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第25話 青手木の結婚相手

 青手木家の前。


 恐らく、青手木にもう一度聞いたところで、話してくれないだろう。

 ということで、事情を知ってそうな人に聞こうと思って、やってきたのだ。

 多分、メイド長さんなら、何か知ってるはずと思う。


 ちなみに、学校はサボりました。

 あー、もう、不良、まっしぐらだ。


 なんて、言ってる場合じゃない。


 今回はちゃんと正門から、呼び出しベルを押す。

 しばらくの沈黙の後、明るい声がインターホンから聞こえてくる。


「あら、千金良くんじゃない」


 ほどなくして、門が開き始める。


 おお、すげえ!

 自動だ!


 僕は青手木家の玄関まで続く、石畳を歩く。

 相変わらずデカイ家だよな。

 ただ、その割には、ホント人気ない。

 そのうち、幽霊屋敷って噂が立つんじゃねえか?


 玄関付近まで来たとき、いきなりドアが開く。


「また来てくれたのね! あ、もしかして、愛人になりに来た……とか?」


 ……青手木のお母さんは、相変わらず派手な人だった。

 やたらと露出が激しい、赤いドレス。

 なんか、ハリウッド女優あたりが着てそうなやつ。

 ネックレスも、高そうだし。


「えっと、聞きたいことがあって……」

「なに? 私のスリーサイズ? いいわよ。ベッドの中でゆっくり教えてあげるわ」


 青手木のお母さんが僕の隣に来て、腕を絡ませてくる。


 いやいやいや!

 腕に胸が当たってますって!


「当ててるのよ」


 にこりと妖艶な笑み浮かべる、青手木のお母さん。

 読心術は止めてください。

 ……てか、僕、そんなにわかりやすいですか?

 クラスの奴らにも、色々筒抜けだったし。


「あ、青手木……いや、シオさんは……」

「なーにぃ? シオに会いに来たの? 面白くなーい」


 腕を振りほどこうと力を入れたが、逆にもっと胸を押し付けられてしまった。

 しょうがないので、諦めることにした。


 ……しょうがなくだぞ!

 あくまで!

 べ、別に、胸が気持ちいいからじゃないんだからねっ!


 ……ツンデレ風に言ってみたが、意味ねえな。

 ただのエロガキの言い訳みたいじゃねえかよ。


「あの子なら、帰って来てないわよ。色々、準備とかあるから、帰ってくるのは夜になると思うけど」

「……準備?」

「あら? 聞いてない? 結婚式のよ」

「結婚? 誰の……ですか?」

「シオの」

「だ、誰と……ですか?」


 心臓がバクバクと鳴り始める。

 なんで、こんなに動揺するんだ、僕は?


「私とだよ」


 後ろから声がして、振り向くとそこにいたのは――。


「あら、雄一さん、早いのね。シオと一緒にドレス選ぶんじゃないの?」

「馬鹿馬鹿しい。そんな子供みたいな真似できるか。シオには、好きなものを選ぶように言ってきた」

「冷たいわねー」

「そんなことより、離れたらどうだ? 千金良くんが困ってるだろ」

「妬いてるの? 雄一さんだって、十分、子供っぽいわよ」

「堂々と浮気をするなと言ってるんだ」

「それこそ、雄一さんには言われたくないわ。結婚するなんて、究極の浮気でしょ。しかも、私の娘とよ」

「……まあ、そうだな」


 また、僕がその場にいないかのように、話が進んでいく。


「だったら、私が少しくらい浮気しても、構わないと思うけど?」

「まったく、仕方ないやつだな」

「ちょっと待ってください!」

「ん? どうしたの? 千金良くん。怖い顔して」

「今、青手木が、この人と結婚するって言いませんでしたか?」


 ビシッと雄一(どうしても、さんを付ける気になれない)を指差してやる。

 眉間にシワを寄せ、不快そうな顔をする雄一。


「言ったわよ」

「……は?」

「なに? シオから聞いてない? 今度の日曜に挙式よ」

「ちょ、ちょっと待ってください! その……この人は、あなたの恋人じゃないんですか?」

「恋人だってー。そんな初々しい言い方されると、照れちゃうわよね、雄一さん」

「答えてください!」

「そうだとして、何か問題あるかね?」

「いや、問題も何も、話にならないでしょ! なんで、青手木が自分の母親の恋人と結婚するなんてことになるんですか!」

「この人、株で失敗したの。だからよ」


 ……ホント、話の通じない人たちだ。

 それとも、僕の理解力が足りないんだろうか?


「失敗じゃない。ベッカー商事の株は、必ず回復するはずだ」

「負け惜しみは見苦しいわよ」

「……ふん。どう解釈するかは、お前の勝手だ」

「だから! ちゃんとわかるように説明してください!」

「やーね。千金良くん、怒りっぽいわよ。カルシュウム足りてる?」


 ブチ切れそうだ。

 ホント、青手木の関係者は、僕をイラつかせるのがすこぶる上手いな。


「はいはい。そんなに睨まなくても、説明するわ。えっとね、つまり、雄一さんはお金が必要になったよ。で、家のお金が必要になったわけ」「それが、青手木の結婚と、どういう関係……」

「焦らないの。説明するって言ってるでしょ」

「ふん。餓鬼は、これだから……」


 馬鹿にしたような目で、雄一が見てくる。

 よし、最初に殴るのは、こいつからだな。


「お金が必要だからって、簡単に、はい、どうぞって渡すわけにはいかないのよ。色々、税金がかかっちゃうでしょ。もったいないじゃない」

「……」


 前置きが長いのは我慢しよう。

 また、雄一に馬鹿にされるのは、しゃくにさわるからな。


「で、どうすればいいか。それは、家族になっちゃえばいい。財産は共有になるから簡単に渡せるのよ」

「……お金のやり取りのことはよくわかりませんが、それなら、あなたが結婚すればいいんじゃないですか? てか、それが普通だと思うんですけど」


 確か、青手木のお母さんは結婚してないと言っていた気がする。

 だから、重婚とかにはならないはずだ。


「私、縛られるの、きらーい。結婚なんて冗談じゃないわよ」

「は?」

「だから、シオと結婚させるってわけ。いいアイディアでしょ」


 その言葉で、僕の頭の中は真っ白になった。


 そして、僕の脳裏には、ベッドの中で涙を流していた青手木の寝顔が思う浮かんでいた。

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