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第20話 告白

 僕は昼休みが始まるとすぐに第二理科室へ向かった。


 昼飯は食べるのを諦めた。

 さすがに緊張して、ご飯が喉を通らない。

 例え、青手木が作った弁当じゃなくてもだ。


 午前中の授業は、全然頭に入らなかった。

 というか、なんの科目だったかすら、思い出せない有様だ。

 月見里さんを意識してしまって、チラッと見ると、月見里さんと目が合って、慌てて月見里さんが目を逸らすということが、十回くらいあった。


 第二理科室は、月見里さんの言う通り誰もいない。

 しかも、学校の端っこにあるということで、廊下から生徒の声とかも聞こえてこないくらい本当に静かだった。


 うーん。これはこれで緊張するなぁ。


 でも、うるさい場所で告白して、「好きです!」「え? なに? 聞こえなかった。もう一回言って」っていうのは避けたい。


 間抜けだし、精神的にもキツイ。


 そんなことを考えていると、ガラガラとドアが開いた。


 まさか! 誰かの昼寝の場所にされてるのか!


 ……と思ったが、ドアを開けたのは月見里さんだった。

 まだ、昼休みになって十分も経っていない。


「えっへっへ。なーんか、お昼ご飯どころじゃなくってさー」


 ポリポリと頬を掻きながら、第二理科室に入ってくる月見里さん。


「……で? お話ってなにかな?」


 軽い口調とは裏腹に、真剣な眼差し。

 緊張してるみたいだった。

 まあ、いきなり昼休みに、異性に呼び出されたんだからな。


 僕だって、緊張するさ。


「あ、うん……」


 目をつぶり、深呼吸をする。

 例の緊張のほぐし方ってやつだ。


「月見里さん!」

「は、はいぃー」


 月見里さんの背筋がピンと伸びる。

 お互い見つめ合って、沈黙が続く。

 言い出そうとしても、なかなか口から出てこない。

 たった一言なのに言えない。

 何回も頭の中でシュミレーションしただろ。


 行けって!


「……」

「……」


 沈黙。


 教室内は一切の音が存在しないのに、僕の耳には心臓の音が半端なく騒ぎ立てている。

 昨日、青手木と一緒に寝たときくらい、心臓が混乱していた。


 ……青手木。


 ふと、あいつの顔が頭に浮かんだ。

 「寂しいのは嫌」とつぶやいた青手木。


 不思議と心が落ち着いた。


 大丈夫。今なら言える。

 僕は顔を上げ、一歩踏み出す。


「月見里さん……僕!」

「無理!」

「告白前にフラレた!」


 いや、今言おうと思ってたんだから、もうちょっと待ってくれよ!

 なんか、僕、すげー格好悪いじゃん。


「あ、ごめんごめん。つい、張り詰めた空気に耐えられなくてさぁ。ボケちゃった」


 てへへ、と笑いながら、頭をポリポリと掻く月見里さん。


 え? あ、ボケ?

 うーん……洒落になってないよ。それ


 月見里さんは大きく息を吸ってから、意を決したように僕を見る。


「聞かせて。今度は真面目に聞くから」


 先ほどの緩んだ空気が一気に張り詰める。

 月見里さんの真剣な眼差し。

 再び、心臓の鼓動が高鳴っていく。


 えーい。もう、どうにでもなれ!


「月見里さんが好きだ!」

「ありがと」

「……」

「……」

「……え?」

「ん?」

「それだけ?」

「なにが?」

「いや、僕、告白したんだけど」

「うん」

「……?」

「?」


 月見里さんは首を傾げる。


 もちろん僕もだ。


 なんか、会話が噛み合っていない感じがする。

 愛の告白をして、「ありがと」って……。どう受け取ればいいんだ?


「えっと……。それって、付き合ってもらえるってことで……いいのかな?」

「……え? ええええ! ちょ、ちょっと! ど、どど、どうしてそうなるの!」


 いきなり月見里さんの顔が真っ赤に染まる。


 ……あれ? どういうことだ?


 アタフタする月見里さんを尻目に、僕は考える。

 どうやら、告白したのに月見里さんは、それを告白とは受け取ってない感じだ。


 ……あ、そっか。わかった。


 告白は告白でも、月見里さんは違うニュアンスで受け取ったのだ。

 つまり、隠し事を打ち明けるみたいな。

 実は、僕は妖怪なんですとか、0点のテスト用紙を机の中に隠してますとか、僕が犯人でしたとか、そんな感じの打ち明け話。


 恐らく、月見里さんは、僕が友達としてというか人間として好きだと宣言させたという感覚だったんだろう。

 恋とかそんな感じじゃなくて。


 いやいやいや。普通、わざわざ呼び出して、そんな宣言しないだろう。

 まあ、そんなトボけたとこも、可愛くていいんだけど。


「で、でもさ! あのさ……」

 月見里さんがモジモジと両手の指を絡ませながら、チラリと僕を見る。頬と耳が真っ赤だ。


 うわー。ヤベエ。油断したら抱きついちゃいそうだ。


「イノリくんには、青手木さんがいるでしょ?」

「……あ」

 そっか。月見里さんは、僕と青手木が付き合ってるって勘違いしてるんだった。


 あー。なにやってるんだ、僕は。


 そもそもの目的が違っていることに、今更ながら気づく。


 そう。僕は月見里さんの誤解を解きたかっただけだったのに、勢いに任せて告白してしまった。

 なんか、最近、こんなことばっかだな。空回り知ってるっていうか、無駄骨折ってるというか……。


「実はね、青手木とは……」


 僕は今まであったことを月見里さんに説明する。

 寝ぼけて婚姻届にサインと捺印したことや、嫌われるために遊園地に行ったこと、この数日にあったことを『告白』したのだった。


 もちろん、青手木家に侵入したことや、一緒に寝たことは省略して話した。

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