか、貴子と遊びに出掛けるのだが、今日は違う。


 ヘンリーとアルバートがいつまでこちらの世界にいるかわからないけれど、長期戦になることも考え、こちらの世界のことを少し教えておいた方がいいだろう。

 その方が私も心配しないでいいし、楽だしね。


 そう考えた私は早速ヘンリーとアルバートを誘って出掛けようとした。

 すると案の定、龍が「自分も行きます」と名乗りを上げてきた。


 龍はヘンリーとアルバートのどちらのことも気に食わないらしく、睨みつけている。

 いい加減、一緒に暮らしているのだから、仲良くしてほしいものだ。


 まずどこへ行こうかなと考えていると、ヘンリーが楽しそうに発言する。


「はい! 僕、お腹空いたから何か美味しいもの食べたいな。

 ねえ流華、どこかで一緒に食べよう」


 そう言えば、もうすぐお昼の時間帯だ。

 ちょうどいいかも。




 私の前には、ウキウキとした様子でメニューをめくるヘンリーが座っている。

 隣には仏頂面した龍が座り、斜め前にはヘンリーのことを嬉しそうに眺めるアルバートの姿があった。


 私たち四人は、近所にあるファミリーレストランに来ていた。

 高校生の私には金銭的余裕はない。美味しいものを食べたいと言われても、申し訳ないがレストランなどの場所へは連れていけない。

 ヘンリーは王子だから、舌が肥えていることだろう。ここで満足できるだろうか……とちょっと不安ではある。


「僕、ハンバーグがいい。この目玉焼きが乗ってるやつ」


 私の心配をよそに、ヘンリーは目を輝かせている。どうやら楽しんでいるようだ。

 本当にヘンリーは王子なのだろうか? そんな子どもみたいな瞳でハンバーグなどと言う王子がいるか?

 そんなところもまあ、可愛いけど。


「私も、同じでいいや」


 私は考えるのが面倒で、同じものを頼んだ。


「俺も同じでいい」

「私も王子と同じものを」


 龍もアルバートも考えることを放棄したようだ。

 なぜか全員同じものを仲良く食べることになってしまった。


 大の男三人とうら若き女性が、皆揃って目玉焼きハンバーグ……。

 持ってきた定員が私たちをちょっと引き気味で見つめている。

 もうこういう目にも慣れてきた、どうでもいいや。


 私はハンバーグを口に運ぶ。

 うん、なかなか美味しい。


 ふと視線をヘンリーに移す。


 さすが王子、食べる所作しょさがとても美しい。

 ナイフとフォークの扱い方が洗練されていて、動作一つ一つがマナーに乗っ取った貴族らしさを垣間かいま見せている。


 知らぬ間に見惚れていた私は、龍の咳払いによって覚醒する。

 視線に気づいたヘンリーが嬉しそうな笑みを私に向けていた。


 なんだか気まずい私は、視線を逸らし、食べることに集中した。




 食べ終わった私たちは店を出る。

 すると、ヘンリーが急にソワソワと辺りを見回しながら私に尋ねてきた。


「ねえ、ねえ、なんでみんなあの小さい札に夢中なの?」


 スマホのことを言っているらしい。

 確かに世の中の人はあれに夢中だ。


「あれはスマホ、もといスマートフォンと言って、あれがあれば情報は何でも手に入るし、買い物もできるし、遊ぶこともできる。何でもできる便利な道具だよ」

「ふーん。あ、ねえ、あれ食べたい」


 切り替え早いな! もう別の物に興味が移っている。


 ヘンリーが指差した先にいた人が持っていたのは、ソフトクリームだった。

 どうしても食べたいというヘンリーのために、私はお店を探した。


 店を見つけソフトクリームを買った私は、ヘンリーにそれを差し出す。

 目を輝かせ、私からそれを受け取ったヘンリーは大きな口を開けてかぶりついた。


「おいしい! 冷たくて甘くて、これ考えた人天才だね」

「そう、よかったね」


 私はなんだか子守りをしている気分になってきて、あきれたように短いため息をつく。

 ふと見上げると、映画の看板が目に入った。 


 そういえば、これ見たいと思ってたんだった。

 話題になってる恋愛映画。好きな女優さんが出ているから気になってた。

 最近忙しくてすっかり忘れてたな。


 私がぼーっとその看板を眺めていると、ヘンリーが声をかけてくる。


「どうしたの?」

「ん? ああ、あの映画、見たかったなあって」

「じゃ、見ようよ」

「は? ちょっ」


 私が驚いている間にヘンリーは映画館の方へ歩き出していた。


「お嬢、映画が見たかったんですか? なら、言ってくださればいいのに」


 龍も笑顔で私の背中を押していく。


「いや、別に、私一人で」

「映画とは何ですか? 大変興味深い。こちらの物は全て興味深い」


 アルバートも興味深そうに映画館へと向かっていく。


 なんだかあっという間に、物事が進んでいってしまう。

 ずんずん進んでいくヘンリーたちの背中を見つめながら、私は観念した。


 まあ、映画が見たかったのは本当だし……ここは皆に甘えようかな。

 もうこの人たちを止めることは、私にできそうもないし。


 というとで、なぜか私は四人で映画を見ることになった。


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