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第22話 異変の前兆

 午後の授業はサボった。


 心の整理をつける時間を要求しても、誰も文句は言うまい。

 月見里さんも、僕が帰る時にはさすがに何も言ってこなかった。


 うーん。

 まさか、伝家の宝刀「友達のままでいましょう」を抜かれるとは思わなかった。

 いっそ、フッて欲しかった。一刀両断して欲しかった。

 ということで、僕はひとり寂しく下校しているのだ。


 まあ、いつも一人なんだけどな。


「いっそ、青手木と結婚するか」


 その独り言に、自分で笑ってしまう。


「……」


 一瞬、それも有りかと思った自分に対して、腹立たしさを覚える。

 好きな人にフラれたから、自分を好きと言ってくれた人と付き合う。


 うーん。最低な気がする。

 全然笑えない。

 っていうか、別に青手木に好きって言われたわけじゃないんだけどな。


 ま、どうにでもなれだ。

 青手木から慰謝料を請求されたら素直に払おう。

 一生かけてでも。


 なんか、自暴自棄になってないか? 僕。

 まあ、分からんでもない。


 ……いや、自分の気持ちが分からんでもないって。

 分かるだろ。

 普通。


 でも、今だけはマジでわからんのだ。


「ただいま」


 ドアを開け、玄関に入る。


「……」


 無反応。


 あれ?

 いくら待っても、青手木がやってこないので素直に靴を脱ぎ、廊下を歩く。


 ずーっと突っ立てるのもアホみたいだしな。


 リビングに入る。

 しかし、そこには荒らされた痕跡だけあって、肝心の青手木の姿がなかった。

 僕の部屋にいるかと思って覗いてみたが、やっぱりいない。


 うーん。

 改めて、リビングの状況を見てみる。

 違和感があるのは、その荒らされ具合だ。


 中途半端過ぎる。


 僕が朝、家を出てから、今、早退して帰ってくるまで、約五時間。

 青手木なら、これの倍くらいは荒らしているはずだ。


 買い物にでも行ったか?


 そう考えて、それはないと頭を振る。

 あいつは、無類の不器用で、かつ、バカが付くほど真面目だ。

 一度、一つのことを始めたら、猪突猛進。

 その作業が終わるまで、他のことはしない。

 というより、できない。


 ミステリー。


 青手木が消えた。


「……」


 まあ、いいか。

 逆にいなくてラッキーだ、くらいに考えよう。


 それでなくても、僕はまだ月見里さんにフラレたダメージが抜けてないんだ。

 僕はとりあえず、ベッドの中に潜り込むことにした。

 今日はバイトも休みだし。

 疲れていたのか、僕は朝まで、泥のように眠ったのだった。




 次の日、僕は学校を休んだ。


 まだ、月見里さんと話しをするどころか、まともに顔を見ることもできなさそうだから。

 ……完全に休みぐせがついちまったな。

 皆勤賞が消えてから、タガが外れた感じがする。


 さて、学校を休んだはいいが、何しよう。

 さすがにもう眠くない。というか、寝すぎで少々頭が痛いくらいだ。


 バイトまで十時間くらいあるからなぁ。


 とにかく、リビングをなんとかするか。

 青手木が掃除した後片付けをする。

 でも、そんなに時間は潰せなかった。

 青手木が途中で掃除を放棄したから、それほど散らかっていないのだ。


 ふむ。まいったな。


 取り敢えず、飯を食って、勉強し、バイオリンの練習などをして時間を潰した。


 バイトの時間になり、家を出て、十二時すぎに帰宅する。


 家の中は真っ暗だった。

 リビングも、僕が出ていった時と何も変わらない状態。


 なんか調子狂うよなぁ。


 椅子に座って、リビングを眺める。


 リビングってこんなに広かったっけ?

 なんて、どうでもいいことをぼんやりと思う。


 ……あれ?

 考えてみたら、一日、青手木の顔を見なかったなんて、久しぶりのことじゃないのか?


 妙な話だ。


 僕が結婚届けに名前を書く前は、青手木の顔なんて、一年で数回しか見なかったのに。


 風邪でもひいたとか。

 うーん。

 それでも、あいつなら普通に来そうだけどなぁ。


 あ、もしかしたら、メイド長さんが止めたのかも。


 それなら、なんとなくありえる気がした。


 電話くらいしろよ。

 それこそ、あいつがよく言う「妻として当たり前のこと」だと思うぞ。


 まあ、いい。

 しょうがないから、明日、見舞いでも行ってやるか。


 そう考えて、自分を納得させ、僕は眠りについた。

 事態は急展開を迎えていたのに。


 そう。

 僕はのんきに寝てしまっていたのだった。

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