風呂場から救出されたアルバートは、適当な浴衣を着せられ、空いている部屋へと運ばれていった。
龍が用意した布団に転がり、幸せそうな顔をして眠っている。
私とヘンリーと龍の三人は、布団ですやすやと寝むるアルバートを取り囲み見下ろした。
「ヘンリー、説明してもらおうか?」
私がヘンリーを睨む。
ヘンリーは私の視線など気にも留めず、可愛くニコッと微笑むと語り出す。
「アルバートはね、僕の執事なんだ」
「執事? はぁ、まあヘンリーは王子だもんねって、なんで執事までこっちの世界にやって来てるの?」
「さあ、なんでだろ?」
ヘンリーは不思議そうに、眠っているアルバートの顔をじっと見つめる。
そのとき、アルバートの瞳がカっと大きく開いたかと思うと、すぐにガバッと起き上がり、ヘンリーを見て叫んだ。
「ヘンリー様! よかった、ご無事で!」
アルバートがヘンリーを抱きしめる。
ヘンリーは小さい子をあやすかの様に、アルバートの背中をさすっている。
「アルバート、心配かけてすまなかった。僕はこの通り、元気でやっているよ」
「王子がいなくなってからというもの、生きている心地がしませんでした。
皆心配しております。早く帰りましょう」
アルバートは
そんなアルバートを見つめながら、ヘンリーは気まずそうに頭を
「それが……戻り方がわからないんだ」
「……なんですってーーー!!」
アルバートはショックで固まってしまう。
それはそうだろう。
わけもわからず知らない場所へやってきて、帰り方がわからないなんて、絶望的だ。
それを楽観的に楽しんでいるヘンリーがどうかしているのだ。
私はアルバートに同情の眼差しを向けた。
「でも、大丈夫。この流華が、とっても親切に僕のお世話してくれるから」
ヘンリーが
『あーーー!!』
龍とアルバートが同時に叫ぶ。
「貴様! 性懲りもなくっ」
龍がヘンリーに掴みかかろうとすると、すぐにアルバートが龍の腕を掴み、その動きを止めた。
「貴様、王子に何をしようとしている?」
龍とアルバートは鋭い眼差しで睨み合う。
「ほう、王子なら王子らしい振る舞いをしてほしいものだ。ろくな
龍が嫌味な笑みをアルバートに向けた。
「ふん、どうせうちの王子をそちらの姫君がたぶらかしたのだろう。
そちらの躾こそ、なっていないのではないか?」
アルバートも負けじと龍に挑戦的な態度を取る。
「お嬢を……
龍の顔は無表情だったが、彼の目つきと声音が恐ろしいものへと変わった。
これはちょっとやばいかも。
私は急いで止めに入る。
「ねえ、その辺でストップ! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」
「そうだよ、アルバートも流華のこと、悪く言ったら許さない」
私とヘンリーが二人の間に割って入ると、その場の空気が
そこへ、ちょうど通りかかった祖父が顔を覗かせた。
「おーおー、もう一人増えとるっ」
祖父は驚くことなく、嬉しそうにニコニコしながらこちらへやって来る。
何事にも動じない祖父はさすがというか何というか。
こういうところは、改めて大物だと感じる。いつもは忘れてるけど。
「ご老人が、ここの
アルバートが祖父に尋ねる。
「うむ、そうじゃ」
祖父が
その姿には威厳があり、どこぞの王様のように見えなくもない。
アルバートは祖父の前に
「どうか、ヘンリー王子と共に、しばらくここに置いてはくださりませんか?」
「いいぞ」
え! そんなあっさり?
あまりの承諾の速さに、私は驚きを隠せない。
「有難き幸せっ」
アルバートが深々と頭を下げる。
即座に龍が祖父に抗議した。
「いいのですか! こんな訳の分からない
「別に一人も二人も同じじゃ。ヘンリーもいい奴だし、こいつもきっといい奴じゃて」
龍の肩をポンと叩き、何度か頷くと祖父は去っていった。
「ふむ、実に
アルバートが感心したように頷いている。
龍は納得いかない様子で、しかめっ面をアルバートに向け睨んだ。
私は大きなため息をついてから、ヘンリーとアルバートを交互に見つめる。
「もうこうなったらおじいちゃんの言う通り、一人も二人も同じよ。
いいわ、ヘンリーとアルバート、二人とも元の世界に帰れるまで面倒みてあげるわよ」
こうなったらとことん付き合ってやろうじゃない。
私だって祖父の血を受け継いでいるのだ。
「さっすが、流華。かっこいい! 僕のお姫様」
喜びに溢れたヘンリーが私の頬にキスをした。
「もうっ、いつも急にしないでって、言ってるでしょ?」
「急じゃなければいいの?」
「そういうことじゃなくてっ」
私たちが揉めていると、恐い顔の龍とアルバートが近づいてくる。
「貴様……いい加減にしろよっ」
「あなたたちは、いったいどういう関係なんですか?」
恐ろしい顔をした二人が迫り来る。
このあと、私とヘンリーは二人を