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第27話 真相

 最近、本当についてない。

 いや、最近というか、青手木と関わってからだな。


 皆勤賞は無くなるし、顔はボコボコになるし、学校では変な噂立つし……。

 あれ?

 全部、僕のせいな気がするけど、まあ気のせいだろ。


 リビングにある椅子の背もたれに顎を乗せながら、ぼんやりと部屋を眺める。


 さてと、何すっかな。


 学校をサボったから、まだ夕方にもなっていない。

 ちなみにバイトも、今日は休むことにした。

 この顔じゃ、ちょっと……な。

 ていうか、働く気になれん。


 でも、時間は持て余し気味だ。

 うーん。

 暇なときって、僕、何してたっけ?

 ……あー、いや、高校に行ってからは、暇なんてことなかったなぁ。

 かと言って、勉強なんてする気も起きない。


 大きくため息をついたときだった。

 視界の端に、バイオリンが映る。


 ……そうだな。

 こんな時はバイオリンだ。

 弾いてる時は何も考えなくてもいいし。


 僕はバイオリンを手にとって、いつもの練習場の公園へと向かったのだった。



 気づいたら、辺りは暗くなっていた。


 公園の電灯が点灯し、その下で演奏していると、なんかスポットライトを浴びてるようで、気分が良かった。

 そろそろ辞め時かなと思って、弾くのを止めると、僕の前に呆然とした表情で月見里さんが立っていた。


 ……あれ? いつの間に?


 夢中で弾いてると、これだからなぁ。

 陶酔してるところを他の人に見られるって、結構恥ずかしいんだよ。


 すると、突然、月見里さんの目から涙が溢れ出してきた。


「え? や、月見里さん?」

「イノリくん……だったんだ」


 うつろな表情で、ポツリとそうつぶやく。


「どうしたの?」

「三年前……聖将学園駅……」


 うつむいたまま、独り言のように言う月見里さん。


 ……ん? 三年前?

 聖将学園駅……って、もしかして。


「あのとき、バイオリン弾いてたのって、イノリくんだったの?」

「……覚えてるの?」

「やっぱり!」


 月見里さんが、僕の手をギュッと握ってくる。


「もう……バカ者! ずっと……探してたんだぞ!」


 目に涙を浮かべながら、微笑む。


 えっと……なにが、なにやら……。


「おかしいって思ったんだよー。顔とか声とかそっくりだったし。ねえ、どうして、嘘ついたの?」

「え? 嘘?」

「私が、バイオリン弾くの? って聞いたとき、いや、バイオリンはやったことないって言ったじゃない。だから、私、別人だったのかなって……」

「……ん? 僕、バイオリンのこと、聞かれたっけ?」

「あー、そのことも忘れてるの? ほら、始業式でさ、列の隣になったとき。初めて話したときのこと、覚えてないの?」

「……」


 いや、覚えてるよ。

 忘れるわけない。

 だってさ、僕だって、やっと見つけたって思ったんだから。


 ただ、そのとき、僕も探りを入れようとして……。

 月見里さんは三年前のこと、覚えてないようだったから、すげーがっかりしたんだよ。


 ……ちょっと、待て。

 話が食い違ってる感があるぞ。


 七ヶ月前にプレイバック!




 四月。

 体育館。始業式。


 男女、一列になって並んでて、ひたすら始業式が早く終わんねーかなって考えていたんだ。

 二年生になった僕は、クラス替えのせいで孤立していた。


 ……まあ、元々、そんなに友達が多いというわけではないけど。


 自慢じゃないが、前のクラスじゃ、休み時間に話せる友達が二人もいたんだぞ。

 とにかく、また一から友達作るの、めんどうだなーって思って何気なく、キョロキョロと。


「こら、よそ見してたら怒られるぞー」


 小声で言われ横を向くと……物凄い可愛い子がいた。


「私、月見里カヤって言うんだ。よろしくね」

「あ……ぼ、僕は千金良イノリ。よ、よろしく」

「イノリ? あはは。変わった名前だねー」

「よく言われるよ」

「ん? あれ?」


 急に真剣な顔で僕を見る月見里さん。


 な、なんでしょう?

 もしかして……品定めですか?

 ……って、あれ?


 僕も思わず、月見里さんの顔を凝視する。


 この人……。


 僕の脳裏に聖将学園駅前の光景が広がる。

 僕が演奏するバイオリンの音色を気持ちよさそうに聞く女の子の顔。


 ……そう。

 まさしく、僕の隣にいる月見里さんだ。間違いない。


 うおっ! やっと見つけた!

 すっげー。テンション上がる!


 この学校に入って、一年間探し続けたけど、見つからなかった。

 なにしろ、この学校の生徒数が、生徒数だ。

 それに……バイトとかしてて、あんまり時間なかったし。


 月見里さんは僕の顔を目を細めたり、角度を変えたりして見ている。


「ねえ、イノリくんって、もしかして……」


 お? やっぱりそうだ!

 月見里さんも覚えてるんだ、僕のこと。


「チェロ好きだったりする?」

「……へ? チェロ?」

「あ、いや、その……やってみようかなーって思ってさ。格好いいじゃん。ただ、それだけ。意味はないよー」


 顔を赤くして、ブンブンと手を振って恥ずかしそうにする月見里さん。


「……い、いや。チェロは弾いたことないなぁ。ごめん」

「そっか。まあ、珍しいからね。アニメのキャラとかだとよく弾いてるんだけどねー。お金持ちのキャラとか」

「……あー、うん。そうだね……」


 え?

 チェロ弾いてるキャラなんていたっけ?


「まあ、とにかく、同じクラスだから、よろしくねー」

「う、うん。よろしく」


 ……そっか。

 月見里さんは、あのときのこと、覚えてないんだ。


 僕は月見里さんに会えた嬉しさと、僕のバイオリンのことを覚えてないことへの落胆を同時に味わったのだった。

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