うん。わかってた。
まあ、そうじゃないかなって思ってたよ。
だから、別にショックじゃねーよ。
ホントに。 いや、マジで……。
三階へとたどり着くと、そこには二階と同じような光景が広がっていた。
二階と三階の写真を撮って、並べられたら、どっちがどっちかの判別もつかないだろう。
ああ……視界が赤く歪む。
いや、泣いてねーよ。これは目から出る血の汗だ。
月見里さん、再び、僕に力を!
必死に月見里さんの顔を思い出そうとするが、その顔すら歪む。
そういえば、月見里さんの写真持ってねーなぁ。
デジカメは持ってないけど、今度、携帯で隠し撮りしよう。
それを待ち受けにすれば、ご利益あること間違いなしだ。
今のような絶望したときも、前を向て歩ける。
僕は本日二度目の涙を拭い、現実へと向き合う。
今度は二階の時と逆の、右側のドアノブに手をかける。
「……ん?」
何度、ドアノブを回そうとしても、ガンとして回ろうとしない。
……いやいやいや。
ふざけんなよ! マジで!
ここまで来て、それはないだろう。
初めて鍵がかかっている部屋を見つけ、僕は確信した。
ここが青手木の部屋だ。
くそう。なんてやつだ。
自分の家の癖に鍵をかけるなんて。
そんな悪い子を嫁にもったつもりはありません!
てか、そんなにメイド達が信用できないのか?
……まさか、僕が忍び込むことを読んでた、とかはないよな。
思わず後ろを見る。
これで青手木が立っていたら、完全にホラーだ。
何度もドアノブを回すが、ガチャガチャと音を立てるだけで、ドアは僕の進行を阻む。
しょうがない。かくなる上は。
「だりゃ!」
思い切り、ドアに体当たりする。
テレビドラマで、こうやって体当たりでドアをこじ開けるなんてシーンを思い出し、早速試したわけだが……。
痛え。肩の骨が外れそうだ。
が、ここで諦めるわけにはかない。
僕はもう一度、ドアに体当たりをする。
「おっ!」
ドアからメリっというか、ベキっというか、そんな音が聞こえた。
いける!
僕は少し下がってから、勢いをつけてドアへと走ろうとした、その時だった。
「あら、何してるの?」
横から声をかけられる。
「……」
しまったーーーーー!
完全に油断してた。僕は今、不法侵入の最中だったのだ。
こんなに大きな音をたてりゃ、そりゃ、誰かくるよな。
ドッと汗が吹き出す。
動きを止め、声のした方に顔を向けると、首の骨がギギギと鈍い音を立てる。
一言で言うと、派手な女の人が立っていた。
金色で、肩まであるウェーブのかかった髪。化粧は薄い感じだけど、妙に唇が赤い。
それがなんか、艶かしい感じがする。
格好も、胸元がパックリと開いた袖のない白いシャツに、黒いミニスカート。
まるで外人のような、物凄いプロポーション。
うわー。なんか、こういうのリアルで見るの、初めてだよ。
ボン、キュ、ボンってやつか。
……なんか、この言い方古いけど、まさしくそんな感じだ。
ただ、よく見ると、顔は思い切り日本人だし、髪も染めているのがわかる。
歳は三十代半ばくらいか……?
「……ん?」
この女の人、どっかで見たことある気がするな。
……ああ、青手木に似てるんだ。
ということは……。
「青手木のお母さんですか?」
「あら、なに? シオの知り合い?」
まるで信じられないようなものを見るような目を向けてくる。
「もしかして、友達だったりするのかしら?」
「……ええ、まあ」
婚約者とも言えるわけでもないし、ましてや、侵入者だとも言えないので、僕は素直にうなずくことにした。
「へえ、あの子と友達になれる人間なんか、いるのね」
興味津々の顔で、ジロジロと見てくる。
うお、顔が近い近い。やべ、ドキドキするから、離れてくれ。
「珍しい生物もいるものね。俄然興味が湧いちゃったわ。せっかくだから、一緒にお茶でもしましょう」
青手木のお母さんは、いきなり僕の手を掴んで歩き出す。
さすが青手木の親。性格は全然違うが、この強引なところはそっくりだ。
ここで手を振り払うのも変に思われるしな。
諦めて、素直についていくことにする。
最近、こんなのばっかだな。
徐々に遠ざかっていく、青手木の部屋を肩ごしに見ながら、僕は大きくため息をついたのだった。