その日、疲れた私は早々に眠りについた。
すると、また夢を見た。
またあの映像?
誰かと一緒に走っている。
必死に走っているせいで、二人ともかなり息が上がっていた。
手を繋ぎながら森の中を駆けていく。
後ろを振り返ると、どうやら追手が迫ってきているようだった。
私と一緒に走るのは、いつもの金髪の男性。
森を抜けるとそこは崖の上。
目の前には、闇に溶け込んだような黒い海がどこまでも広がっている。
ザァッと風が吹き抜けた。
私は隣の男性にしがみつく。男性も私をきつく抱きしめ返した。
頬を涙が伝っていく。
男性は私の涙を
そしてそっと私に口づける。
映像は
これは何? 夢?
夢にしては、この前から同じ人物ばかり見ている気がする。
それに、なんだか懐かく感じるのはなぜ?
だんだんと意識が薄れていき、私はいつの間にか深い眠りについていた。
今日は学校が休み、そう休日。
いつもなら家でゴロゴロするか、貴子と遊びに出掛けるのだが、今日は違う。
ヘンリーとアルバートがいつまでこちらの世界にいるかわからないけれど、長期戦になることも考え、こちらの世界のことを少し教えておいた方がいいだろう。
その方が私も心配しないでいいし、楽だしね。
そう考えた私は早速ヘンリーとアルバートを誘って出掛けようとした。
すると案の定、龍が「自分も行きます」と名乗りを上げてきた。
龍はヘンリーとアルバートのどちらのことも気に食わないらしく、睨みつけている。
いい加減、一緒に暮らしているのだから、仲良くしてほしいものだ。
まずどこへ行こうかなと考えていると、ヘンリーが楽しそうに発言する。
「はい! 僕、お腹空いたから何か美味しいもの食べたいな。
ねえ流華、どこかで一緒に食べよう」
そう言えば、もうすぐお昼の時間帯だ。
ちょうどいいかも。
私の前には、ウキウキとした様子でメニューをめくるヘンリーが座っている。
隣には仏頂面した龍が座り、斜め前にはヘンリーのことを嬉しそうに眺めるアルバートの姿があった。
私たち四人は、近所にあるファミリーレストランに来ていた。
高校生の私には金銭的余裕はない。美味しいものを食べたいと言われても、申し訳ないがレストランなどの場所へは連れていけない。
ヘンリーは王子だから、舌が肥えていることだろう。ここで満足できるだろうか……とちょっと不安ではある。
「僕、ハンバーグがいい。この目玉焼きが乗ってるやつ」
私の心配をよそに、ヘンリーは目を輝かせている。どうやら楽しんでいるようだ。
本当にヘンリーは王子なのだろうか? そんな子どもみたいな瞳でハンバーグなどと言う王子がいるか?
そんなところもまあ、可愛いけど。
「私も、同じでいいや」
私は考えるのが面倒で、同じものを頼んだ。
「俺も同じでいい」
「私も王子と同じものを」
龍もアルバートも考えることを放棄したようだ。
なぜか全員同じものを仲良く食べることになってしまった。
大の男三人とうら若き女性が、皆揃って目玉焼きハンバーグ……。
持ってきた定員が私たちをちょっと引き気味で見つめている。
もうこういう目にも慣れてきた、どうでもいいや。
私はハンバーグを口に運ぶ。
うん、なかなか美味しい。
ふと視線をヘンリーに移す。
さすが王子、食べる
ナイフとフォークの扱い方が洗練されていて、動作一つ一つがマナーに乗っ取った貴族らしさを
知らぬ間に見惚れていた私は、龍の咳払いによって覚醒する。
視線に気づいたヘンリーが嬉しそうな笑みを私に向けていた。
なんだか気まずい私は、視線を逸らし、食べることに集中した。
食べ終わった私たちは店を出る。
すると、ヘンリーが急にソワソワと辺りを見回しながら私に尋ねてきた。
「ねえ、ねえ、なんでみんなあの小さい札に夢中なの?」
スマホのことを言っているらしい。
確かに世の中の人はあれに夢中だ。
「あれはスマホ、もといスマートフォンと言って、あれがあれば情報は何でも手に入るし、買い物もできるし、遊ぶこともできる。何でもできる便利な道具だよ」
「ふーん。あ、ねえ、あれ食べたい」
切り替え早いな! もう別の物に興味が移っている。
ヘンリーが指差した先にいた人が持っていたのは、ソフトクリームだった。
どうしても食べたいというヘンリーのために、私はお店を探した。
店を見つけソフトクリームを買った私は、ヘンリーにそれを差し出す。
目を輝かせ、私からそれを受け取ったヘンリーは大きな口を開けてかぶりついた。
「おいしい! 冷たくて甘くて、これ考えた人天才だね」
「そう、よかったね」
私はなんだか子守りをしている気分になってきて、あきれたように短いため息をつく。
ふと見上げると、映画の看板が目に入った。
そういえば、これ見たいと思ってたんだった。
話題になってる恋愛映画。好きな女優さんが出ているから気になってた。
最近忙しくてすっかり忘れてたな。
私がぼーっとその看板を眺めていると、ヘンリーが声をかけてくる。
「どうしたの?」
「ん? ああ、あの映画、見たかったなあって」
「じゃ、見ようよ」
「は? ちょっ」
私が驚いている間にヘンリーは映画館の方へ歩き出していた。
「お嬢、映画が見たかったんですか? なら、言ってくださればいいのに」
龍も笑顔で私の背中を押していく。
「いや、別に、私一人で」
「映画とは何ですか? 大変興味深い。こちらの物は全て興味深い」
アルバートも興味深そうに映画館へと向かっていく。
なんだかあっという間に、物事が進んでいってしまう。
ずんずん進んでいくヘンリーたちの背中を見つめながら、私は観念した。
まあ、映画が見たかったのは本当だし……ここは皆に甘えようかな。
もうこの人たちを止めることは、私にできそうもないし。
というとで、なぜか私は四人で映画を見ることになった。