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第14話 青手木の母親

 うん。わかってた。

 まあ、そうじゃないかなって思ってたよ。

 だから、別にショックじゃねーよ。

 ホントに。 いや、マジで……。


 三階へとたどり着くと、そこには二階と同じような光景が広がっていた。

 二階と三階の写真を撮って、並べられたら、どっちがどっちかの判別もつかないだろう。


 ああ……視界が赤く歪む。

 いや、泣いてねーよ。これは目から出る血の汗だ。


 月見里さん、再び、僕に力を!


 必死に月見里さんの顔を思い出そうとするが、その顔すら歪む。


 そういえば、月見里さんの写真持ってねーなぁ。


 デジカメは持ってないけど、今度、携帯で隠し撮りしよう。

 それを待ち受けにすれば、ご利益あること間違いなしだ。

 今のような絶望したときも、前を向て歩ける。


 僕は本日二度目の涙を拭い、現実へと向き合う。

 今度は二階の時と逆の、右側のドアノブに手をかける。


「……ん?」


 何度、ドアノブを回そうとしても、ガンとして回ろうとしない。


 ……いやいやいや。


 ふざけんなよ! マジで!

 ここまで来て、それはないだろう。


 初めて鍵がかかっている部屋を見つけ、僕は確信した。

 ここが青手木の部屋だ。


 くそう。なんてやつだ。

 自分の家の癖に鍵をかけるなんて。

 そんな悪い子を嫁にもったつもりはありません!


 てか、そんなにメイド達が信用できないのか?

 ……まさか、僕が忍び込むことを読んでた、とかはないよな。


 思わず後ろを見る。

 これで青手木が立っていたら、完全にホラーだ。


 何度もドアノブを回すが、ガチャガチャと音を立てるだけで、ドアは僕の進行を阻む。


 しょうがない。かくなる上は。


「だりゃ!」


 思い切り、ドアに体当たりする。

 テレビドラマで、こうやって体当たりでドアをこじ開けるなんてシーンを思い出し、早速試したわけだが……。


 痛え。肩の骨が外れそうだ。


 が、ここで諦めるわけにはかない。

 僕はもう一度、ドアに体当たりをする。


「おっ!」


 ドアからメリっというか、ベキっというか、そんな音が聞こえた。

 いける!

 僕は少し下がってから、勢いをつけてドアへと走ろうとした、その時だった。


「あら、何してるの?」

 横から声をかけられる。

「……」


 しまったーーーーー!

 完全に油断してた。僕は今、不法侵入の最中だったのだ。


 こんなに大きな音をたてりゃ、そりゃ、誰かくるよな。


 ドッと汗が吹き出す。

 動きを止め、声のした方に顔を向けると、首の骨がギギギと鈍い音を立てる。


 一言で言うと、派手な女の人が立っていた。

 金色で、肩まであるウェーブのかかった髪。化粧は薄い感じだけど、妙に唇が赤い。

 それがなんか、艶かしい感じがする。


 格好も、胸元がパックリと開いた袖のない白いシャツに、黒いミニスカート。

 まるで外人のような、物凄いプロポーション。


 うわー。なんか、こういうのリアルで見るの、初めてだよ。

 ボン、キュ、ボンってやつか。

 ……なんか、この言い方古いけど、まさしくそんな感じだ。


 ただ、よく見ると、顔は思い切り日本人だし、髪も染めているのがわかる。


 歳は三十代半ばくらいか……?


「……ん?」

 この女の人、どっかで見たことある気がするな。

 ……ああ、青手木に似てるんだ。

 ということは……。


「青手木のお母さんですか?」

「あら、なに? シオの知り合い?」


 まるで信じられないようなものを見るような目を向けてくる。


「もしかして、友達だったりするのかしら?」

「……ええ、まあ」


 婚約者とも言えるわけでもないし、ましてや、侵入者だとも言えないので、僕は素直にうなずくことにした。


「へえ、あの子と友達になれる人間なんか、いるのね」


 興味津々の顔で、ジロジロと見てくる。

 うお、顔が近い近い。やべ、ドキドキするから、離れてくれ。


「珍しい生物もいるものね。俄然興味が湧いちゃったわ。せっかくだから、一緒にお茶でもしましょう」


 青手木のお母さんは、いきなり僕の手を掴んで歩き出す。

 さすが青手木の親。性格は全然違うが、この強引なところはそっくりだ。

 ここで手を振り払うのも変に思われるしな。

 諦めて、素直についていくことにする。


 最近、こんなのばっかだな。


 徐々に遠ざかっていく、青手木の部屋を肩ごしに見ながら、僕は大きくため息をついたのだった。

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