陽炎との戦いは、炎と刃が交錯する壮絶な激闘だった。廃墟と化した戦場で、零夜と仲間たちは任務への強い意志を胸に、一切の妥協なく立ち向かっていた。刈谷を傷つけた陽炎を倒すため、彼らの闘志は燃え盛っていた。
「ここから先は……誰にも止められないぜ!」
マツリが頭に生えた鋭い角をきらめかせ、刀を振り上げる。彼女の瞳は竜の如く燃え、背後で揺れる鱗模様のオーラが刀と盾を包む。瞬間、刀は海賊の湾刀に、盾はドクロマークの三角盾に変形――これが「パイレーツスタイル」だ。素早さと攻撃力を極限まで高め、水属性の斬撃を放つこの装備は、陽炎の投げる苦無を軽々と弾き飛ばす。
「そのまま……アクアスラッシュ!」
湾刀から放たれた水の刃が、陽炎を切り裂く勢いで襲いかかる。水しぶきが舞い、床に鋭い斬痕を刻む。
「更に援護攻撃!」
トワが長い金髪を風になびかせ、弓を引き絞る。彼女の鋭い視線が陽炎を捉え、放たれた矢は風を切り、陽炎の肩に突き刺さる。血が飛び散り、陽炎が一瞬よろめいた。
「私も負けません!」
「ええ! ここからが本番よ!」
「「アックスウェーブ!」」
ベルとエイリーンが同時に気合いを入れ、それぞれのロングアックスを振り下ろす。すると地面が震え始め、衝撃波が床を砕きながら陽炎を吹き飛ばした。
アックスウェーブは地属性の技で、広範囲に衝撃波を放てるが、今回は前方に絞ったことで仲間への誤爆を防いだ。ベルは仲間を気遣うように一瞥し、エイリーンは汗を拭って安堵のため息をつく。
「後に続け!」
「任せて! アクアショット!」
「ウチもやる! アローショット!」
「ぐほっ!」
ヤツフサが鋭い遠吠えで号令をかける。ふわふさの狼耳がピンと立ち、尻尾が戦意を表すように揺れる。日和がアクアイーグルの銃口から、水の魔法弾を連射。彼女の集中した表情が、普段の穏やかさとは対照的な強さを放つ。倫子も召喚した弓から矢を連続で放ち、陽炎に畳み掛ける。二人の攻撃が陽炎を追い詰め、彼は片膝をついて苦悶の声を漏らす。
「今や、零夜君!」
「任せてください!」
倫子の鋭い声に、零夜が跳躍する。彼の愛刀・村雨が水のオーラに包まれ、青く輝く刃が空気を切り裂く。刈谷を傷つけた怒りが、零夜の技にさらなる力を与えていた。
「
「ぐわあああああ!!」
一閃。巨大な水の竜が咆哮し、陽炎を飲み込む。轟音とともに戦場が揺れ、水の奔流が陽炎の身体を切り裂く。陽炎の断末魔が響き、彼は光の粒となって消滅した。地面には金貨が散乱し、その上に陽炎のスカーフが寂しく残されていた。
零夜は村雨をバングルに収め、冷たく吐き捨てる。
「子供に手を出して変装した。その選択をしなければこんな事にはならなかったかもな」
倫子たちは静かに頷き、戦闘態勢を解除する。その様子を見たヒカリが零夜の元へと駆け寄り、椿が日和に飛びついてムギュッと抱きつく。二人の優しさの温もりによって、戦いの緊張が一瞬解けた。
「まさか零夜君がここまで成長するなんてね……」
「日頃の訓練の賜物ですからね」
「やるじゃない、日和! 銃まで使えるとは驚いたわ!」
「えへへ……」
ヒカリは零夜の成長に目を細め、彼は控えめに笑う。あの逃走ロワイアルで泣いていた彼が、ここまで成長しているとは思わなかったのだろう。
椿は日和を抱きしめながら褒めちぎり、日和は照れながら応える。その様子を見ていた倫子たちも、微笑みながら見守っていた。
「まぁ、悪くなかったんじゃない?」
アイリンが「ふんっ」と鼻を鳴らし、猫耳をわずかに動かす。ぶっきらぼうに言うが、彼女の尻尾の先が小さく揺れるのは隠せなかった。
しかし、ヤツフサが真剣な声で皆を現実に引き戻す。
「今回の戦いは始まったばかりだ。しかし刈谷がどうなるか気がかりだな」
陽炎に重傷を負わされた刈谷の話題に、零夜たちの表情が曇る。彼は病院に運ばれたが、命の危機にあるかもしれない。任務を放棄して駆けつけたい気持ちが全員にあったが、悪鬼の跋扈を許すわけにはいかなかった。
