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第14話 肝試し大会

 夜の学校とは、なぜこんなにも気味が悪いのだろう。


 いつもより数倍おどろおどろしい雰囲気を醸し出している学校を見つめながら、私はここへ来てしまったことを後悔し始めていた。


 真っ暗な中、不気味な要塞ようさいのようにそびえ立つ学校。


 空気も、気のせいかいつもより冷たく感じる。

 周りを取り囲む只ならぬモノたちが存在しているかのような妖気を感じ、私は身震いした。


 学校の外でこんな状態なのに、中はきっとさらに恐ろしいに違いない。


 私は心の中で何かお経のようなものを唱えながら、学校の門をくぐっていった。



 門から玄関までの道のりを、一歩一歩ゆっくりとした歩みで進んでいく。

 何かが突然現れてもいいように、私は辺りへの警戒を緩めようとはしなかった。


 その間、たくさんの生徒たちとすれ違っていく。

 カップルらしき男女二人組、友達同士で来ていると思われる複数組、たった一人で来ている強者までいる。


 まあ、ほとんどが男女のカップルだけど……。

 そりゃそうだよね、そのためのイベントだし。

 皆、怖くないのかな。


 私は辺りをキョロキョロと見渡してみるが、皆楽しそうに友達と語り合ったり、男女で気恥ずかしそうに話したり、恋人のように寄り添ってラブラブな雰囲気を醸し出す人たちばかりだ。


 その様子に、私はため息をつき、肩をがくっと落とした。


 実は私、幽霊とか苦手で、結構な恐がりだったりする。

 肝試しなんて普段なら絶対参加しない。


 今日は生徒が企画したこととはいえ、学校も協力していた。

 生徒の中に先生が一人混じっており、その先生が点呼を取っている。

 来た時と帰る前に、その先生に名前を言う仕組みらしい。


 生徒が考えた企画を学校を挙げて応援してくれるなんて、すごいな。

 うちの学校は、生徒想いのいい学校だったんだ。と、今更ながら学校を見直す私だった。


 そのおかげもあってか、恐怖で冷え込んだ私の心がほんのりと温かくなった……ような気がする。




 点呼を済ませた私たちは、他の生徒たちに混じって開始の合図を待つ。


「お嬢、私はここでお待ちしておりますので」


 案の定、私についてきた龍が私の耳元で静かにそう告げた。

 まあそう来るだろうと予測していた。龍はただ私の護衛という目的で付いてきただけだから。

 さすがに、学校の中まで付いてきて、肝試しに参加はしないだろうと思っていた。


 しかし、その龍の発言に、貴子がすぐさま反論した。


「龍さんは私と参加しましょう! 流華はヘンリーと行くから」


 貴子は龍の腕に自分の腕を無理やり絡め、グイッと引き寄せた。

 その行動に驚きを隠せない龍は、貴子の腕から急いで逃れようとする。


「な、何を! 私はここで待ちます」

「えー、なんでですか? 私では、嫌ですか?」


 貴子が甘えるように、龍を上目遣いで見つめた。


「あなたが嫌、というわけではなく……っもし行くのなら、お嬢に付いて行きます」


 その言葉に、貴子はムッとして龍を睨みつけた。


「流華はヘンリーと行くの!

 それに、二人一組だから、どうせあなたの愛しいお嬢とは行けませんからっ」


 べーっと舌を出し、頬を膨らませる貴子。

 龍は困りきった表情でため息をつく。


「龍、貴子と行ってあげて。ね、お願い」


 なぜそこまで龍にこだわるのかわからなかったが、貴子が一生懸命な姿を見て応援をしたくなった私は龍にお願いしてみる。


 龍は一瞬固まって、私のことをじっと見つめた。

 しばらくすると観念した様子で頷く。


「……お嬢の頼みなら、わかりました」


 龍のその一言で、カッとなった様子の貴子が叫んだ。


「何よ! もういいっ! 私帰る」


 貴子は龍のあからさまなその態度に腹を立てたのか、私達に背を向けた。


「ちょ、貴子!」

「流華はヘンリーと行ってきなさい!」


 貴子がビシッと私を指差す。

 その迫力に、私はおずおずと頷くしかなかった。



 しばらくすると、門の前に颯爽と車が現れる。

 黒光りする高級車だ。


 お付きの人が車のドアを開けると、貴子は乱暴に車に乗り込む。

 車内から不機嫌そうな表情の貴子が私に向かって手を振っていた。


 手を振りながらその姿を見送ったあと、私は龍を睨みつける。


「女の子の誘いを断るなんて……サイテー」

「申し訳ありません。どうも、あの方の考えていることが私にはわかりかねます」


 龍は申し訳なさそうに頭を下げる。

 まあ、この男に乙女心を解れという方が無理か。その手のことは、すごく鈍そうだし。


「はじまるみたいだよ」


 私たちのやり取りには参加せず、一人端の方で待っていたヘンリーがぽつりとつぶやいた。


 その言動には、いつもの彼の明るさは一切感じられなかった。


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