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第5話 不思議な夢

 私は自分の心が理解できず、思い悩んでいた。


 すると突然、ヘンリーが私を優しく抱き寄せた。

 背中に回された手に力が込められ、私は驚き、息が止まった。


「流華、君と出逢えて僕は幸せだよ。この幸運に感謝してる。

 僕もおかしいのかな、出会ったばかりなのに、とても愛おしくて。

 ……君と離れたくない」


 なぜかわからないが、そのとき私の頬を涙が伝っていった。

 それは今の私が流した涙というより、誰かの感情。


 誰? あなたは誰なの?


 私の中に、もう一つの感情が存在しているみたいだ。


「何を、しているのですか?」


 背後から、急に恐ろしい声が聞こえた。

 恐る恐る振り返ると、やっぱり彼だった。


「りゅ、龍!」


 声の主は龍。


 恐ろしい形相ぎょうそうをした龍は、ゆっくりと一歩ずつこちらへと歩みを進める。

 彼はおどろおどろしい空気をかもし出していて、体中に負のオーラがまとわりついているようだった。


 こ、これはヤバイ。


「あのね、龍。これは、私がいけないの、私がっ」

「僕が彼女を部屋へ呼んだ。そして抱きしめた」


 ヘンリーは龍に向かって、堂々と言い放った。

 彼の手は私の腰を抱いている。


 そんな挑戦的に言わなくても!

 それに、そんな誤解を招くようなこと言わないで!


 私の心の叫びなど露知らず、ヘンリーは龍を見据えている。


 龍の放つ空気が、どんどんこの世のものとは思えない、とんでもないダークな空気に染まっていく。

 こんな龍見たことない、一体どうしたっていうの?

 なんとかしないと、ヘンリーが殺されるかもしれない!


 私はプチパニックにおちいっていた。


 慌てた私は、咄嗟とっさに龍とヘンリーの間に立ち塞がった。


「龍、落ち着いて!

 これは私が招いたことなの。眠れなくて、私がここにお邪魔したの。

 もういいでしょ? ヘンリーを怒らないであげて」


 私はおもいきり龍に抱きついた。


 なんでこんなことをしたのか、自分でもわからない。

 ただ、龍を止めたい一心だった。


「お、じょう……?」


 ヘンリーのことしか見ていなかった龍が、私へと視線を移す。

 すると、龍は急に正気に戻ったかのように慌て始めた。


「お嬢!? 何してるんですか!」


 私の行動に、龍は相当困惑している様子だった。

 取り乱したようにオロオロしながら、目をクルクルさせ、手をバタバタと動かす。

 龍にしては珍しい態度だ、これならイケる!


「龍がヘンリーに何もしないって約束するなら、離す!」


 交換条件を提示してきた私に、龍は言葉を詰まらせ黙り込んだ。


 私は龍に抱きつきながら、上目遣いで見上げる。

 すると、龍の瞳はあちこち彷徨ったあと、私から視線を逸らした。


「わかりました。……今日のところは、勘弁してあげます」


 真顔で顔を背け続ける龍。


 怒っているのか、何を考えているのかはわからない。

 しかし、すぐに許してくれてよかった。


 ほっと胸を撫でおろす。


「これからも、ヘンリーのことは大目に見てあげて。

 彼は何も知らないところへ来て不安なの。優しくしてあげて」

「…………」


 龍はなんともいえない顔になる。

 これはあれだ、すごく嫌という表情だ。


「もうっ」


 私は龍から離れた。

 龍はどこかほっとしたような表情をした。


 そんなに私にくっつかれているのは苦痛だったのだろうか、失礼な奴だな。





 それから私は二人と別れ、その日は眠りにつくことにした。


 先ほどまであんなに眠れなかったのに、今度はぐっすりと眠れたことに驚きつつ、私は不思議な夢を見た。




 空には見渡す限りの青空が広がっていた。

 太陽の光が優しく降り注いでいる。


 見渡す限りの綺麗な花々に囲まれながら、私は男性に寄り添い座っていた。


 豪華なドレスを身にまとい、私はどこかのお姫様のようだった。

 相手の男性は王子なのだろうか、彼もまた豪華な衣装を身にまとい、気品と風格があった。


 金髪の髪が風に揺れる。

 透明で白い肌が太陽の光に照らされ、美しさを際立たせていた。

 その青く澄んだ瞳が私を捉える。


 彼は私の手を握り、何かを一生懸命に伝えているようだった。

 しかしその内容はわからない。


 それでも、私は幸せに満たされていくような感覚に包まれていくのを感じた。


 彼が私をきつく抱きしめた。


 彼の愛情が伝わる。

 すごく温かくて……この感覚を私はどこかで感じたことが、ある?


 何だっけ? ああ、思い出せない。


 そのまま、私はまどろみの中へといざなわれていき、気づけば意識を手放していた。


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