「刈谷は陽炎によってこの様な事態になってしまったからな……今頃彼は苦しんでいるに違いない……」
「でも、必ず任務を果たしましょう! これ以上被害者を出さない為にも、悪鬼の奴らを本格的に倒す。それが私たちにできる唯一の役目です!」
エイリーンが力強く叫び、皆の迷いを吹き飛ばしながら決意を伝える。彼女のドワーフらしい頑強な体躯が、決意の象徴のように見えた。
エイリーンの姿を見た零夜たちも頷き、次の行動に移る。迷いが吹き飛んだ以上、立ち止まる理由にはいかないのだ。
「そうね。ここで放ってしまったら刈谷の行為が無駄になってしまうし、あんな奴等の好き勝手にさせないんだから!」
「それを無駄にする理由にはいかない以上、私達でやるしかないからね。じゃあ、扉を出現させるから」
エヴァ銀色の尻尾を揺らし、鋭い爪を握り締める。彼女の狼耳がピンと立ち、冷静な瞳が任務の重要性を物語る。
その様子を見たトワが床に手を置き、魔術を唱え始める。この辺りに地下へと続く扉があるが、それを召喚するには魔術が必要となっている。
「地下への隠された扉よ、今こそ出現せよ!」
地面が鳴り、巨大な扉が現れる。古の紋様が刻まれた重厚な扉は、地下迷宮の危険と神秘を予感させた。零夜たちは息を呑み、冷や汗が頬を伝う。
「これが地下へ続く扉か……」
「ようやく始まるみたいね……」
マツリとアイリンが扉を睨む。アイリンの猫尻尾がピンと立ち、緊張を隠しきれなかった。零夜、倫子、トワの三人は懐からメダルを取り出す――三つの謎を解いた証であり、扉を開く鍵だ。
「今からメダルをこの扉に向けてください。そうすれば扉が開かれます」
「うん」
「任せて」
零夜、倫子、トワがメダルを嵌め込む。鈍い音とともに鍵が外れ、扉がゆっくり開く。暗闇が広がる地下迷宮の入口から、冷たい風が吹き抜け、かすかな獣の咆哮が聞こえた。
「地下迷宮の入口が見えたけど、真っ暗で怖いわね……」
「見ているだけで恐怖を感じるわね……」
倫子と日和が冷や汗を流し、ヒカリと椿は震えながら互いの手を握る。冒険初心者の二人にとって、この暗闇は恐怖そのものだった。
「大丈夫? 無理しない方が良いんじゃ……」
「怖くないから大丈夫よ……ここで引いたらアイドルとしての恥だから!」
日和が椿を気遣うが、椿は震えながらも気丈に振る舞う。だが、ヒカリはすでに零夜にしがみつき、甘えん坊状態になっていた。
「ヒカリさん……」
「だって怖いんだもん。でも、こうすれば大丈夫だから」
「あなたは何を考えているのですか……」
零夜がヒカリの行動にため息をつく中、エヴァがヒカリを片手で持ち上げる。彼女の銀色の狼尻尾が静かに揺れ、冷静な態度がチームを落ち着かせる。
「はーい。甘えん坊は止めましょうね」
「何するのよ! 離しなさい!」
ヒカリがじたばたするが、エヴァの真顔に押されて渋々降りる。仲間たちのやり取りに一瞬笑みがこぼれるが、緊張感はすぐに戻る。
「ともかくさっさと中に入りますよ! 時間が惜しいですから!」
「そうだな。急いで中に入るぞ!」
「「「はーい!」」」
零夜とヤツフサの号令で、全員が扉の中へ進む。暗闇が彼らを飲み込む中、突然、背後から叫び声が響いた。
「あっ、その扉を閉じるの待って! 私も中に入りたいの!」
振り向くと、ピンクのデニムパンツと白い長袖シャツ、スカジャンを着た女性がハンティングマンに追われ、必死に走ってくる。薄茶色のポニーテールが揺れ、へそ出しのスタイルが彼女の軽快さを際立たせる。彼女の表情は恐怖に歪んでいたが、諦めない気持ちが心の底から強く感じられていた。
「ええっ⁉ じゃあ、早く入ってください!」
「サンキュー!」
零夜の合図で女性が飛び込み、扉が閉まる。直後、扉は消滅し、ハンティングマンは空しく立ち尽くした。しかし彼は回れ右をしたと同時に、次の逃走者を捕まえに向かい出した。